事業会社(金融機関除く)の年金基金で唯一、機関投資家の行動原則「スチュワードシップ・コード」を受け入れているのが国内警備業界トップのセコムだ。20年前から自社の年金改革に取り組み、日本株も積極的に使う攻めの運用は企業統治(ガバナンス)を重視する姿勢の中で生まれた。

  セコム企業年金基金の八木博一非常勤顧問はインタビューで、金融危機が度々起こる中、「オーソドックスな資産運用では年金制度を守れない実感が強くあった。企業年金は短期志向にアクセルを踏むようなことをずっとしてきたが、いくらやっても未来は開けない」と指摘。年金基金は、「投資を通じ環境や社会に影響力を行使し得る立場にある。何もしないということは、本来の役割を放棄している」と述べた。

八木非常勤顧問
八木非常勤顧問
Photographer: Takaaki Iwabu/Bloomberg

  セコムでは1997年に経理部門出身の八木氏が基金の事務局長に就任、運用の長期持続性を高めるESG(環境・社会・ガバナンス)投資の必要性に気づき、特にボラティリティを下げる要因としてガバナンスに注目し、独自のポートフォリオ構築を運用会社に委託した。現在は同社年金のポートフォリオの40%を日本株が占め、そのほとんどがアクティブ運用だ。

  格付投資情報センター(R&I)によると、同社顧客の厚生年金や企業年金など約100基金の株式資産比率は3月末時点で25%、債券は約40%。株式のうち日本株は11%で、アクティブ運用の比率は7割。「上場企業の年金が積極的に日本株市場から身を引いていくことは、自分の首を絞めることに他ならない」と、八木氏は日本株投資にこだわっている。

  セコム年金基金の資産総額は3月末時点で903億円。「1年間で支払う年金と一時金の総給付額に対し、ほぼ同じ額がインカム収益で得られる」と八木氏は説明。主要な2つのESGファンドはTOPIXを過去5年間アウトパフォームしており、「ガバナンスの良い企業は平均的にボラティリティが下がる傾向にある。イベントやニュースで市場が暗くなっても、早い段階で元の水準に戻ってくるという回帰性がかなり力強い」と言う。

  金融庁は2014年、投資と対話を通じ企業の持続的成長を促すスチュワードシップ・コードを策定。制度開始から3年が経過した現在、金融機関以外の事業会社の年金基金で受け入れを表明しているのは直後に受け入れたセコム以外に見当たらない。コード受け入れ促進のため、厚生労働省や企業年金連合会は検討会を立ち上げ、3月に報告書を発表。受け入れが進まない背景には人材不足の問題などが挙げられている。流通大手のイオンはコード受け入れについてまだ情報収集の段階とし、総合家電大手のパナソニックは現在基金で対応を検討中と回答した。

  野村総合研究所の堀江貞之上席研究員は、企業年金担当者の多くは「『八木さんは異例』で、同じ事はできないと考えている」と話す。長期続投した八木氏に対し、3-4年で人事異動があるのが通常の企業慣習だ。「運用会社も長期視点になれない。結果的に短期の話ばかりというネガティブサイクルに陥り、母体企業の意識の問題だ」と堀江氏はみている。

  また、企業年金の9割以上は負債に対する資産の比率が100を超すなど財務が健全な上、期待リターンを下げてきた影響もあり、積極的にリスクを取る必要がない事情もある。野村総研によると、企業年金基金の総残高は16年3月末時点で97兆円。

  議決権行使と行使結果の公表に明確な方針を持たなければならないスチュワードシップ・コードでは、事業会社と年金基金が利益相反になることもあり、コード受け入れが進まない要因の一つだ。会社役員育成機構のニコラス・ベネシュ氏は、経営陣は積極的なエンゲージメントを行うことにより、株主総会でかえって否定的な反応を受けることを恐れていると言う。

  セコムの日本株運用はファンドの一部で関連会社を除外し、10ー30銘柄でポートフォリオを構築、積極的に運用会社の議決権行使にも意見する。企業年金として、運用会社に適切なエンゲージメントを促す役割があるとの考えからだ。ことし3月までの1年間にパッシブ、アクティブ両ファンドで2269社に対し議決権を行使し、反対比率は全体の19%となった。

  上場会社の企業統治指針「コーポレートガバナンス・コード」に母体企業が賛同する一方、年金基金がスチュワードシップ・コードを受け入れていないのは、「実は会社全体にガバナンスが浸透していないことを自ら告白しているようなものだ」と八木氏は厳しい視線を送っている。

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