どうする日本投資家、フランス国債買い遅れても押し目に活路か

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  • 仏10年物国債利回りは1.1%から大統領選直前には0.80%へ低下
  • 「売った価格より安く買いたい心理が働く」-パインブリッジ

フランスの国債と欧州連合(EU)の単一通貨ユーロは、政治リスクとして警戒されていた仏大統領選の結果が判明する前から値を戻していた。さらに前の時点で仏国債を大量処分していた日本の投資家は、リスクに敏感で購入に慎重な出遅れてしまったようだ。

  3月下旬に1.1%台だった仏10年物国債利回りは、大統領選直前の先週には0.80%まで低下。同年限のドイツ国債に対する上乗せ金利(スプレッド)は今週、年初来最低となる42ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)まで縮小し、投資妙味が減っている。ユーロの対円相場は1ユーロ=124円台と、ほぼ1年ぶりの高水準となっている。

  仏国債やユーロが割安だったころ、日本人投資家は、仏国債の大量処分に動いていた。財務省の統計によれば、中長期債の売越額は3月に9435億円。極右勢力が台頭するイタリアやスウェーデンも含めた欧州債という区分けでは売り越しが1兆円を超えた。4月の海外中長期債の売越額は4兆2559億円とデータでさかのぼれる2005年以降で最大を記録。昨年度の買越額9兆1890億円の半分近くを吐き出した計算だ。

  パインブリッジ・インベストメンツ債券運用部の松川忠部長は「日本の投資家が外債にシフトする流れは変わらないが、相当売った後で一気に買い戻すのは難しく、足元にかけてはまだ大して買っていない」とみる。「組織として、売った価格より安く買いたい心理が働く。仏国債についても買い目線だろうが、米国の6月利上げに絡んだ押し目買いの機会を狙っても良いのではないか」と述べた。

マクロン仏次期大統領

Photographer: Christophe Morin/Bloomberg

  仏大統領選では7日、EU重視派のマクロン氏が勝利。ユーロ圏で2番目の経済大国が通貨同盟からの離脱リスクは後退した。3月のオランダ総選挙でも極右勢力の政権奪取は実現せず、ドイツの州議会選でも一時は世論調査で劣勢だったメルケル首相の与党が勝利。昨年6月にEU離脱を選んだ英国では世論調査で、誤りだったと考える有権者が離脱支持者を国民投票後で初めて上回った。

  野村アセットマネジメント運用調査本部の榊茂樹チーフ・ストラテジストは、6月の仏国民議会選が「マクロン政権の安定性や指導力を占う意味で非常に重要な選挙になる」と指摘。首相の人選でもかなり苦労し、政治動向が安定しない可能性もあるとしながらも、同国の「ユーロ離脱といった政治的混乱が起こるとは当面は考えにくい」とみている。

政治リスク

  グローバル化に伴う格差拡大、移民問題や度重なるテロを背景に欧米で台頭した大衆迎合主義の流れに対して、世界の投資家は機敏に動いている。仏大統領選では最有力候補だったフィヨン元首相が不祥事で失速すると、国債利回りの対独スプレッドが2月中旬にかけて急拡大し、ユーロは下落。その後もほぼ毎日発表される世論調査をにらみながら、マクロン氏の勝利をいち早く織り込んだ。

  岡三証券の鈴木誠債券シニアストラテジストは「仏大統領選は政治面では今年前半で最大のイベントだとみられていたので、本当は4月初めから買い出動していないと駄目だ」と指摘。「日本の投資家は外債投資に伴うリスクの抑制を重視するため、どうしても出遅れて上値を買ってしまう傾向にある」と言う。

  国内勢による海外中長期債の買越額は昨年7月に5兆4494億円と過去最高を記録。日本銀行のマイナス金利政策を背景に日本の20年債利回りが初めてゼロ%を割り込んだだけでなく、米欧主要国でも国債利回りが軒並み最低を付けるなど、債券価格が大きく値を上げるたタイミングだった。その後、米大統領選でのトランプ氏勝利をきっかけに米欧債が下落する12月からの5カ月間では8兆7623億円を売り越した。

  とはいえ、日本の投資家が勝機を完全に失ったわけではない。円を元手にした外債投資で、将来的に円高が進んでも為替差損を被らないように回避措置(ヘッジ)を講じた場合、ブルームバーグの試算では仏10年債の利回りは1.2%前後と、米国債の0.8%台を安定的に上回っている。それに比べて、国内勢にとって為替ヘッジのいらない日本国債は、10年物利回りが日銀の金利コントロール策を背景にほぼゼロ%と運用妙味に欠ける。

ヘッジコスト

  為替ヘッジのコストは、投資先の通貨と元手の通貨のロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の格差と、クロス通貨ベーシススワップが映す通貨間の需給格差に基づく上乗せ金利が目安となる。利上げ局面にあるドルの短期市場金利は日欧より高く、今後も上昇する見通しだ。一方、欧州中央銀行(ECB)のマイナス金利は日銀より深いため、ユーロの3カ月物LIBORは円より低く、日本の投資家にとって欧州債の運用は為替ヘッジの負担が少なくて済む。

  円とユーロの3カ月物LIBOR格差は3月下旬に39.7bpと、ユーロが1999年1月にEUの単一通貨として導入されて以降で最大を記録した。足元でも、円建て金利がユーロ建て金利を大きく上回る状態が続いている。

   主要な生命保険会社は今年度の資産運用で、米国の利上げが進むにつれて対ドルの為替ヘッジコストが一段と上昇していくと予想。米国では信用リスクの対価として国債より高い利回りが期待できるクレジット物への投資を増やすほか、ユーロ建て債券への投資機会をうかがう。日本生命保険は米国では社債や不動産担保証券(MBS)などスプレッドが乗った投資先を重視。為替ヘッジコストの安い欧州では国債を中心に投資する方針だ。

  ニッセイアセットマネジメント債券運用部の三浦英一郎リードポートフォリオマネジャーは「マクロン氏の勝利でテールリスクがなくなり、フランスに投資しやすくなった。生保は円債の金利が低いままなので、外債を買わなくてはならない。フランスを含む欧州の債券を一定程度は買うことになる」と分析。ただ、ECBも金融緩和の解除に動きやすくなっているため、生保などはゆっくり買い始めると読む。

  日本証券業協会の統計では、生損保による利付国債の買越額は昨年度に2兆9132億円と9年ぶりの低水準。主戦場の超長期債は4兆692億円と過去10年で3番目に少なかった。国内勢はユーロ圏の投資対象をフランスだけでなく、イタリアやスペインにも関心を広げている。イタリアではユーロ離脱の是非に関する国民投票を求める「五つ星運動」が来年の総選挙で第一党になる可能性もあるが、中軸の仏独に関する懸念が後退しているためだ。

  三菱UFJ国際投信・戦略運用部の石金淳チーフストラテジストは、欧州の債券では「イタリア、スペインはポートフォリオから外せない、何らかの形で入れておかないといけない」と指摘。ユーロ圏で最も安全とされる「ドイツ国債の利回りはあれだけ低いので、周辺国に行かざるを得ない」とみている。

(第7段落以降を追加して更新します.)
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