第1四半期の米国内総生産(GDP)拡大ペースが急減速したことについて、ドナルド・トランプ第45代大統領は「実にひどい」と嘆いて見せた。その上で、「第1、第2四半期は、実際のところ私とは関係ない」と前政権に責任を転嫁し、自らの責任範囲を今年下期以降とする姿勢を示した。

  同大統領は将来、この発言を後悔することになるかもしれない。なぜなら、本当に「ひどい経済」は今年下半期以降に徐々に表面化してくる可能性が高いからだ。現下の景気拡大期は来月で8年経過する。1980~82年のダブルディップ型のひどい不況の後、米経済は2007年末までに3回の景気拡大期を迎えたが、その平均寿命は8年。現下の景気拡大期はちょうど過去3回の平均値に一致する。

トランプ大統領
トランプ大統領
Photographer: Andrew Harrer/Bloomberg

  今回は成長力が弱いため、金融緩和状態がなお維持され、過去の強い成長期よりもかえって長続きする可能性もある。だが拡大期は永遠に続くわけではない。

  ムニューシン財務長官が今月初めに、「公約した3%成長の達成には恐らく2年を要する」と語ったのは、次の大統領選挙に向けた闘いが本格化し始める2019年に3%成長を遂げるという計算が働いている。さらに長官は、3%成長を達成した後に「持続可能な水準になる」と予想しているが、このシナリオには景気循環の視点が欠落している。

  20年の大統領選挙を予想する上で重要なのはむしろ、いつ景気後退に突入するかだろう。 1980年代初めのダブルディップ不況期に就任したレーガン第40代大統領からオバマ第44代大統領までに、2期8年をまっとうした大統領は4人。いずれも1期目の早い時期に景気後退の影響から抜け出し、景気拡大期のさなかに2期目の選挙戦に臨み、再選を容易にしていた。

  これら4人の大統領はいずれも、失業率が低下トレンドを強める中で再選を果たしている。一方、ジョージ・H・W・ブッシュ第41代大統領(ジョージ・W・ブッシュ第43代大統領の父、在職1989~93年)は、就任の翌年に景気後退に突入。景気後退は9カ月間と短かったものの、その後の「雇用なき景気回復」の責任をとらされる形で、92年の大統領選挙でクリントン候補に惨敗した。

  この時失業率はなおピーク圏にあった。クリントン候補は選挙戦中、「経済だよ、おばかさん」と、ブッシュ大統領の経済無策を揶揄(やゆ)し、争点を明確にしていた。

  トランプ大統領は、今年から来年にかけて景気後退に陥れば、シニア・ブッシュ大統領が描いた軌跡と似たパターンをたどるリスクが高い。さらに遅れて19年に景気後退となれば、対立候補に格好の攻撃材料を与えることになる。トランプ氏は「米国経済の再生」をスローガンに掲げているが、クリントン第42代大統領の言葉を借りれば、「景気は循環するのだよ、おばかさん」といったところか。

  米金融政策当局が注視する失業率は、この景気循環の転換点を予測する上で示唆に富む動きを示し始めた。連邦公開市場委員会(FOMC)で副議長を務めるダドリー・ニューヨーク連銀総裁は昨年10月12日の講演で、「米国が既に完全雇用の水準にあるからといって、国民が失業したままで平気だとは考えない」と述べ、完全雇用を達成した後も、金融緩和の状態を続け、失業者の数を減らしていく決意を表明していた。

  当時の失業率は4.8%。それからFOMCは2度利上げを実施したが、政策当局者によると「なお金融緩和状態は続いている」。この結果、失業率は4月に4.4%と、2007年5月以来の低い水準まで低下してきた。「10年ぶりの低い水準」ということで、市場関係者の間でも米国経済の強さを裏付けるものと評価されているが、景気の強さはもろさの裏返しでもある。
 
  07年5月といえばサブプライム住宅金融危機が広がり始めた時だ。その7カ月後に米経済はグレートリセッションに突入した。このように「最大限の雇用確保」とは、米国経済が最大限に膨らんでいる臨界点でもある。自己利益の最大化を目指す資本主義の下では、無理な動きも最大限に膨らんでいると考えて間違いない。

  今年4月に至る失業率のチャートライン(青線)を10年間さかのぼって07年5月に合わせると、トレンドがほぼ一致してきたことが見て取れる。07年当時(白線)は、その7カ月後の同年12月にグレートリセッション(赤の縦じま)に突入した。

  無論、これからの米経済が07年当時と全く同じトレンドをたどるとは限らない。ただ、ダドリー総裁が指摘した通り「最大限の雇用」を確保したとすれば、失業率はいずれ上昇トレンドに転換する。過去の経験則では失業率がボトムから0.5~0.6ポイント上昇したところで景気後退に突入する。
 
  2009年第3四半期に始まった現下の景気拡大局面で、実質GDPは2015年第1四半期に記録した前年比3.3%成長をピークに、減速トレンドに転換してきた。ムニューシン長官が示した「2年後に3%成長を取り戻し、そこからさらに安定軌道に入る」というシナリオを、ここから描くのは容易ではない。むしろこれから1年ほど一進一退を続けながら、徐々に低下ピッチを速め、景気後退へと突入するリスクの方が高い。

  クリントン第42代大統領の下で財務長官を務めたラリー・サマーズ氏は、「長期にわたる景気拡大を経た後には景気の寿命に固有のリスクが存在することを、われわれは常に肝に銘じておくべきだ。現在のような時にあっては、自己満足は自滅の予兆である」と2000年5月に述べていた。17年を経て、この警句が再び重みを増してきた。

  短中期的な問題ばかりではない。もっと重要なのは、米国経済は超長期減速トレンドをたどってきたことであろう。第2次世界大戦後の実質GDP統計(前年比)をみると、規則正しい減速トレンドを形成してきたことが見て取れる。この超長期トレンドを伝統的な財政・金融政策で逆転できると考えるのは楽観的に過ぎるだろう。

 (【米国ウオッチ】の内容は記者個人の見解です)

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