日本銀行による短中期ゾーンの国債買い入れ減額で、利回り曲線(イールドカーブ)のゆがみは一部で解消に向かっているようにみえる。それでも超長期債の利回りは国内の機関投資家が許容できる絶対水準に達しておらず、日銀が15日から2日間の日程で開く金融政策決定会合で何らかの議論があるのか、市場の関心は高い。

  日本時間15日未明に利上げを決めたイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長は会見で、バランスシート縮小の比較的早期実施の可能性に触れるなど、金融政策の変更を進めている。ドラギ総裁率いる欧州中央銀行(ECB)も先週の定例理事会で、利下げの可能性を示唆する文言を声明文から削除した。日銀の金融政策に関して市場関係者は、変更がないと見込んでいるが、短中期金利の急速なマイナス幅縮小や今後のイールドカーブ運営に関する黒田東彦総裁の見解に注目している。

黒田日銀総裁
黒田日銀総裁
Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  国庫短期証券(TB)や利付国債の流通利回りはしばらく、期間が最も短い日銀当座預金を下回る金利水準の逆転現象が続いていたが、先週に入ってTBの3カ月物と6カ月物、新発利付国債の2年債と5年債の利回りが日銀当座預金の一部に課さられるマイナス0.1%の付利を上回り、教科書に出てくる右肩上がりの順イールドカーブの形に近づいている。

  短中期金利の正常化は、金利の取引を本業とする金融機関にとって好ましい環境になりつつあることを意味するはずだ。ただ、足元の10年債利回りは0.05%前後と、日銀が長短金利政策の一環として「ゼロ%程度」を誘導目標としているほか、超長期債の利回りは投資家の思うような水準に上がっていないのが現状だ。20年債は0.6%未満、30年債は0.8%強にとどまり、主な買い手の生命保険会社や年金基金の投資意欲を鈍らせている。

  三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニアマーケットエコノミストは「日銀は『量』が目標だった局面で残高の帳尻合わせに使いがちだったTBを昨秋から減らしてきた。短中期金利は付利と10年債利回りの間にあるべきだが、需給のゆがみでスプーン状に抉(えぐ)れていた」と指摘。しかも、短中期債の最大の買い手である海外勢がベーシススワップの縮小を背景に「玉があれば何でもという一時期の勢いは鈍っている」と言う。

  マスミューチュアル生命保険運用戦略部の嶋村哲金利統括グループ長は、短中期金利は「ベーシススワップを使える海外勢に席巻されて付利を下回っていた分がほぼ解消し、本来のイールドカーブに戻った」と指摘。「ようやく付利と10年債利回りがつながり、点ではなく曲線を動かして政策効果を及ぼせる状況になった」と言い、日銀の方針に沿ってきたとみている。今後は超長期ゾーンのオペ減額で過度な金利低下を抑える必要が生じると言う。

  昨年9月に金利コントロール策を導入してから日銀は、TBの保有額を明示的かつ継続的に削減してきた。東短リサーチの推計によると、市中発行残高は8月の107.7兆円から先月末の105.6兆円まで横ばい圏内だが、日銀の買い入れは45.1兆円から29.6兆円へ減り、市中流通分は62.6兆円から76兆円へ増えた。マイナス0.4%を下回ることも度々あった流通利回りや入札での最高落札利回りは、年度末に生じた異例の需給逼迫(ひっぱく)後は需給緩和を背景に上昇に転じた。

  SMBC日興証券の竹山聡一金利ストラテジストは「日銀が短中期ゾーンの買い入れを減額してきた影響が積み重なって表面化した」と指摘。「日銀は残存1年以下の売り圧力を下げたいならTBの買い入れを積極化すれば良いが、していない。短中期金利は需給面からの押し下げ要因がない」とみる。

  オペ運営の改善で市場の混乱が収まった3月以降、日銀は残存1-3年と3-5年の国債の購入規模を3割程度減額。今年度の発行額をそれぞれ9.1%、14.5%上回っていた買い入れペースを、23.6%、18.2%下回る規模に縮小させた。2年債利回りは8日にマイナス0.09%と5カ月ぶり、5年債も13日にマイナス0.065%と約半年ぶりの高水準を付けた。

