地政学リスクの高まりでくすぶる円の先高観。まずは今週末のフランス大統領選の第1回投票と来週の北朝鮮の軍創建記念日が正念場となるが、市場関係者のドル・円相場の目線はトランプ相場の起点である昨年11月の水準にまで向かっている。

 「核実験を行ったり、中国の言うことを聞かなかったとなると外交の万策が尽きて、軍事行動ということにならないとも限らない」。しんきんアセットマネジメント投信運用部の加藤純主任ファンドマネジャーは、北朝鮮の出方次第でドル・円は「いつ何時下抜けるかわからない」とし、北朝鮮の記念日である25日に向けて円高が進む可能性が高いとみる。トランプ米政権の財政出動や減税策も見えてこない状況で、「ドル買いは早すぎたということになり、いったんは105円にきても何らおかしくない」と語る。

韓国と北朝鮮の軍事境界線を挟み設置されている非武装地帯
韓国と北朝鮮の軍事境界線を挟み設置されている非武装地帯
Photographer: SeongJoon Cho/Bloomberg

  オプション市場では円高への警戒が昨年6月の英国の欧州連合(EU)離脱ショック以来の水準まで高まっている。デリバティブなどを活用して運用効率の向上を図るレバレッジドファンドは、昨年11月下旬からトランプ米大統領のリフレ政策への期待や米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ観測を背景にドルに対して円を売り越してきたが、今月に入り買い越しに転じた。

  経常黒字国が故に長らく「安全通貨」と位置づけられてきた円は、地政学リスクが高まる局面で買われやすい。仏大統領選をめぐる不透明感やトランプ政権によるシリア空爆、北朝鮮情勢の緊迫化などを背景に円は月初から対ドルで約2%上昇している。

  トランプ政権の為替政策に対する疑念や米経済の鈍化懸念も円の上昇圧力となっている。トランプ米大統領の「ドルは強過ぎる」発言や3月の米消費者物価指数(CPI)が約1年ぶりに前月比マイナスとなったことなどを受け、今週初めには一時108円13銭と昨年11月15日以来の水準まで円高が進行した。弱めの経済指標が続く米国では6月の利上げ観測が後退、10年債利回りは今週、昨年11月以来の水準まで低下した。

  将来のドル・円相場の変動率の予測を示すドル・円の1カ月物のインプライド・ボラティリティは今週初めに一時3カ月ぶりの高水準を付けた。1カ月物のリスクリバーサルは、円を売る権利に対する円を買う権利のプレミアムが、予想外のEU離脱派勝利で世界を驚かせた昨年6月の英国民投票直後の水準まで拡大し、円の先高観を示唆している。一方、3カ月物のリスクリバーサルは、持続的な円高についてはなお懐疑的だ。

  三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作チーフ為替ストラテジストは、マーケットは先の見えないもやもやした状態を最も嫌うため、北朝鮮をめぐる不透明感が続いている間は「心理的な重しになってしまうのはやむを得ない」と指摘。「短期的に軍事的緊張感が強まって円高になれば、1ドル=106円台がないとも限らない」と話す。

  植野氏によると、米国中心の多国籍軍によるイラク空爆で湾岸戦争が始まった1991年1月17日にドル・円は4%以上円高に振れており、「今に換算すると4、5円くらい」円高にもっていかれる可能性がある。しんきんアセットの加藤氏は、ドル・円が108円を下抜けた場合、英EU離脱ショックで100円前後まで円高が進んだ後の昨年7月の戻り高値の水準107円50銭、さらに同10月高値水準の105円50銭が「引っ掛かり」のポイントになるとみている。

仏大統領選

美容室のショーウインドーに飾られた仏大統領候補の似顔絵が付いたシャンプーボトル
美容室のショーウインドーに飾られた仏大統領候補の似顔絵が付いたシャンプーボトル
Photographer: Marlene Awaad/Bloomberg

  仏大統領選第1回投票は、主要4候補の支持率が拮抗(きっこう)している。極右のルペン国民戦線(FN)党首はフランスのEU離脱の可能性をちらつかせ、極左のメランション氏もユーロ参加の前提となる条約も含めたEU条約の再交渉を主張している。中道で独立系のマクロン氏が5月の決選投票に進むことができれば、他のどの候補と一騎打ちになっても勝利する見通しだが、有権者の3分の1が態度を決めかねている状況で、予断を許さない。

  フランスの世論研究所、Ifopが実施する日次の世論調査結果によると、フランス大統領選第1回投票の支持率は、マクロン氏が0.5ポイント上昇し24%、ルペン氏が横ばいの22.5%。共和党のフィヨン元首相と左翼党のメランション氏は20%弱で横ばい状態だ。仮に、マクロン氏とルペン氏が決選投票に進んだ場合の支持率は61%対39%となっている。

  大和証券の亀岡裕次チーフ為替アナリストは、万が一第1回投票で中道派が負けた場合、ドル・円は「107円を下回り、105円のレベルが見えてくる」と予想。また、メインシナリオ通りに中道派が勝った場合もドル・円の上昇は限られ、リスク回避の流れの中で円高圧力が残るとみている。

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