揺らぐ中銀の独立性、財政領域に踏み込み政治圧力再燃も-QuickTake

1960年代、70年代の手に負えないインフレの経験を経て、多くの中央銀行が政治的な干渉を受けずに政策金利の設定や他の金融政策決定を行う裁量余地の拡大を求めて闘い、それを勝ち取った。だが、2008年の金融危機の後にその中銀の盾にひびが入り始めた。

  世界の金融システム救済のために中銀が数兆ドルの資金を投じてから数年が経過する中で、中銀の仕事に対する国民の信頼は低下した。中銀に批判的な向きは、独立性を有する中銀が過度に秘密主義で納税者よりも銀行の利益を優先させていると指摘し、公的管理の強化に動く時が訪れたと主張する。中銀側はこれに対し、インフレ抑制と完全雇用の促進、金融安定の維持という責務の遂行には、政治的圧力から切り離される必要があると反論するが、「われわれを信じてほしい」と何度も聞かされる言葉に納得することは、ますます難しくなりつつある。

現状

  トランプ米大統領は大統領選に向けたキャンペーンで、民主党候補のヒラリー・クリントン氏を支援するために金利を低く維持していると連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長を批判してきた。連邦議会の共和党議員も米金融当局に狙いを定めている。「連邦準備制度の監査」の必要性を訴える共和党議員らは、金融政策を議会による審査の対象とし、規制と緊急資金供給の権限を制限するほか、金利決定の際に定式に従うことを義務付ける法案を準備している。

  英国ではメイ首相がイングランド銀行(英中央銀行)の政策が不平等を助長していると指摘し、一部の政治家は中銀に対する監視強化を求めている。さらにインドでは、昨年11月に発表された高額紙幣廃止に伴い政府による「不当な干渉」があったと準備銀行(中銀)のスタッフが訴えており、トルコのエルドアン大統領は、建前上は政府から独立している中銀に利下げを求める圧力をかけている。また、過去2年の間にアルジェリア、カザフスタン、ベネズエラなどの国で大統領の意向で中銀総裁が辞任に追い込まれた。

背景

  中銀の独立性の近代的概念は時間と共に変化してきた。世界恐慌の後、米連邦議会は金融政策を決定する米金融当局の権限拡大を決定したが、だからといって政治的圧力がなくなったわけではなく、ジョンソン、ニクソン両大統領はFRB議長に金利を低く保つよう働き掛けた。1970年代に入ると、完全雇用と物価安定、適度な長期金利を追求する連邦準備制度のマンデート(責務)が連邦議会で明確に定められた。その後ボルカーFRB議長(当時)が急激なインフレ抑制のために導入した思い切った金融引き締め策が1981-82年のリセッション(景気後退)を招き、厳しい批判を浴びたが、程なくインフレは抑えられ、安定成長の時代につながる。中銀の独立性を支持する主張がこれで勢いを増す結果となり、イングランド銀が1997年に独立性を獲得したほか、98年に設立された欧州中央銀行(ECB)には発足当初から独立性が与えられた。

  だが、最近では逆方向の流れが生じ、ドイツはECBがギリシャやイタリアといった高債務国の国債を買い入れたことや、デフレ回避で量的緩和(QE)に膨大な資金を投じていることを批判。一方、日銀は2013年に政府との政策連携強化で合意したが、これを独立性を脅かす警戒すべき動きと受け止める向きもある。米金融当局に対する連邦議会からの最近の攻撃の多くは金融危機に由来するものだ。危機を予見し、未然に防止できなかったことや、惨事を招く一因となった金融機関の一部を救済したことが非難の的となっている。

論点

  アルベルト・アレシナ氏とサマーズ元米財務長官が1993年に公表し、広く引用されている論文は、政治の支配下にある中銀よりも独立性を有する中央銀行の方がインフレをうまく制御できると結論付けている。論文は、日々の政治の圧力から守られることで、中銀は国民から嫌われる決定を行い、長期的視点に立つことができるとしている。イエレンFRB議長も議会証言でこの主張を繰り返した。現行の連邦準備制度の在り方を支持する向きは、議会への報告と政府監査院(GAO)による財務監査が十分な監視機能を果たしていると付け加えるが、一部のエコノミストはこれに反論している。

  ノーベル経済学賞受賞者のジョゼフ・スティグリッツ氏は、独立した中銀が存在する国の方が金融危機にうまく対応したとは必ずしもいえず、「全ての公的機関は説明責任を負っており、唯一問題なのは誰に対してかという点だけだ」との見解を示す。中銀は財政政策と金融政策のハイブリッド型ともいえるQEのような新たなツールに頼り、通常は政府が負う経済的責任のより多くの部分を引き受けるようになっている。中銀の役割が広がり、その影響の及ぶ範囲が拡大するにつれて、さらなる政治の介入は避けられず、中銀の職務を中銀に委ねることがますます難しくなるだろう。

原題:QuickTake: Central Bank Independence(抜粋)

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