「ウェスチングハウス(WH)を買収したことと言えなくもない」--。2月14日の東芝本社。綱川智社長は債務超過を招いた経営失敗の一因をこう振り返った。前期決算では過去の海外買収が業績悪化の主因となる企業が相次いだ。しかし日本企業による海外買収は勢いを増している。

  WHの破綻処理に伴う東芝の損失は1兆3600億円に上った。ほかにも日本郵政の豪物流子会社が4003億円、ソニーが米映画事業で1121億円、住友金属鉱山がチリ銅山で801億円、日立製作所が米原発事業664億円など、主なものだけで少なくとも2兆円を超える。

巨額損失が発生し会見で陳謝する東芝の綱川智社長
巨額損失が発生し会見で陳謝する東芝の綱川智社長
Kiyoshi Ota/Bloomberg

  東芝はWH関連の損失で前期5400億円の債務超過となり、解消のため稼ぎ頭であるメモリー事業の売却に追い込まれた。日本郵政は2007年の民営化以降、初の最終赤字に転落した。海外での企業の買収・合併(M&A)が後になって企業の屋台骨を揺るがしかねないリスクを内包していることをあらためて裏付けた。

  15年に買収したばかりの豪社で減損が発生した日本郵便。横山邦男社長は会見で、買収を「急ぎ過ぎて高値になった」と当時を振り返った。住友鉱の緒方幹信専務は「世界の銅ブームの中で投資を決めたが、みるみる労賃や建設費用が上がった」と述べた。同社は14年ぶりの経常赤字に陥った。見通しを誤り高値づかみした。

  一橋大学大学院の伊藤友則教授は、他社への対抗心から経営者が「どうしてもやらなければならないと思い、高い値段で無理な条件でも買収してしまう」ときなどに失敗は起きるとし、「その典型例が東芝のWH買収だ」と指摘する。「国内市場縮小の中での海外買収は投資家の納得感を得やすい」ため、その分リスクへの配慮がおろそかになるという。

先送り体質

  いちよしアセットマネジメントの秋野充成執行役員は、損失拡大の背景には日本企業特有の「先送り体質」があり、「サラリーマン経営者でなかなか決断できず、さらに損失が膨らむ構造」があるとみている。伊藤教授はWHの経営は「東芝のコントロールが効かずブラックボックス化していた」という。

  だがM&Aの勢いは止まらない。ブルームバーグのデータによると、16年の日本企業による海外買収は12兆5400億円と過去12年で最高水準となり3年連続で増加。伊藤教授は「少子高齢化で国内市場が縮小する中での海外進出の加速」で、過去のバブル期やITバブル時に比べ「ブームの息が長い第3の波」と位置付ける。

  日立の東原敏昭社長は合理化に一定のめどがついたとし「M&Aにギアチェンジする」と宣言。今後1兆円規模でM&Aを積極化する方針を示した。日本郵政の長門正貢社長は「M&Aはチャンスがあれば検討する。成長の歯車にする」という。両社は前期、ともに海外案件で減損を計上しているが、M&Aには前向きだ。

  住友鉱は6日、カナダの産金会社アイアムゴールドが権益を保有する開発プロジェクトの同社持ち分の30%(プロジェクト全体の27.8%)を取得すると発表した。対価は総額1億9500万ドル(約214億円)で17年度上期の取得完了を予定している。

  増勢の背景には、世界的な低金利によるカネ余りも指摘されている。ソフトバンクグループは5月、サウジアラビアの政府系ファンド(SWF)や米アップルなどの出資で10兆円規模の「ビジョンファンド」を発足。今後ファンドを通じM&Aを加速する。英調査会社プレキンはカネ余りによる投資案件の高騰を懸念する。

教訓生かせるか

  M&Aによる事業拡大で実績のある日本電産の永守重信会長兼社長は、海外買収成功の秘訣として「高い値段で買わないこと。買収後も経営に心を砕くこと。事前に自社ビジネスとのシナジーを検証すること」を挙げた。「良い会社でも高ければ利益は出ない。急いではいけない。もうかるのはアドバイザーだけだ」と警告する。

  ブルームバーグのデータによると、日電産は1973年の創業以来、40件以上のM&Aを実施。昨年発表した米エマソン・エレクトリックのモーター・ドライブと発電機事業の12億ドル(約1200億円)の案件も含まれる。10年3月期に5900億円だった連結売上高は6年間で倍増。2020年には同2兆円の目標を掲げる。

  一橋大学大学院の伊藤教授は、日本の企業トップの体質として、他社を常に横目で見るサラリーマン経営者が目立ち「ある業界で1社が海外買収を始めると他社も負けじと動く。最近では飲料業界や保険業界などで買収競争が起きた」と指摘。こうした横並び体質は今後も失敗が繰り返される原因になるとみている。

  その点、ソフトバンクの孫社長や日電産の永守会長らオーナー経営者は「周りを気にせず、自社に価値ある案件をきちんと選ぶ。株主、いわば他人所有の会社でたまたま4年間社長をやっている人とは違う」と伊藤教授は言う。M&Aで成長を目指す経営者は、現有事業との相乗効果などを綿密に検証し「長期的視点から会社の利益を考えた決断ができるか」が問われると語った。

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