日本銀行の異次元緩和の出口について関心が高まる中、黒田東彦総裁は日銀が赤字に陥る可能性に言及する一方で、中央銀行には通貨発行益があることを理由に、信認が失われることはないという考えを改めて示した。

  黒田総裁は16日の金融政策決定会合後の会見で、出口における日銀の財務について「2015年度から債券取引損失引当金を大幅に拡充しているので、収益の変動に対する対応としてはかなりしっかりしている」と指摘。「そうした下でも収益が振れ、赤字になる可能性があるのではないかと言われると、それはいろいろな前提の置き方でそうなり得る」と述べた。

  その上で、「中央銀行は持続的に通貨発行益が発生するので、長い目で見れば収益を必ず確保できる仕組みになっている」と説明。「短期的な収益の振れがあっても中央銀行あるいは通貨の信認がき損されるということはない」と強調した。

  同様の考え方は政策委員会の他のメンバーからも上がっている。原田泰審議委員は1日の講演で、「そもそも中央銀行の損益が赤字かどうかを気にしてお札を使う人がいるだろうか」とした上で、中央銀行は長期的には必ず利益を得られるため、「日銀が長期的に損失を負うことによる危険など存在しない」と言明。その後の会見では、損益や損失を「債務超過に置き換えても同じことだ」と語った。

日銀OBから異論

  こうした見解に対しては日銀OBを中心に異論も出ているほか、政治家の間からも懸念の声が上がり始めている。

  元理事の早川英男氏は15日、自民党の「財政・金融・社会保障制度に関する勉強会」で講演し、異次元緩和の出口で「年間数兆円の赤字がしばらく続くという試算が出ており、今後もどんどん続けばロスもどんどん拡大する」と指摘。日銀内には「損失の民間試算は過大であり、債務超過になっても一時的」との見方もあるようだとした上で、「ならば、なおさら試算を公表して国民を安心させるべき」と主張した。

  「反アベノミクス勉強会」と称される勉強会に初めて出席した石破茂元幹事長は会合後、「政局ではなく政策で論じるべきだ」とし、少子高齢化や社会保障制度など「日本が迎える状況は極めて危機的」だと指摘。「侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が行われるのは当たり前だ」と述べるとともに、早川氏の見方に理解を示した。

  自民党行革推進本部は4月、「事前にリスク等を分析し市場と対話を図ることは必要」とした提言を官邸に提出した。河野太郎本部長は同月のインタビューで「日銀の納付金が減少したりなくなったりすれば、財政に影響がある。債務超過になっても放っておいて大丈夫と言う人もいるが、まったくゼロリスクというのも考えにくい」と述べた。

かじを切る欧米

  物価2%目標へ道半ばの日銀を横目に、米国と欧州は金融緩和の出口に向けてかじを切りつつある。欧州中央銀(ECB)は8日、金利が現行以下に下がり得るという文言をガイダンスから削除。米連邦公開市場委員(FOMC)は13、14 両日に定例会合を開き、フェデラルファンド(FF)金利誘導目標を1-1.25%のレンジに引き上げ、4兆5000億ドルの保有証券縮小計画についても詳細を示した。

  黒田総裁は16日の会見で、出口論が注目される背景について「米国が出口の戦略を進めているし、ECBもこれ以上の緩和を当面はする必要はないような状況になってきている」ことから、欧米の出口論との関連で議論をされていると指摘。過去4年間の日銀の異次元緩和のもとで「景気が回復し、実体経済が大幅に改善している」ことも理由の一つに挙げた。

ETFの出口に言及

  黒田総裁は会見で、物価2%目標の達成まで道半ばの現時点で「具体的なシミュレーションを示すことはかえって混乱を招く恐れがあるので難しい」と従来の見解を繰り返した。一方で、日経平均が2万円前後で推移する中、日銀が大量の指数連動型上場投資信託(ETF)購入を続けていることを疑問視する声が強まっていることを受けて、ETFの出口戦略については従来から一歩踏み込んだ。

  2%の目標の達成に先立ちETFの買い入れを減らす可能性について問われ、「理論的にはあり得ると思う」と言明。「ETFの拡大をした時と、長期国債の買い入れ額を拡大したり、イールドカーブ・コントロールにしたりした時とは必然的に結び付いているわけではない」として、完全にシンクロナイズ(同調)して動く必要もないと説明し、毎回の決定会合で議論していくと述べた。

  「全体の金融緩和の一環なので、2%の物価目標と離れて、これはこれで違うようにするという考えはない」と言い添えたものの、4月4日の国会答弁で「ETF購入を含め出口戦略を議論するのは時期尚早」としていたのとは様相が異なる。

  ゴールドマン・サックス証券の馬場直彦チーフエコノミストは8日付のリポートで、ETF買い入れ方針の転換が「2018年4月以降、次期執行部の下での重要課題の一つとなるのではないか」としている。

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