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運用資産30億ドルの海外投資家も高評価-新税でスピンオフ後押し

更新日時
  • 分割時点での企業への譲渡損益や株主への配当が非課税に
  • 経営者の当期利益主義脱却のための税制も拡充-企業の取り組み課題

運用資産約30億ドル(約3300億円)のヘッジファンド、ダルトン・インベストメンツのジェイミー・ローゼンワルド氏は、政府が今年度行った税制改革を高く評価している。企業の一部門を分割し独立させるスピンオフを実施した際、分割時点での企業の譲渡損益や株主が受け取る配当が非課税となる改正だ。

  「とても重要な変化が起きている。株主が多くの利益を得られるような道具になる」。ローゼンワルド氏は、これまで財閥系の多角企業が産業界の一角を占めてきた日本でこの改正が行われたことを評価し、日本企業の傘下には「多くの素晴らしい会社が隠されている」ことから、分離や再編が進めば「株主にも経営陣にも利益がある」と語った。

  今月1日に施行された新制度は、事業や完全子会社を分割した際、分割会社の株式を本体企業の株主に分配する手法が対象となる。事業売却や合弁による組織再編が主な手法となっている国内の実施例は少なく、新たな事業分割の選択肢となる。

  経済産業省産業組織課の安藤元太課長補佐は新税制について「企業価値が高まるならば分割したほうが良い。経営判断ができるように制度を整えた」と説明。事業分割が活発になれば、投資家にとって切り離された事業の価値を見極めて投資できるようになる利点があるという。

  独立した会社の企業価値は上昇する傾向にあり、米S&P500種株価指数が2003年から17年4月7日までの間に2.7倍の上昇にとどまるのに対し、親会社から分離した米国の時価総額上位企業で構成されるブルームバーグスピンオフ指数は7倍上昇した。スピンオフは海外では一般的に実施されており、15年7月に米化学メーカー、デュポンから独立したケマーズなどの例がある。

スピンオフされた米企業の株価は上昇

  日本企業の収益力は過去20年間、諸外国に比べて低迷している。TOPIXの営業利益率は16年末時点で7.3%と、S&P500種株価指数の12.6%、ストックス・ヨーロッパ600指数の8.8%と比べて低い。安倍政権は企業価値向上につながる投資を促す環境整備を進めており、今回の税制改正もその一環だ。政府は15年、コーポレートガバナンス・コードを策定し、企業に株主価値と収益性を意識した経営への変革を求めてきた。 

非効率性

  日本企業では、非中核事業が経営の非効率性につながっている側面があった。再編が進めば、親会社の経営陣は中核事業に集中でき、独立した会社は独自の資金調達ができるなどの利点がある。

  日産自動車の子会社から分離・再編をしたフォークリフト会社ユニキャリア経営企画戦略室の原口謙一氏は、「独立前は、親会社の経営状態によって投資や人材が制限されていた」と大企業の一部門に止まっていた時を振り返った。

  同社は、13年に日産フォークリフトと日立建機の事業部門が統合した新会社。原口氏によると、大企業の一事業という立場から離れることで自由な事業展開や集中投資ができ、世界で戦える体制を整えてきた。昨年、三菱重工業の傘下となり、10月には同社子会社との経営統合で売上高世界3位となる。

  ユニキャリアに投資し、業界再編を進めた官民ファンド産業革新機構の浜辺哲也最高戦略責任者は、日本では非中核となった事業を分割すると「見捨てるのか」という心理が働き、再編が起こりにくいのが現状だと述べた。だが日本企業が成長するためには「積極的に分割や再編を進めなければ、グローバルで戦えない」と語った。

動機付け

  今年度の税制改正では、役員報酬に関わる新たな税制もスタートした。中長期の業績目標の達成度合いに応じて株式を役員報酬として交付する「パフォーマンスシェア(PS)」を損金(費用)に計上できるよう変更することで税の圧縮効果が得られると同時に、経営者が単年度の利益だけでなく中長期での成果を意識するインセンティブ(動機付け)を与える。

  東芝の不正会計にみられた当期利益主義から脱却し、長期的視点での経営にもつながる内容だ。同社は08年度から14年度まで決算で利益修正を行っていたことが第三者委員会の調査で明らかになった。調査報告書では、不適切な会計処理には経営トップらの組織的な関与があり、意図的に「見かけ上の当期利益のかさ上げ」の目的で行われたとしている。

  デロイトトーマツの村中靖執行役員は、長期インセンティブ導入には欧米投資家の信頼を得る効果もあると指摘した。同社の15年の調査によると、日本の役員報酬は固定給が65%、中長期インセンティブが13%だが、米国では固定が10%、中長期が67%と開きがある。海外からは固定報酬率が高いことへの風当たりが強まっていたという。

生徒のよう

  役員報酬に関しては、昨年度の税制改正で、一定期間の譲渡が制限された株式「リストリクテッド・ストック(RS)」の損金算入も認められた。制度設計上は長期インセンティブを取り入れる環境は整ったが、幅広い採用に向けては課題もある。

  デロイトトマーツの村中氏は、日本の役員報酬は総額が少なく長期インセンティブの割合が増えると受け取り現金が極端に少なくなる可能性があり、報酬体系の見直しも必要と述べた。15年の同社調査では、米国大手企業の最高経営責任者(CEO)の平均報酬総額が16.5億円に対し、日本は約6965万円となっている。

  議決権行使助言会社の米インスティテユーショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)の石田猛行代表取締役も、新税制の方向性は間違っていないとしつつ、経営者の意識改革の「きっかけになるとは思わない」という考えだ。企業は金融庁の指導を「ただ、生徒のように聞いている」とし、各企業が実態に見合った報酬制度を構築すべきだと指摘している。

(記事前半の構成を差し替え更新します.)
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