【米国ウオッチ】トランプ大統領がおびえる「実にひどい経済」 (上)

第1四半期の米国内総生産(GDP)が急減速したことについて、トランプ大統領は「実にひどい」と嘆いてみせた上で、「第1、第2四半期は、実際のところ私とは関係ない」と前政権に責任を転嫁した。

  同大統領は今月1日、ホワイトハウスの執務室でブルームバーグ・ニュースのインタビューに応じ、「公正を期すために言うが、私はここに来たばかりだ」と語り、「実にひどい経済」から距離を置いた。

トランプ大統領

Photographer: Andrew Harrer/Bloomberg

  しかしトランプ大統領はもはや、経済の悪化から逃れることはできない。なぜなら労働省が3月10日に2月の雇用統計を発表したあと、トランプ氏は「雇用統計はこれまでインチキだったかもしれないが、今では本物だ」と述べ、順調な雇用拡大を自分の手柄としたからだ。

  もっとも、この2月の「雇用統計」こそ「インチキ」だと見抜くべきだった。無論、労働省がインチキをしているわけではないが、市場が注目する雇用統計では米国経済の真実がしばしば隠されてしまう。市場関係者が最も注目する非農業部門の雇用者数は、当該の月に創出されたすべての雇用者数からセパレーション(自発的離職者+解雇者)を差し引いた数値である。

  こうした総合的なデータの詳細は、雇用統計より1カ月遅れて公表される「求人・労働移動統計」で明らかにされる。それによると、2月は全雇用創出が524万9000人と、1月に比べると17万5000人も減少していた。現実の雇用創出が減少する中で、市場参加者が注目する雇用統計のヘッドラインは23万2000人増加と高い数値を示した。そのマジックはセパレーションが雇用創出よりさらに大幅に減少したためである。

  セパレーションは2月に500万8000人と、前の月に比べ23万9000人も減少していたのだ。この結果、雇用創出からセパレーションを差し引くと24万1000人となる。労働移動統計と雇用統計は調査期間が異なるため、数値に若干開きが生じる。

  3月の雇用統計では、非農業部門の雇用者数の伸びが7万9000人に縮小してしまったが、トランプ大統領は「統計は本物になった」と前月に言い切った後だけに、この発表後には無言を通した。その後1カ月余りが経過し、低調なGDP統計が発表されたため、冒頭に紹介した通り、「ひどい内容だが、私の責任ではない」と、前政権に責任をなすりつける姿勢に転じたわけだ。

  その上でトランプ大統領は、ひどい経済を立て直すため「景気刺激策」が必要だとも話していた。ただし、最高権力者である大統領自身がこのような経済分析をしていたのでは、適切な対策が取れるのかどうか懐疑的にならざるを得ない。

  労働移動統計で雇用創出のデータをさかのぼると、現下の景気拡大期では2015年12月に550万4000人でピークを付けている。前回の景気拡大期では2006年11月の552万8000人がピークだった。この時は13カ月後に景気後退に突入していた。今回は金融緩和が長く続けられてきた結果、景気拡大局面が長期化しているが、連邦公開市場委員会(FOMC)が利上げを続けていけば、いずれ限界点に到達する。

  FOMCは長年にわたり、現在のように雇用の最大化達成が視野に入る中で利上げを継続してきたため、景気後退とバブル崩壊を招いてきた。労働市場の構造変化を目視できる就業率とFOMCの政策金利の推移を比べると、利上げが景気後退とバブル崩壊につながってきたことが明白になる。

  就業率は生産年齢人口に占める就業者数の比率である。2000年4月に記録された64.7%が過去最高水準だ。当時のグリーンスパン連邦準備制度理事会(FRB)議長はその翌月に、政策金利のフェデラルファンファンド(FF)金利を0.5ポイント引き上げて6.5%とした。その10カ月後の01年3月、米国は景気後退に突入した。

  次の景気拡大局面で、就業率は2006年12月に63.4%でピークを付けていた。当時はバーナンキFRB議長がその年の6月にFF金利を5.25%まで引き上げ、「データ次第で追加利上げもあり得る」と語っていたが、その機会は訪れず、住宅金融バブルの崩壊と共に米国は07年12月に景気後退に突入した。

  2009年6月の景気の谷を起点とする今回の景気拡大局面では、就業率は2010年11月に58.2%と1984年以来の低い水準まで落ち込んだ。今年4月に60.2%まで戻したものの、前回の拡大局面のピークをなお3.2ポイントも下回っている。

  これは米国経済の構造的劣化が進んでいることを如実に示しており、政策金利水準がなお0.75~1.00%にとどまっていることと整合的である。つまり、緩和でも引き締めでもない中立金利の水準も経済の体力に沿って低下してきており、現行の政策金利水準で既に引き締め効果が出ている可能性も否定できない。

  一方、FOMC参加者の政策金利予測の中央値でも年内あと2回、来年3回の利上げが想定されており、このペースで利上げが続けば途中で景気が腰折れする可能性は高い。トランプ大統領は「今年の第2四半期まで私に関係ない」と語り、第3四半期からは自身に関係するとの立場を示していた。
  
  労働関連統計からは、景気腰折れリスクが今年後半から徐々に高まって行く方向性が認められ、トランプ大統領は窮地に立たされる公算が大きい。

  そのリスクはFOMCが注視する失業率に明確に表れてくるだろう。次回はその失業率を中心に分析する。  

 (【米国ウオッチ】の内容は記者個人の見解です)

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