為替差損を回避するためのヘッジコストは安価でなく、国内の機関投資家にとって海外資産の運用は楽でないはずだ。それでも主要な生命保険会社は、超低金利が長引く日本国債よりはましだと、海外でリスクを取って活路を開く考えだ。

  日本生命保険は2017年度の資産運用計画で、昨年度に1兆9000億円増やしたヘッジ外債の残高を横ばいにとどめ、為替リスクを伴うオープン外債を積み増す。ヘッジ外債は円金利資産の代替だが、国内債は増やさない。第一生命保険明治安田生命保険は円債を減らし、住友生命保険は国内債を純増させずに、それぞれオープン外債の積み増しを加速する機会をうかがう方針だ。

  米国の利上げに伴い日米金利差は拡大し円安基調となるものの、地政学的リスクや海外政治の不透明感から円高局面もあると各社はみている。

  今回の運用計画でもう一つ特徴的だったのは、信用リスクの対価として国債より高い利回りが期待できるクレジット物への投資を国内外で拡大すると各社が相次ぎ表明したことだ。4社の一般勘定資産は昨年末時点で合計164.5兆円。世界最大の年金基金、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を約20兆円上回る。 かつては超長期国債が中心だった資金配分がどの分野に向かうのか、市場関係者の関心は高い。

  財務省の統計によれば、生保の海外中長期債の買越額は昨年度に7兆7388億円とデータでさかのぼれる05年度以降で最大だった。米大統領選でのトランプ氏勝利後も、米金利が急上昇する中で5兆円近く売り越した邦銀勢とは対照的に、ほぼ横ばいを保った。日本証券業協会の統計では、生損保による利付国債の買越額は昨年度に2兆9132億円と9年ぶりの低水準。主戦場の超長期債は4兆692億円と過去10年で3番目に少なかった。

第一生命保険
第一生命保険
Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  メリルリンチ日本証券の大崎秀一チーフ金利ストラテジストは、生保の運用は「ヘッジコストの上昇が見込まれる中でオープン外債が焦点となるが、為替リスク管理の観点もあって、オルタナティブ(代替)資産を含む新規分野を強化すると言わざるを得ない」と指摘。「為替リスクを完全にヘッジした『海外でかつクレジット物』は一つの落としどころだ。超長期金利が上がるまで、日本に帰って来ないだろう」とみる。

 
  住友生命は国内の劣後性証券や米国のバンクローン、航空機ファイナンス、プロジェクト・ファイナンスなどに投資対象を広げ、クレジット資産に今年度から3年間で2兆円を投入。すでに手掛けている米国の社債についても、現地子会社と連携して為替ヘッジ後でも収益性が高い銘柄を選び、業種などを分散しながら中長期的に積み上げを続ける。

  同社の松本巌上席執行役員兼運用企画部長は今週の記者説明会で「外貨建てのクレジット物は全て為替ヘッジ付きでやっていく。米国のモーゲージ債や社債はヘッジ後でもスプレッドが乗っており、しっかり収益性がある」と説明。「米社債はA格だと米国債より利回りが約1%高い。市場規模も日本の8-9倍に当たる500兆-600兆円と、流動性が高いと認識している」と述べた。

  明治安田生命も今後3年間に国内外で8000億円ずつ、国内ではハイブリット債や銀行の財務健全性を高める総損失吸収能力(TLAC)債、海外では社債や証券化商品などに投じるほか、ESG(環境・社会貢献・企業統治)投資などの「サスティナビリティ」分野に5000億円程度を振り向ける。山下敏彦執行役副社長によると、今年度は保険料収入と債券の償還資金が約1兆5000億円になるが、その約3割を国内外のクレジット物に振り向ける。

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第一生命の2017年度運用計画の詳細記事はこちらをクリックしてください

