世界のソーラーカーレースでは畳のように大きなパネルを載せた車が疾走する。運転席が小さく、一般車とは大きくデザインが違う。パネル表面が高温になると発電効率が落ちるため、レースでは休憩地点で水を掛けて冷やすこともある。無尽蔵の太陽光エネルギーで走るソーラーカーは夢の車と期待されてきたが、2017年の今も実用化への道筋は見通せていない。

  「究極は確かにソーラーパネルだけで走れる車をつくりたい」-。トヨタ自動車が2月に国内発売した新型プリウスのプラグインハイブリッド車(PHV)の開発を担当した金子将一氏はこう話す。オプションで車体の屋根にパネルを設置し、太陽光エネルギーを走行に利用できる世界初の量産車だが、太陽光のみで走行可能な距離は1日最長6キロメートル程度にとどまる。日照時間に左右されるため東京では約5キロという。今後はパネル設置に適した専用設計にして航続距離を10キロ程度にすることが可能との見通しを示している。

Solar panels are seen on the roof of Toyota Motor Corp.'s new Prius plug-in hybrid vehicles (PHV), known as Prius Prime in the U.S., at its sales launch at the National Museum of Emerging Science and Innovation in Tokyo, Japan, on Wednesday, Feb. 15, 2017. The Prius PHV/Prime is made in Japan and scheduled to begin sales in Europe and U.K. in March. Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

Solar panels are seen on the roof of Toyota Motor Corp.'s new Prius plug-in hybrid vehicles (PHV), known as Prius Prime in the U.S., at its sales launch at the National Museum of Emerging Science and Innovation in Tokyo, Japan, on Wednesday, Feb. 15, 2017. The Prius PHV/Prime is made in Japan and scheduled to begin sales in Europe and U.K. in March. Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  トヨタは新車の二酸化炭素(CO2)排出量を2050年に10年比で90%削減する目標を掲げ、次世代車の開発や普及に取り組んでいる。金子氏は、今回の量産車への太陽光パネル搭載は車の動力に太陽エネルギーを使う技術に向けて「第一歩を踏み出した意義がある」と語った。

  新型プリウスPHVには太陽光パネルが屋根の曲面をなぞるように設置され、レース用とは異なり、乗用車らしい車体の形状を保っている。2月の発表会でトヨタの吉田守孝専務は「流麗なルーフ」へのパネル設置を苦労した点として挙げた。

  現状のソーラーカーといえばレースで使うのが主流だ。レース車では太陽光エネルギーだけで時速100キロメートル程度で数千キロの走破が可能になっている。東海大学のソーラーカーチームは主要大会で優勝するなど世界トップクラスで、新型プリウスPHVと同じパナソニック製の太陽光パネルを使用している。チームを率いる工学部の木村英樹教授は量産車への搭載について「だいぶわれわれの実績はフィードバックされたかなと思っている」と評価した。

  世界的なレースの主な目的は電気自動車(EV)技術の発展への貢献だが、高速化のため軽量で空気抵抗の少ない平たい形状が主流で、実用車とかけ離れた形に進化している。天候に大きく左右される太陽光の弱点もある。木村教授はバッテリーをうまく使うことで曇っていても「それなりにスピードが出せる」というが、太陽が終日出ていない日は走行できず、「実用化は当分ないと思っている」と語った。

「夢を形へ」

  新型プリウスPHVでは発売後1カ月で1万2500台を受注し、うち約1割の1150台がオプションで太陽光発電を搭載していた。太陽光パネルを供給するパナソニックの吉田和弘ビジネスユニット長は「もともと聞いていた数字から倍くらいは増えている」と手応えを感じている。住宅用を中心としてきた同社にとって車載事業への参入は「夢を自分たちの形にした」ともいえることで、「もうかる、もうからない」よりも「純粋に車として動かしたかった」との強い思いがある。

  車載に際してトヨタからの要求は軽量化に加え、屋根上に固定する住宅用と異なり、振動に強くすることだった。走行時に日陰となる頻度が増えることを想定し、一部が影になっても全体の出力が落ちないよう配線構造やレイアウトも工夫した。パナソニック技術開発部の岡本真吾部長は、違いを全て洗い出して「一から開発しているところはたくさんある」と明かす。

  とりわけ、車体屋根の曲面に合わせて加工する技術が開発の鍵だった。パナソニックは住宅用の平面加工の装置では対応できず、柔軟な素材で挟み込んで熱をかけるという新しい装置を導入した。新技術では極端な曲面でなければどのような曲面にも加工可能で、今後はさまざまな形状の車の屋根に搭載することも視野に入れている。

  トヨタは09年の先代プリウスPHVでも太陽光発電を駆動用に使えないかと試みたものの、実現しなかった。今回はパネルの性能向上に加え、運転席と助手席の間の部分の下に太陽光発電専用のバッテリーを設置して駆動用にも電力を使うことができるようになった。

一歩前進も、まだこれからの技術

  各国が環境規制を強化する流れの中、自動車メーカーは環境対応車の開発や普及に向けた取り組みを加速させている。トヨタの金子氏は新型プリウスPHVの太陽光発電について「非常に小さな電力ではあるが、完全に捨てているエネルギーを車に取り込む事ができるという画期的なシステム」と強調する。

  新型プリウスPHVの価格は326万1600円からで、オプションの太陽光発電システムは28万800円となっている。トヨタの公表資料で、日本各地の日照条件から推定した航続距離は1日平均2.9キロメートル、最大で6.1キロを走行可能と踏まえると、元を取ろうと考えるか、わずかでも太陽光による走行を画期的と捉えるかで評価は分かれる。

  SBI証券の遠藤功治アナリストは、EVであっても電気を発電所でつくる過程でCO2を排出するため、太陽光の活用はいわゆる「well to wheel」(油井から車輪)の観点で一歩前進とみる。一方、太陽光発電システムでは効率を上げて航続可能距離を拡大することが課題であり、普及に向けたコスト削減などを考えると、「まだまだこれからの技術という認識だ」とも指摘した。

  遠藤氏はまた、現状で太陽光パネルは重量がかさんで車両全体が重くなり、かえって燃費が悪くなってしまう矛盾もあると語った。

海外メーカーにも搭載の動き

  トヨタは新型プリウスPHVの太陽光パネルについて、日本と欧州向けにオプションで搭載可能としているが、北米では需要がないとして設定していない。しかし、太陽光エネルギーの活用は日本など一部の動きとも言い切れない。

  ブルームバーグ・ニューエナジー・ファイナンスのアナリスト、コリン・マッケラッチャー氏は、太陽光パネル設置のメリットは「限定的な状況が続く」ものの、今後特に高級なEVでオプションとして、より多く搭載されるようになるとみている。EVメーカーの米テスラが新型セダン「モデル3」にオプションとして設置する可能性があることを示唆しているとも述べた。

  街中でソーラーカーが見られるようになるためには、不便な部分があっても我慢しなければならない「未来の車」から、多くの人が地球環境への貢献などメリットを感じて購入してくれる車になる必要がある。パナソニックの吉田氏は、「まだまだ道は簡単ではない」としながらも、トヨタの他の車種や他社の車も含め将来は全ての車に太陽光パネルを搭載する目標を掲げている。

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