2020年東京五輪のメインスタジアムとなる新国立競技場。奈良・法隆寺を意識した5層の庇(ひさし)や、大量の国産木材と鉄骨を組み合わせた構造が特徴だ。高度成長期にあった1964年の前回五輪から時代は様変わりし、設計した建築家の隈研吾氏(62)は「成熟化した日本」をコンクリートや鉄ではなく、木で表現しようとした。
  
  隈氏は「64年の東京五輪とは全く対照的な時代で、新たな豊かさを見つけなくてはならないのが2020年だ」と言う。高度成長は望めず、人口減少時代に入った日本の成熟度を示すには「コンクリートや鉄という非人間的なものではなく、木でできたヒューマンで温かい、触ってみたくなるような建築」がふさわしいと話す。

新国立競技場(外観イメージ)
新国立競技場(外観イメージ)
Source: Taisei Corporation, Azusa Sekkei Co., Ltd. and Kengo Kuma and Associates JV/Courtesy of JSC

  新国立競技場をめぐっては、いったん採用された英国の故ザハ・ハディド氏の案が約2500億円と費用がかかり過ぎるとの理由で白紙となり、再コンペの結果、隈氏の案が採用された経緯がある。流線形のフォルムをしたザハ案とは異なり、大量の国産木材を使用し神宮外苑とも調和した「杜のスタジアム」をコンセプトとした。契約金額は約1500億円で、高さは約47メートルに抑えられた。

  日本スポーツ振興センターの資料によると、新国立競技場は座席数が約6万8000席で将来は約8万席への増設が可能な計画。既に工事は始まっており、19年11月に完成の予定だ。隈氏は同競技場のほかにも、渋谷駅再開発や品川新駅など東京大改造に関わるビッグプロジェクトに関わっている。

  同競技場に使用する国産木材の量は約2000立方メートル。木の積極的な活用は、温暖化ガスの削減や森の循環システムの維持につながる。「大きな公共建築にも木が使えるということになると、他の国にも波及して温暖化防止効果はばかにできない」と述べ、新国立競技場を世界へのメッセージ発信ともとらえている。

バブル崩壊

  64年の東京五輪当時に10歳だった隈氏は、故丹下健三氏が設計した国立代々木競技場に刺激されて建築家を志した。戦後復興の起爆剤として五輪開催による経済効果を当て込み、国を挙げてスタジアムやホテル、新幹線、高速道路の建設に走り、建築と言えば「鉄とコンクリート」の時代だったという。

隈研吾氏
隈研吾氏
Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  戦後の高度成長時代の世相について「アメリカを頂点とする工業化社会のピカピカの文明に僕らはなびいてきた」と振り返り、今や「戦後の政策の流れを反転させる時に来ている」と話す。その発想の転機となったのは90年代のバブル崩壊だった。東京での仕事が無くなり、地方での仕事を続ける中で職人や地方の木材に出会い、木造建築の面白さを知ったという。木を使うことに自信が出てきたころに新国立競技場の話しが舞い込み、「ラッキーだった」と喜ぶ。

  本来の日本は「資源を浪費するのではなく、うまく循環させる豊かな成熟社会だった」と気づかされた。隈氏が手掛けた高知県の「雲の上のホテル」は地元産の杉を大胆に使った木造建築。また、その名を海外で一躍高めたのは、中国の万里の長城の脇に立つ外壁を竹製素材で覆ったホテルであり、北京五輪の宣伝用映像にも使われた。

  内閣府によると、64年度の実質国内総生産(GDP)伸び率9.5%に対し、16年度は1.3%。隈氏は現状を「低調ではなく、成熟した社会」ととらえる。「影とか小ささとかの中に豊かさを見いだす」という日本の在り方を再認識することで「もう1回自分たちに自信を取り戻すきっかけになれば」と言う。

国産材

  新国立競技場の建設では、一部の環境団体から問題点も指摘されている。森林破壊が深刻なマレーシア産の木材がコンクリート型枠に使われている可能性があるとして、内外7団体が五輪関係者に緊急調査を要請。建設を所管する日本スポーツ振興センターは、国際的な森林認証を取得した製品であり、五輪組織委の基準に適合していると発表している。

  第2次世界大戦で焦土化した国土の復興に向け、戦後の日本は鉄とコンクリートが建設の主流となった。しかし、本来は国土の約7割が森林で、北欧並みの世界トップクラスの森林国だ。国産材は安価な輸入材に押されて木材自給率は3割程度にとどまっており、政府は現在、国産木材を使用した公共建築に対して補助金を交付するなどして、25年までに自給率を50%に高める方針を打ち出している。

隈氏が手掛けた浅草文化観光センター
隈氏が手掛けた浅草文化観光センター
Photographer: Takeshi Yamagishi

  木には燃えやすいという欠点があったが、隈氏は「不燃技術ができ、一番のブレークスルーだ」として、需要は広がっていくとみている。住友林業が国分寺駅前で従来の鉄骨造りを木で覆った7階建てビルを建築中のほか、鹿島や竹中工務店は一定時間の耐火性能を確保した木材技術の開発をするなど、住宅・建設業界の間でも木材活用の動きが広がっている。

  新国立競技場には杉やカラマツを使い、日本中から調達する予定。地域の気候や土の違いに応じて木の肌合いに違いがあり、「多様で豊かな国」であることを感じてもらう意味合いを込めている。中でも東日本大震災の被災地である東北の木には思い入れがある。「特に目立つところに持っていき、被災地の人に自信を持ってもらえたらいいなと思う」

最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE