日本人の根強い現金志向と超低金利の長期化により、市中に出回るお金がこの20年間で倍増し、現金の輸送や保管業務を担う警備輸送会社にとって格好のビジネスチャンスになっている。

  人口減少による地域経済の疲弊により本業の貸出業務で稼げなくなった金融機関にとって、コスト削減は急務。現金を取り扱う関連業務のアウトソーシング(外注)が進んでおり、日本通運綜合警備保障セコム傘下のアサヒセキュリティなどが全国的に事業を拡大している。

  日本の名目国内総生産(GDP)は過去20年間でほぼ横ばいで推移し、人口が減り始めているにもかかわらず、お札と硬貨は4月末時点で106兆円と2倍以上に膨らんでいる。国際決済銀行(BIS)の統計によると、現金流通残高が名目GDPに占める比率は約20%と、米欧の10%前後を大きく引き離している。

  アサヒセキュリティの村田年正社長は「現金がなくならない限り、こういうビジネスは必要だ」と話す。最新設備が整った同社の新三郷オフィスには、機器メーカーの紹介で米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)の関係者も見学に来たという。

現金センター

  地元で一人勝ちと言われ、週末は駐車場が一杯になる佐賀市内の「ゆめタウン」。広島市に本社のあるイズミが西日本中心に展開する大型の商業施設には、全国の有名チェーンが軒を連ねる。回収した売上金は夜のうちに1万円札の束にまとめられ、翌朝に福岡に拠点を持つ銀行に持ち込まれる。佐賀県内の地方銀行は素通りで、現金を動かしているのは全国的なネットワークを持つ警備輸送会社だ。

  3強の一角であるアサヒセキュリティの同県鳥栖市の現金センターからは毎朝6時半、現金輸送車が福岡、佐賀、長崎、熊本、山口の各県に散らばる小売店を目指して一斉に動き出す。現地に着くと釣り銭と引き換えに売上金を回収。夕方再びセンターに戻る。この間、管制室が全車両の位置を常に把握しており、センター内では数百台のカメラがくまなくお金の流れを監視する。

  運び込んだ現金は精査機に投入し、1万円札は100枚を帯封で巻いた小束を10個まとめて大束に、硬貨は種類ごとに「ドンゴロス」と呼ばれる麻袋に4000-5000枚詰め込む。釣り銭は千円札と5千円札、50枚重ねてフィルムで巻いた硬貨の棒金がコンピューター制御のベルトコンベヤーで運ばれ、パック詰めされる。一晩で作製する釣り銭パックは数千に及ぶが、作業は夜間ほぼ全自動で行われる。

ある警備輸送会社の現金センターに積まれた棒金
ある警備輸送会社の現金センターに積まれた棒金
Photographer: Masahiro Hidaka/Bloomberg

  同社によると、全国の小売店約4万6500店から集めた16年度の売上金は28.1兆円、届けた釣り銭が8.5兆円、1万1000局の郵便局で取り扱う現金を合わせると、総額42.5兆円に達する。村田社長は、大手行は現金取扱業務の外注が進んでいると話し、地銀からも「この1、2年でかなり出てくる」とみる。

OHR引き下げが急務

  秋山修日銀福岡支店長(当時)は5月23日のインタビューで、金融機関にとって「現金の取り扱いはコストとリスクがある」ため関連業務を外注する動きがあり、「金融機関側のニーズと警備輸送会社のビジネスがマッチしている面がある」という。

  日銀は4月に公表した金融システムリポートで、日本の金融機関は職員1人当たりの業務粗利益(=労働生産性)が米欧に比べて低いと指摘。経費率(OHR=業務粗利益に対する経費の割合)の分布をみると、日本の金融機関は米欧に比べてばらつきが小さく、中央値は高いと分析した。

  日本通運は全国の地銀や信用金庫に対し、警備輸送、資金管理、現金自動預払機(ATM)、集配金など金融機関が外注可能な45の業務のうち、実際に実行している比率が高いほどOHRが低くなるという分析を示し、営業攻勢をかけている。

  同社の全国84の警備輸送拠点の一つ、福岡市内の現金センターには、2桁の金融機関が金庫を持ち、一部はオフィスを構えるなど金融機関との一体化が進んでいる。金庫には硬貨のぎっしり詰まった麻袋が山積みされ、金融機関はここで互いに硬貨を融通し合う。移動手段はフォークリフトだ。立屋敷格九州警送支店長は「金融機関は生き残りをかけており、サポート役として活用してもらえれば」と話す。

変わる金の流れ

  かつて日銀支店が発行したお金は地元の地銀から引き出され、消費者が買い物代金として地元の商店などで支払った後、売上金として夜間金庫や窓口を通じて、再び地銀、そして同じ日銀支店に戻っていた。今は、地方の消費者が自ら買い物などで大都市にお金を落とすだけでなく、地元で消費したお金も大都市に向かっている。お金の流れの変化は日銀支店の銀行券の受け払いに顕著に表れている。

  福岡支店には支払ったお金を上回るお金が戻る一方で、福岡以外の九州の支店(那覇を除く)は支払ったお金を下回るお金しか戻っていない。福岡支店の受入額から支払額を差し引いた受入超額はここ数年1兆円前後と、00年代初頭から約4倍の水準で推移。支払額の1.5倍の現金を受け入れている。東京、大阪、名古屋、仙台など大都市周辺でも同様の現象が起きており、いずれも警備輸送会社が現金の流れを担う。

  地盤沈下が続く地方経済も金融機関の背中を押している。古くからある商店街が廃れる一方で、全国展開する大型店が増えているが、日銀の秋山氏は「例えば、イオンがもうかっても、地元の信用金庫のプラスになることはあまり考えられない」と語る。「地元の商店街で消費してもらえれば信金のビジネスにもつながる」が、百貨店にしても「地方では1つ減り2つ減り」というのが現状だと言う。

水ケ江のシャッター通り(佐賀市内)
水ケ江のシャッター通り(佐賀市内)
Photographer: Masahiro Hidaka/Bloomberg

  「ゆめタウン」のフードコートで友人とお茶を飲んでいた主婦の深川真紀さん(54)も、買い物はここですることが多いと言う。佐賀市内の商店街で買い物しようにも、「商店街自体がほとんど残っていない」と話す。中心部にある白山商店街や、大隈重信の生家がある水ケ江商店街は、多くの地方都市の中心部と同様シャッター通りと化しており、人通りもまばらだ。

  大和総研の内野逸勢主席研究員は4月26日の記者勉強会で、貸出業務純益を預金で割った貸出業務利益率は10年後、地銀全体の86%で赤字になるとの試算を示した。今後を展望すると、「生産性の向上による稼ぐ力の強化」と、利便性という付加価値に合った「プラットホーム(ヒト、モノ、カネ)の効率化」が必要となってくると指摘した。

現金はあり続ける

  佐賀の第二地銀、佐賀共栄銀行の二宮洋二頭取は5月25日のインタビューで、「コア業務純益は15年度がどん底で、このままいったら赤字と切羽詰まったが、人件費や物件費の削減で16年度は上向いた」と胸をなでおろす。35あった店舗も1年で28に削減。今後も「そこにいる人がやってもいいと考えるのか、アウトソーシングをすればいいと考えるのか、将来の対象としては考えなければならない」と言う。

  日本通運の立屋敷氏は「キャッシュレス化が進んで現金が減っていくことは心配だが、5年、10年ではそこまで減らないのではないか。たんす預金も相当ある。現金はあり続けると思う」と語った。

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