国内海運3位の川崎汽船が6月に開催する株主総会では、村上英三社長が取締役として再任されるかが焦点となる。前期(2017年3月期)決算は2期連続赤字で、規模で過去最大を更新した。筆頭株主のファンドなどが村上社長の取締役再任に昨年と同様反対票を投じる可能性がある。

  総会で取締役選任議案は投票数の過半を確保することが必要となる。昨年の総会では他の取締役の選任議案への賛成率が90%を超える中、村上氏再任の議案だけが56.88%と際立って低かった。筆頭株主の投資ファンド、エフィッシモ・キャピタル・マネージメントなどが反対票を投じたため。

  旧村上ファンド出身者が設立したエフィッシモはシンガポールに拠点を置く。同社の公開資料によると、ファンドの資金提供者は大半が海外の機関投資家で構成されている。現在は、東芝やリコー、第一生命ホールディングスの筆頭株主でもある。昨年3月末のエフィッシモの保有分は29.71%で、他の株主にも同調者が出た。エフィッシモはその後も川崎船株を買い増しており、今年4月6日時点で38.43%を保有している。

川崎船の株価とエフィッシモの保有株式数

  川崎船の村上氏は15年4月に副社長から社長に昇格。事業環境の悪化や特別損失などにより前期は1395億円の純損失を計上。決算と同時に発表した新中期経営計画では今後、市況の回復が見込め、合理化や構造改革で黒字転換するとの見通しを示した。鳥山幸夫常務は決算発表会見で、今後3期連続の黒字に自信を表明した。

コンテナ事業次第

  シティグループ証券の姫野良太アナリストは、中期計画については投資を抑制し、財務基盤強化に重きを置くなど一定の評価ができるとコメントした。利益面では「現実的には他の海運会社とこれから始めるコンテナ船合弁事業次第のところもあり、長期的には見通しにくい側面もある」と話した。

  エフィッシモが昨年2月に公開した資料では、投資対象企業の当期株主資本利益率(ROE)、次期予想ROEともに8%未満の場合、取締役の再任に原則賛成しないと明記。中長期的にROE8%以上を目指す経営計画が示され、合理的な説明が得られた場合はこの限りではないとしている。ブルームバーグの取材に対し、エフィッシモは、今年もROE8%を基準とする方針に変更はないと電子メールで回答した。

   川崎汽船の今期ROEはブルームバーグが集計したアナリスト9人の予想平均で-5.9%で、前期実績が-49%だった。3カ年の新中期計画で、ROEについては目指すべき指標として20年代半ばまでに2桁台を達成するとの言及にとどめている。

かなり厳しい状況

  バリューサーチ投資顧問の松野実社長は、村上氏の再任について「かなり厳しい状況だ」とし、「川崎汽船は大口投資家に賛成票を投じてもらい、同時に投票率を上げる対策が急務だが、しょせんは小手先の対応」と指摘。姫野氏は「同情の余地はあるが、資本の論理については仕方がないこと。ただ、否決された場合でも新計画は策定済みで会社に大きな混乱はないだろう」とみている。

  昨年の村上氏選任議案の投票率は約82%だった。今年の投票率が前年と同じ82%と仮定した場合、エフィッシモの持ち分は約47%相当となり過半数に迫ることになる。松野社長は「ファンドに付け入る隙を与えた会社にそもそも責任がある」という。

  株主総会で取締役としての選任を否決された場合、企業法務に詳しい湊総合法律事務所の湊信明代表は「会計士や弁護士のように経営に関する知識があれば、契約関係において社員として社長が業務に携わることは法律的には可能。業務委託契約のような形もありうる」という。ただ、「否決された人を株主たちが認めないのは明白」と指摘し、「延命策としてはあるかもしれないが実現性は極めて低い」と語った。

  川崎汽船は今年の株主総会を6月23日に都内で開催する予定。エフィッシモなど特定の大株主との交渉状況について、鳥山常務は4月の会見で「求めがあれば全ての株主と対話している」とした上で、「個別の株主への対応は答えられない」と述べた。エフィッシモは、今年も株主総会で社長の取締役選任に反対票を投じるのかとのブルームバーグの問い合わせに対し、電子メールで「個別の投資先や投資戦略についてのコメントは差し控える」と回答した。

  会社側が提案した取締役選任議案をファンドが否決した事例は過去にもある。08年にはアデランスで米投資ファンドが主導する形で社長含む7人の取締役再任が否決された。また16年には、プラスチック成形機メーカーのプラコーで社長を含む5人の選任議案が反対多数となった。

  企業と投資家の対話に詳しい上場会社役員ガバナンスフォーラムの藤島裕三客員研究員は「わが国の機関投資家の多くは今期から、各議案の議決権行使結果を投資先企業ごとに個別開示しなければならない。資金委託元に対する説明責任が厳しく求められる時代」と指摘。外部から見て不透明な関係性に基づいた判断による会社議案への賛成などは過去の話になりつつあると述べた。

最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE