ユーロの独走に黄色信号、全面高を阻む要因とは

  • 個人投資家のユーロ・円ショートは、スポット回復とともに急増
  • ドル安でユーロ高も、リスクオフ通貨としては円が強い-みずほ銀

政治不安が和らぎ、堅固さを増す域内景気の下で金融緩和の縮小が意識され始めたユーロ相場。米政権の混乱でドルが自滅的な下落に陥り、ユーロは独走態勢に入ったようにみえるが、それを阻む可能性のある通貨がある。円だ。

  ユーロや円など主要10通貨に対するドルの値動きを示すブルームバーグ・ドル・スポット指数は先週、トランプ氏が米大統領選を勝利した後の上昇幅をほぼ帳消しにしている。一方、ユーロはドルに対して6カ月ぶり、円に対しては昨年4月以来となる高値をそれぞれ付けた。ユーロの上昇基調は、親欧州連合(EU)派のマクロン氏の仏大統領選勝利が確実視され始めたころから顕著になっていた。

欧州単一通貨ユーロ

Photographer: Krisztian Bocsi/Bloomberg

   みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケットエコノミストは、ユーロ高について、仏大統領選や欧州中央銀行(ECB)の引き締め観測などユーロ固有の要因より、「最大の理由はドルが下がっているからで、敵失のユーロ高が第一にある」と指摘する。一方、米政治リスクが市場のテーマに浮上する中、「日本の対外純資産がドイツの1.7倍であることだけをとってみても、リスクオフ通貨としてはユーロよりも円の方がまだ強い」と言い、ユーロ・円は「ピーク近辺」とみている。

ユーロは買うべき通貨ではない

  日本の個人投資家もまた、ユーロ買い・円売りの投資戦略に消極的だ。東京金融取引所が運営するFX(外国為替証拠金)取引所「くりっく365」によると、9日時点のユーロ・円の売り建玉は5万2813枚(1取引単位=1万通貨)と昨年9月以来の水準に拡大。昨年11月以来の水準までユーロ安が進んでいた4月中旬にかけては2万枚台まで減っていたが、ユーロ・円が上昇に転じると個人投資家の売り持ちは増え始めた。

  外為どっとコム総研の神田卓也取締役調査部長は、ギリシャなどの財政問題や英国のEU離脱に代表される政治リスクのほか、「少なくともドラギ総裁が緩和維持姿勢を打ち出しているので、ユーロは買うべき通貨ではないという意識が強いようだ」と指摘。さらに、米政治不安でドルは買いづらいため、ユーロ・ドルを売るよりもユーロ・円を売ろうという意識の方が強いとし、「どこかで問題が起きるだろうという読みがあるのだろう」と話す。

  外為どっとコムの14日時点でのユーロ・円ショートポジション(売り持ち高)は、昨年3月末以来の高水準となり、同取引全体の割合の約7割に達した。その後にユーロ・円は下落したが、買い戻す動きは限定的で、ポジション状況に大きな変化は見られないという。神田氏は、「ユーロ・円の下落はこんなものではないという見方の方が強いようにみえる。ユーロそのものに対する個人投資家の不信感は根強い」と語る。

  2通貨の金利差に着目して収入を獲得しようとするキャリートレードの観点からも、ユーロは円に対して運用妙味のある通貨ではないようだ。ソシエテ・ジェネラル銀行の鈴木恭輔為替資金営業部長は、「ユーロ・円のロング(ユーロ運用・円調達)はネガティブキャリーになるので、コスト意識があるとどうしてもユーロ・円はショート(ユーロ調達・円運用)からとなるのかもしれない」と指摘する。

  鈴木氏は、個人投資家の動向について「年末からの推移を見ても基本的には逆張りで、1ユーロ=125円あたりがトップで、130円は行かないという意識にみえる」と話す。ブルームバーグがまとめたアナリストらのユーロ・円の年末予想の中央値も125円となっており、個人投資家の視線と大きな違いはないようだ。

  一方、シカゴIMM通貨先物の非商業部門のドルに対するユーロポジションは9日時点で3年ぶりとなる買い越し。ユーロ圏の景気が底堅さを増し、ECBによる金融緩和縮小観測がくすぶり始める中、ヘッジファンドなど投機勢はユーロに対して強気の見方だ。

  鈴木氏は、「トランプ大統領の政策運営が不安定ということでドルが持ちづらい結果、ファンダメンタルズの良さやECBのテーパリング(量的緩和縮小)が意識されるユーロは消去法的に選好されやすいが、ドルの弱さがメインで、ユーロが全面高という訳ではない」と指摘。そうした中で「ドラギECB総裁のタカ派発言」が待たれるとし、資産買い入れが残り半年となる6月会合では「さすがにノータッチということはないだろう」と語った。

   ECBの政策委員会メンバーであるリトアニア銀行(中央銀行)のバシリアウスカス総裁は18日のインタビューで、金融刺激策の縮小を今秋発表する前に論拠の展開を開始するタイミングとして、6月の政策委を利用すべきだとの見解を明らかにしている。

  一方、米国では政治の混迷で財政刺激策の遅れが懸念され、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ軌道や米景気の先行きには不透明感が漂う。

  みずほ銀の唐鎌氏は、他の先進国に先駆けて始まった米国の金融政策の正常化は「ひと足早く挫折しようというサイクル」に差しかかっており、これから正常化に向かうユーロは「年内で見ればドルに勝てる通貨だ」と語る。

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