東京都心から電車で約50分の郊外にある東村山市の駅前パチンコ店。時代劇の主題歌やアニメキャラクターの声が鳴り響く中、白髪交じりの女性が突然、怒りにまかせて台をたたき始めた。周囲は気に留める様子もない。数分すると女性は立ち上がり、男性従業員と談笑して店を後にした。近所に住むこの女性は10年来、店に通っているという。

東村山市のパチンコ店
東村山市のパチンコ店
Photographer: Shiho Fukada/Bloomberg

  「常連客が多い店なので、従業員と距離が近いんです」ー。パチンコ店を運営する「山水」の専務で、パチンコ産業に関わる調査研究をする一般財団法人「パチンコ・パチスロKAI総合研究所(PSKAI)」の福地光代表理事は語った。1920年代に最初の遊技機が登場して以来、パチンコは今も1万軒を超える店舗で年間1000万人が利用している。庶民の娯楽として人気を得てきたが、ギャンブル依存症対策の法律ができると、その在り方が変わるかもしれない。

  カジノを含めた統合型リゾートの整備推進法(IR推進法)が昨年成立したことを受け、各党はギャンブル依存症対策法案の準備を進めている。与党案によると、法案成立後に政府が定める基本計画では、家族申告による利用制限や入場者の年齢確認などが議論される予定だ。規制対象には、これまで風営法上「娯楽」と位置付けられていたパチンコも含まれる。

  三菱UFJモルガン・スタンレー証券は、4月19日付のリポートで、法案成立により将来的に全てのパチンコ店に入場ゲートが設置される可能性があるとして、パチンコの参加人口、収益、遊技機販売などで縮小や減少を余儀なくされると述べた。同リポートによると、15年のパチンコ店収益は23兆2300億円、遊技機販売は9827億円に上る。

パチンコ・フィーバー

  大正時代に子どもの遊技だったパチンコは、景品の駄菓子にタバコが加わるなどして昭和初期には大人にも好まれるようになった。戦後、幾度かのブームを経て、依存症が社会問題として認識されるきっかけになったのは、1980年の射幸性を高めた「フィーバー機」とそれに続く「CR機」の登場だ。

積み上げられたパチンコ玉
積み上げられたパチンコ玉
Photographer: Shiho Fukada/Bloomberg

  パチンコに夢中になった両親が幼児を放置して事件に巻き込まれたり、駐車場の車内で乳児が熱中症で死亡したりするケースが各地で相次ぎ、遊ぶ金ほしさに多重債務に陥る人も出てきた。批判を受け業界団体では遊技機の射幸性を抑えるなどの自主規制に着手。テレビCMや屋外広告なども業界統一基準を作り、「のめりこみ」への対策を店舗経営者に求めた。

  東村山のパチンコ店では1時間ごとに駐車場を見回り、乳幼児が車内に残されていないか確認作業を行っている。また、「一定以上の金額を使ったら制止してほしい」と自己申告する書面を受付に用意。今のところ利用者はいないが、常連客が多い強みを生かして熱くなった客に従業員が声を掛けるようにしているという。

  一般社団法人「日本遊技関連事業協会(日遊協)」の伊東慎吾常務は、こうした経緯もあり、パチンコが競馬、競輪など「公営ギャンブルと一緒にされるのは困る」と感じている。業界14団体で依存症の相談を受ける電話窓口を設けており、運営費用として年間2600万円を拠出している。

  射幸性を下げ、広告を控えたことで店舗数は95年の約1万8000軒をピークに減少を続け、現在は1万1000軒程度となった。IR推進法の成立で依存症対策の議論が本格化してからは一部店舗で新規顧客の減少に拍車が掛かっているという。

依存症対策を歓迎

  PSKAIの福地氏は、パチンコが依存症対策の対象となったことは「産業にとってマイナスはない」と歓迎する。これまで法的には「娯楽」と位置付けられながらギャンブルとの批判が絶えず、警察庁指導下での自主規制も幅広い理解を得られてはいなかった。内閣府の下、他の公営ギャンブルと同じテーブルで議論されることで、「健全な情報発信」が可能になり、活気を呼び戻せるかもしれないと期待を寄せる。
 
  一方で、業界は転換期にあると感じている。パチンコ愛好家の年齢層は50代から60代が中心で高齢化が進んでいる。福地氏によると、東村山市のパチンコ店では、90年代に射幸性の高いパチンコを経験した人たちが退職後、時間に余裕ができ再びパチンコを始めるケースも多い。スマホゲームを好む年代の若者を店舗で見掛けることは少ない。

  福地氏は、「射幸性が高く、大金を得たり損したりするゲームで粗利益を稼ぐ」ビジネスモデルは「既に時代遅れ」となっており、将来的には低コストで長い時間遊べるゲームを中心に展開する低収益ビジネスになっていくという見方を示した。

棺おけに入るまで

  関西在住の67歳の男性は高校生の時にパチンコを始め、やがて借金を繰り返すようになった。家族が消費者金融への返済に追われてもギャンブルから距離を置くことができず、56歳の時、息子が自助グループに行こうと背中を押してくれた。

ハンドルを操作して玉を打つ
ハンドルを操作して玉を打つ
Photographer: Shiho Fukada/Bloomberg

  匿名を条件に語ったこの男性は、ギャンブルを止めて10年たった今でもギャンブルが好きと自覚している。依存症は回復しても完治はしない病気で、棺おけに入るまで自助グループに通う必要があると語った。日本ではギャンブル依存症患者の存在は認知されていたが、正確な実態調査はされてこなかった。
  
  一般社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子代表は、政府レベルで対策がなされることを評価しながらも、現段階での法案は「現状を理解できていない人たちの意見が集約された印象」が拭えないと述べた。与党案の骨子では、予防を図る方法について「関係事業者の自主的な取り組みを尊重しつつ」という文言が入るなど、産業界への配慮もみられるという。

  公営ギャンブルについては、収益金を地方財政に組み入れていることもあり、田中氏は、基本計画の策定時にどの程度厳しく規制を設けられるのかが不透明だとみている。また、対策費用を関連業界が拠出する形を取るか否かで「依存症対策の規模が変わってくる」とも述べた。

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