安倍晋三首相が憲法改正に向け動き出した。2020年の施行を目指し、憲法9条に自衛隊の存在を明文化する案を提唱している。自民党は今後、具体的な改正案を検討するが、民進、共産両党は反発。中国も議論の動向を注視している。

  安倍首相は9日の参院予算委員会で、自衛隊について「政府としては合憲だという立場は揺るがない」としながらも、「憲法学者の多くの方々が、7割、8割の方々が違憲と言っていてその記述は教科書の中にもある」ため、状況を変えることが「私たち世代の責任ではないか」と述べた。

  首相は3日、読売新聞朝刊に掲載されたインタビューと改憲派団体の主催したフォーラムに寄せたビデオメッセージで、20年の改正憲法施行を目指す考えを表明。具体的な対象として9条を挙げ、戦争放棄をうたった1項、戦力の不保持を定めた2項は残したまま、「自衛隊を明文で書き込む」案を示した。首相は改正をめぐる発言は、党総裁としてのものだとしている。

  ローウィー国際政策研究所(シドニー)のディレクター、ユーアン・グレアム氏は、自衛隊の明文化は「政治家の側から出てきたもので、自衛隊の人たちが強く求めているわけではない」と分析。安倍首相や周辺にいる改憲派は「現行憲法が外国から押し付けられたもので日本の国民性を反映していないという感覚を持っている」との見方も示した。

  フォーラムを主催した「美しい日本の憲法をつくる国民の会」などは3日、9条に自衛隊の存在を速やかに明記することなどを求める声明を採択している。ホームページによれば、同会はジャーナリストの桜井よしこ氏らが共同代表を務め、代表発起人にはJR東海の葛西敬之名誉会長や近鉄グループホールディングスの山口昌紀相談役らが名を連ねる。

加憲  

  1947年施行の現行憲法は9条で戦争放棄を掲げ、「陸海空軍その他の戦力」の保持を否定。自衛隊は日本を守る「必要最小限度の実力」を備えた組織として54年に創設されたが、活動は制限されてきた。安倍政権は2014年の閣議決定で、憲法解釈で禁止してきた集団的自衛権の行使を条件付きで容認。野党が反発する中、新方針を法制化した安全保障関連法も翌15年に国会で成立した。 

  憲法改正には衆参両院の3分の2以上の賛成による発議が必要だが、自民党単独では届かないため、公明党の協力が不可欠となる。同党は平和主義など現行憲法の原則を堅持しつつ、時代の変化に伴って新たに必要になった理念・条文を加えて補強する「加憲」が憲法改正の「最も現実的で妥当な方式」と主張してきた。

  公明党の斉藤鉄夫幹事長代行は14日、首相の提案を「理解ができる」とNHKの番組で語った。ただ井上義久幹事長は12日の記者会見で、自衛隊を憲法上明記しなければ安全保障に支障があるという状況ではないと指摘。斉藤氏も同じ番組で党内には「合憲であることは大多数の国民が認めており、あえて書く必要はない」との意見があることも紹介した。

野党

  首相は自衛隊の明文化のほか、野党の日本維新の会が主張していた教育無償化も改憲の検討項目として挙げている。同党の馬場伸幸幹事長は9日の記者会見で、首相発言を「歓迎したい」と述べた上で、どの条文をどう改正するかの案を「各政党が取りまとめる時期が来ている」と語り、改憲論議の加速を促した。

  一方、民進党の江田憲司代表代行は12日の記者会見で、首相の案は「改正のための改正」であり、「莫大(ばくだい)な政治的エネルギーを投入する必要は全くない」と反発。共産党の小池晃書記局長は14日、NHKの番組で首相提案について「いよいよ改憲の本丸に踏み込んできた」と述べ、自衛隊を憲法に書き込めば軍事行動の拡大に「完全に歯止めがなくなる」との懸念を示した。

党内調整

  自民党が野党時代の12年4月にまとめた憲法改正草案は9条1項、2項を改正して国防軍の創設を明記しており、安倍首相の提案とは異なる。下村博文幹事長代行は14日のNHK番組で20年の改正憲法施行を実現するためには発議案を「来年の通常国会に自民党から出せれば一番いい」と話しているが、党内調整には一定の時間が必要になる。

  草案作成に関わった石破茂元幹事長は3日、BSフジの番組で首相提案は「今までの議論の積み重ねの中にはなかった考え方だ」と指摘。「自民党の議論って何だったの、ということはある」と疑問を投げ掛けた。

  一方、岸田文雄外相は15年に自らが率いる派閥「宏池会」の会合で憲法9条を改正することは当面、考えないと発言している。11日の参院外交防衛委員会では、藤田幸久氏(民進)から現在の見解を問われ、「まずは平和安全法制の成果を見極めるべきだということで発言した。今現在、この考え方は変わっておりません」と述べた。

中国

  北朝鮮がミサイル発射など挑発行動を続けている中、中国も日本での憲法9条改正論議の行方を注視している。

  中国外務省の耿爽副報道局長は3日の記者会見で、首相提案について「歴史的な原因により、日本が平和憲法を改正する問題はアジアの隣国から長年にわたって関心が寄せられている」と発言。「われわれは日本側が適切に歴史の教訓を真面目にくみ取り、時代の潮流に順応し、平和発展の道から離れず、地域の平和と安定を守るために建設的な役割を果たすよう希望する」と求めた。

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