FRBの資産圧縮は「巨大な市場リスク」-野村と提携のカルミニャック

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  • 大規模な金融緩和策からの出口は前代未聞の「ワールドプレミア」
  • 米経済拡大でドル高時にバランスシート圧縮なら市場は混乱も

米連邦準備制度理事会(FRB)は米国経済の拡大が続いたとしても、保有債券の残高圧縮は先送りすべきだ-。世界中の債券・株式に機動的に分散投資する欧州最大のファンドを手掛ける運用会社は、米国による金融緩和策からの出口では予測が困難なほどの影響が市場に及びかねないとみている。

  仏カルミニャックのディディエ・サンジョルジュ常務は19日のインタビューで、市場関係者にとって米国の利上げに関する分析は可能だが、「バランスシート圧縮の影響を予想するのは難しい」と指摘。前例のないFRBによる大規模金融緩和からの出口の影響を、ハリウッド映画などが行う初上映の反響に例え、「ワールドプレミアだ。未知であること自体が問題となる」と述べた。

  サンジョルジュ氏は、米経済はトランプ政権の税制改革なしではさらなる拡大は難しい半面、税制改革が実現して再び追い風が吹けば、追加利上げ観測と金利先高観を背景に国際的な「ドル不足が起こる」と読む。「そこでバランスシートを圧縮すれば、こうしたトレンドが加速して不透明感が高まる」と予想。「FRBは圧縮は見送って欲しい。年末にかけての税制改革と米経済とバランスシート圧縮の動向は巨大な市場リスクだ」と語った。

  FRBは世界的な金融危機を受けた量的緩和策により、2008年9月のリーマンショック直前に9400億ドル前後だった保有資産を4.5兆ドル超に拡大。利上げ局面にある現在も、その規模を保っている。うち米国債は17日時点で2兆4646億ドル、連邦政府機関債が88億ドル、不動産ローン担保証券(MBS)が1兆7781億ドル。市場ではFRBが早ければ9月にも、バランスシートの圧縮に踏み切るとの観測が浮上している。

  市場性のある米国債の発行残高は13.8兆ドル超に上る。米財務省の資料によると、海外勢の保有額は3月に6兆793億ドル。うち日本は官民合わせて1兆1185億ドルと2割弱を占め、国・地域別で最も大きい。日本の財務省の統計によれば、国内勢は同月に中長期の米ソブリン債を1兆398億円買い越した。FRBのバランスシート正常化に伴って米金利やドル相場が大幅に上昇すれば、評価損が膨らむ可能性がある。 

「どうやら市場が正しかったのでは」

  カルミニャックの運用資産は約9兆円。1989年に設定した旗艦ファンドはバランス型のアクティブ・ファンドとしては欧州最大で、運用実績は年率8.2%。設定時に預けた資産は足元で約8.5倍に膨らんだ計算になるという。日本では野村ホールディングスと提携し、世界中の債券・株式を対象に中長期的な収益確保を狙う「野村カルミニャック・ファンド」を提供。設定などの手続きは野村アセットマネジメントが手がけている。

  カルミニャックで投資委員会メンバーを務めるサンジョルジュ氏は、景気拡大の鈍化やトランプ大統領をめぐる政治問題を背景に「FRBのタカ派的な発言が実現する可能性はどんどん低下している」と指摘。米金融当局と市場の利上げ見通しには乖離(かいり)があったが「どうやら市場が正しかったのではないか」と述べ、イエレンFRB議長は「短期的にはタカ派的になりすぎないよう、慎重に振る舞うだろう」と語る。 

  トランプ大統領をめぐっては、「弾劾」観測などのリスク懸念が市場で浮上している。大統領が9日にコミー連邦捜査局(FBI)長官を解任した後、ロシア外相との会談で機密情報を漏らしたとの疑惑や関連当局に対する介入報道が続出しているためだ。

  サンジョルジュ氏は当面の問題は「政治ニュースと経済情勢と市場動向の関係だ」と指摘。「政治スキャンダルは明らかに短期的な市場のボラティリティを引き起こしている」だけでなく、市場のトレンドや実体経済にも影響を及ぼすと言い、「トランプ大統領はオバマケア代替法案や税制改革などで結果を出せていない。最近の政治問題で経済政策の実現がさらに遅れる恐れがある」と述べた。

「大きな利益はユーロから」

  トランプ政権が掲げる経済政策の実現性に対する疑念から、米金利はインフレ期待とともに低下しドルも下がっていると、サンジョルジュ氏は指摘。「景気サイクルを追うマネーは世界の他地域に向かって動き始めた。米国より回復局面が遅れて始まったユーロ圏と日本はまだ上向きだ」と言う。「政治リスクも米国で高まる半面、仏大統領選を終えた欧州では低下しており、マネーの流れにさらに大きな影響を及ぼしている」と語る。

  このため、為替面では「大きな利益はユーロから得られる」と分析。追い風となる具体的な要因として、景気サイクルの上昇と政治リスクの後退に加え、マクロン仏大統領とドイツのメルケル首相による欧州連合(EU)の統合深化の可能性、欧州中央銀行(ECB)のハト派的なスタンスの弱まりを挙げた。円については「ユーロに対しては弱くなるが、対ドルではそうではない」と予想。「新興国も弱いドルのおかげで恵まれた環境に変わりつつある」とみている。

  ブルームバーグ・ドル・スポット指数は今年初めにデータでさかのぼれる04年末以降の最高値を付けたが、その後の低下で大規模なトランプ景気刺激策への期待がほぼ完全に剝落した格好だ。ユーロは22日に1ユーロ=1.12ドル台後半と約6カ月半ぶりの水準に上昇。円に対しても先週、昨年4月以来の高値を付けた。

  サンジョルジュ氏は、米経済の行方はトランプ政権による税制改革にかかっているとみる。実現できれば勢いを取り戻せる半面、「もし来年まで遅れるか、全く実現できなければ、個人消費や設備投資はこれ以上は加速できない」と言う。

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