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日米経済対話は「相当ハード」な交渉に、円高不可避-榊原元財務官

更新日時
  • 恐らく年内に1ドル=100円を突破する
  • 「ノーと言うべきところはノーと言うべきだ」

トランプ政権は日米経済対話で「かなり厳しい」要求を突きつけてくる-。1990年代の対米貿易摩擦を背景とした超円高を打開した経験を持つ榊原英資元財務官は、輸出競争力や雇用に有利なドル安を志向する米国との交渉が難航すれば、今回の円高は避けられないとみている。

Former Finance Ministry Official Eisuke Sakakibara Interview

榊原元財務官

Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  ミスター円の異名をとる榊原氏(76)は17日のインタビューで、トランプ大統領は「雇用重視と輸出促進なので、ドル安を望んでいる」と指摘。経済対話は「相当ハードな交渉になる。米国の要求は必ずしも全てはのめないので、日本政府はノーと言うべきところはノーと言うべきだ。ただ、難航すればどうしても円高になる」との見方を示した。

  

  週明け17日の東京外国為替市場では、ドルは米国が攻撃姿勢を鮮明にしているシリアや北朝鮮、アフガニスタンとの地政学的リスクもあり全面安の展開となる一方、円はリスクの回避先として全面高となった。ドル・円相場は1ドル=108円台前半と、昨年11月の大統領選直後に付けた101円台前半から、12月には米景気刺激策を先取りする形で118円台後半まで上昇したものの、その上昇幅の6割近くを失った。

ブルームバーグ ドル・スポット指数

  12日付の米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、トランプ大統領がドルは強くなり過ぎ、米企業の競争力を損ねていると発言したと、インタビュー記事で報じた。榊原氏は「緩やかな円高・ドル安の流れが今後も続いていく。恐らく年内に100円を突破する」と読む。

  麻生太郎副総理兼財務相とペンス米副大統領は18日から2日間の日程で、都内で初の経済対話を行う。次回は6月に米インディアナ州で開く予定だ。麻生財務相はムニューシン米財務長官ともワシントンで、20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が開かれる20日に会談。共同通信によれば、米国は今週のG20会議で為替問題の重要性を強調する方針だ。

  米財務省は14日公表した半期に一度の外国為替報告書で、日本と中国、ドイツ、韓国、台湾、スイスを、1)対米貿易黒字が200億ドル超、2)経常黒字が国内総生産(GDP)の3%超、3)GDPの2%規模の海外資産購入による継続的な通貨安誘導のいずれかに抵触する「監視リスト」に引き続き指定。中国については為替操作国と認定しなかった半面、米貿易赤字に占める割合の大きさを新たに指摘した。

  円については実質実効レートが過去20年間の平均に比べて20%安いと指摘。為替介入を最小限にとどめ、柔軟で透明性のある為替政策を目指すよう求めた。榊原氏は「為替介入は両国が合意しないと実施できない。今回100円に向かう過程ではあり得ない」と指摘。「米国がある程度のドル安を望んでいるため、90円が視野に入る状況になれば可能性が出てくる」と述べた。

  1995年4月。ドル・円相場は日米貿易摩擦などを背景に当時の戦後円高値79円75銭を記録した。その後に大蔵省(現財務省)の国際金融局長に就任した榊原氏は、米欧との協調介入で手腕を発揮し、相場は同年9月に100円台を回復にした。アジア経済危機が発生した97年7月からは財務官を務め、巨額の円買い介入も実施した経験がある。政府・日銀は75円35銭と円高値を更新した2011年10月末の直後に過去最大の円売り・ドル買いを実施したが、以後は約5年半介入していない。

貿易摩擦

  日本の経常収支は第2次オイルショック後の1981年から36年連続の黒字。昨年は20.3兆円とリーマンショック前の2007年以来の高水準だった半面、貿易黒字は5.5兆円と当時の4割未満にとどまった。トランプ政権が問題視している対米国に限ると、貿易黒字が経常黒字の約3分の2。昨年の米貿易赤字のうち、日本の割合は9%と中国に次いで大きかった。

  巨額の米貿易赤字を巡っては、日米欧が1985年の「プラザ合意」でドル高の是正を進めた時も規模の縮小に至らず、89年の日米構造協議につながった。日米包括経済協議に改組された93年、国際金融局次長だった榊原氏は、数値目標の設定を求める米国と自動車、保険、政府調達などで「相当激しい交渉」をしたと言う。結局、細川護煕首相とクリントン大統領は翌年2月の首脳会談で合意に至ることができず、さらなる円高進行の背景となった。

  79円台の円高を記録した95年のドル・円相場について、榊原氏は、その後の日米インフレ格差を考慮すると「今の感覚では60円台くらい」に相当する危機的な状況だったと振り返る。クリントン政権は財務長官が産業界出身のベンツェン氏から米ゴールドマン・サックス共同会長を務めたルービン氏に交代すると、過度なドル安の阻止に転換。榊原氏は米財務副長官だったサマーズ氏と協調し、行き過ぎた円高の是正を図った。

  トランプ政権が今後、ドル安に危機感を抱くとしたら、どのような局面か-。歴史的には、超円高に先立つ94年12月、米利上げを背景に対ドル相場の維持が難しくなってきたメキシコで発生した通貨危機がある。榊原氏は米国への経済依存度が高い中南米の新興国などがドル安進行による自国通貨高に耐えられなくなってきた場合も、トランプ大統領の方針転換につながり得るとみている。

  世界的な株高と金利上昇、ドル高といったトランプ相場に暗雲が立ち込めている。大規模な景気刺激策の財源を賄うはずだったオバマケア代替法案は撤回に追い込まれ、国境調整税をめぐる調整も難航しているためだ。「一時のトランプフィーバーはもう終わった。日本銀行による金融緩和策の効果も『賞味期限切れ』になってきた」と榊原氏はみている。

  トランプ大統領は米WSJ紙とのインタビューで、米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長を再指名する可能性に含みを持たせるとともに「低金利政策」が望ましいと述べている。米10年物国債利回りは昨年11月以降初めて一時2.2%割れとなり、同年限の日本国債との利回り格差は、米大統領選の直後以来の水準近くに縮小している。

  榊原氏は相次ぐ円高・ドル安要因を踏まえると、ドル・円相場は「恐らく100円を挟んだ展開になる」と読む。「米国は北朝鮮に軍事的な圧力を掛けながら、外交的な解決を目指すだろう。うまく解決できれば、ドルが若干戻す可能性がある」としながらも、うまく行かないと「アジア情勢は非常に難しくなる」と言う。

  昨年のドル・円相場は、英国の欧州連合(EU)離脱を巡る混乱で6月に100円を一時割った。今年は「トランプ相場」でくすぶったドル高見通しに下げ圧力がかかっている。榊原氏は「為替相場にはあらゆるファクターが反映されるので、想定外の要素が現れると、そちらへ動く。正確な予測はほとんど不可能だ」と語った。

(第9段落以降を追加して更新します.)
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