短中期債の妙味薄れる

  通貨スワップ市場ではドルと円の需給格差を背景に、ドルを持つ投資家は上乗せ金利を受け取って円に換えることができる。ただ、この上乗せ金利は米金融規制の緩和を掲げるトランプ氏の大統領選勝利後に縮小。昨年11月末には90.8ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)だった3カ月物のベーシススワップは足元で34bp前後に縮まり、日本の短中期債に投資する妙味が薄れている。

  メリルリンチ日本証券の大崎秀一チーフ金利ストラテジストは「世界全体のインフレ期待が盛り下がり、ボラティリティも上がらないのに、日本国債だけ売られるのは続かない」と分析。「日銀は昨年11月とは異なり、指し値オペでけん制する必要はない」とみる。「邦銀が外債に投じていた資金の一部を円債に回帰させた場合、20年債の利回り低下が進む可能性がある。次の一手として10-25年ゾーンのオペ減額が意識される」と読む。

  財務省の統計によると、銀行勢は昨年8月から今年4月までに海外の中長期債を約11.2兆円売り越した。トランプ氏勝利を受けた米金利の急上昇が背景。日本証券業協会の統計によれば、地方銀行は同期間に長期国債を1兆1692億円、超長期国債を2259億円売り越した。第二地銀は766億円と52億円、信用金庫は1109億円と2116億円の売り越しだった。

  生命保険は低金利が続く超長期債への投資を抑制している。日本証券業協会の統計では、生損保による超長期国債の買越額は4月に775億円と黒田緩和が始まった2013年4月以来の低水準を記録。昨年8月からの買越額は合計2兆8941億円と、マイナス金利政策の導入前に当たる2年前の同時期より15%少ない。

  生命保険協会の根岸秋男会長(明治安田生命保険社長)は9日の記者会見で、超低金利を背景に運用環境はなお未曾有な困難な局面にあると発言。黒田総裁は異次元緩和の波及経路として、投資家を国債から株式や外債などに向かわせる「ポートフォリオ・リバランス」効果を挙げていたが、金利コントロール策に枠組み転換した際、超長期金利の過度な低下が生保や年金基金に副作用を及ぼすと認めた経緯がある。

金利リスク規制

  金融庁は、金融機関を対象に保有する債券の金利リスクに備えるための規制を見直す方針だ。日本国債や外債の金利が変動した場合に発生する損失への耐性強化を求める。新基準はメガバンクなど国際展開する金融機関には18年3月期から、国内銀行などには19年3月期から導入する予定。

  マスミューチュアル生命の嶋村氏は、金利リスクの管理強化に関する報道について、「この議論は外債のリスクに対する懸念が発端だった。銀行勢が円債に回帰してくる可能性は十分にある」と分析。「超長期債を最低限しか買わない姿勢を貫いている生保がやむを得ず買い増しに動くと、フラット化が進む恐れがある。日銀はオペの減額に迫られる」と読む。

  過去10年余りのデータに基づくドイツ証券の推計によると、日本の長期金利は米長期金利が10bp上昇すると2.8bp上がる半面、日銀の国債保有比率が1ポイント高まると3bp下がる。同社の山下周チーフ金利ストラテジストは、同比率が「今後も少なくとも年6ポイント高まるなら、18bpの金利低下要因になる。国債買い入れの累積効果はかなり大きい。海外からの金利上昇圧力がないと相殺は難しい」と言う。

  「国内投資家の円債ポジションは軽く、金利は年後半には上がると想定している向きが多い。9月を迎えても金利が上がらないままなら、皆買わざるを得なくなる」と、ドイツ証の山下氏は指摘。20年債利回りは今後半年程度で0.4%程度まで下がる可能性があると読む。「日銀は超長期ゾーンのオペを減額せざるを得ない。ただ、金利は減らした直後は上がるが、その後はまたじりじり下がってしまうだろう」とみている。

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