  第一生命はインフラや実物資産、ESG債等の新規分野で投融資を拡大し、収益率の向上と保有資産の多様化を図る。外貨建てのプロジェクト・ファイナンスに円建てで投資できる仕組みを信託銀行と開発。風力・太陽光発電や不動産ファンドへの投資も進める。重本和之運用企画部長は「生保が運用するのは長期の資金とあって流動性を犠牲にしても大丈夫な点が銀行との差別化になる」と言う。

  もっとも、こうした分野はオルタナティブに区分される資産も多く、巨額の資金を短期間に投入できる流動性の高い国債や株式などとは事情が異なる面もある。第一生命の重本氏は「重点的にやりたいと思っても、案件が都合良く出て来る分野ではない。どのような案件がいつどのくらいの規模で立ち上がるかを捉える『ソーシング』が難しい」と言い、「より良い案件をいかに早く知ることができるかに注力している」と話した。

為替ヘッジコスト

  生保の運用資産はALM(資産・負債の総合管理)の観点から、保険契約者に支払う負債に見合い、残存年限が長く、安定的な収益が見込める円建てが中心となる。債券を償還まで保有すれば金利上昇時の評価損を免れる「責任準備金対応」「満期保有目的」という会計上の措置も可能だ。本来は超長期国債が最優先の投資対象で、ヘッジ外債は利回りが低迷する国内債の代替手段という位置づけにある。

  為替ヘッジコストの目安は、国内外の短期金利差と通貨間の需給格差を映すベーシススワップが主流。

  ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の3カ月物金利差は米国も実質ゼロ金利政策だった2年前は約18ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)にすぎなかったが、足元では117bpと08年12月以来の高水準となっている。円建てとドル建ての元本を3カ月間交換することを条件にLIBORを取引するベーシススワップは足元で、ドル建て元本に対して約30bpの上乗せ金利が求められている。

  米10年物国債利回りは現在2.3%前後だが、為替ヘッジ後の利回りは0.7%台後半にとどまる。ドル・円ベーシススワップ取引のドル建て元本に対する上乗せ金利は金融機関への規制緩和を掲げるトランプ氏の大統領選勝利以降に縮小傾向だが、短期金利差は米利上げにほぼ連動して拡大するため、米長期金利がよほど上がらない限り、ヘッジ外債の収益率は圧迫される可能性が高い。

  生命保険協会の統計によると、生保41社の総資産は2月末に362.8兆円と前年比3.2%増えた。国債は147.3兆円とほぼ横ばいだったが、構成比は40.6%と1.2ポイント低下。社債は3%増の25.8兆円で全体の7.1%を占めた。外国証券は14.7%増の81.3兆円。構成比は22.4%と2.2ポイント上昇した。

超長期国債運用は利回り1%超えてから

  生保がヘッジ外債を運用する際に比較する20年物国債は先週0.54%と昨年12月以来、30年債は0.735%と1月以来の水準に、それぞれ一時低下した。超長期債の利回りが昨秋以降に上昇した局面は、トランプ米政権の景気刺激策に対する期待や日銀の国債買い入れオペをめぐる混乱が広がった時のみだった。
 
  日本銀行の黒田東彦総裁は異次元緩和の波及経路として、投資家を国債から株式や外債などに向かわせる「ポートフォリオ・リバランス」効果を挙げていたが、昨年9月に金利コントロール策に転じた際には超長期金利の過度な低下が生保や年金基金に副作用を及ぼすことを認めている。
  メリルリンチ日本証の大崎氏は、生保は「超長期債の利回りがさらに上昇するまで待ちの姿勢だろう」と読む。住友生命の松本氏は買いの目線は「30年債で1%を超えてから」と説明。日本生命の秋山直紀財務企画部長は「本格的に超長期債に投資するのは20年債か30年債で1%以上」に上昇した場合だと語った。 

  日銀は27日に景気判断を上方修正し、リーマンショック前の08年3月以降で初めて「拡大」と表現した。ただ、黒田総裁は記者会見で、現在の異次元金融緩和策を続ける目標のインフレ率が安定的に2%程度を超えるのは、日銀が目指す「18年度ごろ」よりも先になるとの見通しを示している。

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