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国債市場の波乱避けられず、黒田総裁は「あうんの呼吸」を-島本氏

更新日時
  • 実体経済の改善を受けた金融緩和の縮小観測が引き金-島本氏
  • 欧州ではECBの出口をにらんだ動きが進行

日本の国債市場は世界的な景気と物価の改善を背景に今年後半にも波乱に見舞われる、と仏銀2位のソシエテ・ジェネラルは予想する。日本銀行の黒田東彦総裁に求められるのは、金融緩和の修正をめぐる市場との「あうんの呼吸」だと言う。

  ソシエテ・ジェネラル証券の島本幸治副社長は、「行き過ぎたグローバル化の反省として、過去30年にわたって金融政策に任せ過ぎた分配政策で政府の役割が増していく流れは変わらない」と指摘。足元の国際金融資本市場はトランプ米政権の財政拡張など「リフレ的な政策の実現には時間がかかると気づく『反動の反動』の局面にあるが、年後半にかけて景気と物価の回復が進む実体経済にテーマが移っていく」と言う。

  黒田総裁は、日々の国債買い入れオペ運営を通じた政策見通しの示唆や海外長期金利の上昇に応じた誘導目標の引き上げを明確に否定する。ただ、市場は経済成長とインフレ率の上昇につれて、金融緩和の修正を「自ずと意識してくる」と島本氏は予想。米国経済の改善を背景に円相場が年末に1ドル=123円まで下げ、TOPIXが足元から1割近く上がる中で、新発10年国債利回りは0.15%に上昇するとみている。

  島本氏は先月のインタビューで、国債利回りは当面は長期・超長期ゾーンが下げるブルフラット(平たん)化が続くが、その後は国内外の大規模で迅速な景気刺激策などを背景に長期ゾーン以降が上がるベアスティープ(傾斜)化にはならないと予想。実体経済の改善と金融緩和度合いの見直しを織り込んで短期中ゾーン主導で上昇するベアフラット化が進むとの見方を示した。

市場との対話が重要

  日銀の金利コントロール策は国債買い入れを通じて利回りを望ましい水準に誘導する仕組みなので、金融緩和の縮小観測は国債市場での不透明感とボラティリティ(相場変動率)の大幅な上昇につながると島本氏は指摘。長期金利の水準に直接関与するという歴史的な金融緩和策に「踏み出した以上は避けて通れない道」であるとし、「市場との対話が非常に重要になる」と述べた。

日米長期金利の推移

  金融緩和の縮小観測を受けた国債利回りのベアフラット化は、日銀と似た量的緩和とマイナス金利下のユーロ圏で進行しつつある。欧州中央銀行(ECB)は9日の定例理事会で、責務の範囲内で「あらゆる手段」を駆使するとの文言を声明文から外し、域内銀行向け長期資金供給(TLTRO)の延長を見送った。量的緩和の終了前に利上げがあり得るかについても検討したと伝わった。

  域内金利の指標となるドイツ国債利回りは短中期ゾーンが上昇する一方、長期金利は低下。2年物と30年物の利回り格差はECB会合の当日に209ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)と2014年7月以来の水準に拡大したが、その後の3週間足らずで約25bp縮んだ。

  米国でもトランプ政権の大規模な景気刺激策を先取りして長期金利が大幅に上昇したにもかかわらず、2年債と30年債の利回り格差は大統領選直後の204bpをピークに、連邦準備制度理事会(FRB)が2四半期連続で利上げする中で徐々に縮小。足元では170bp台で推移している。一方、日本国債の同利回り格差は市場がオペをめぐる混乱の最中にあった2月中旬と比べても10bp弱しか縮んでいない。

  日銀が先月に開いた金融政策決定会合では、一部の政策委員が現時点で望ましい利回り曲線は「若干スティープであるべき」「金融政策の転換が必要となるまでには相当に時間がかかる」などと発言。ただ、日銀の見通しに沿って物価の基調が高まれば長期金利の上昇圧力が強まると見込まれ、「長短金利操作の手順や政策反応関数について、今のうちから議論しておく必要がある」との意見も出ていた。

次期総裁人事に影響も

  金融緩和の縮小をめぐる議論は今年後半から広がってくるー。島本氏がそう読むのは「物価は上昇していくが賃金はなかなか上がらない状況が、かなりの確度で生じる」とみるからだ。「黒田緩和もアベノミクスも世論主導で出て来た面がある」ので、さらなる金融緩和ではなく、最低賃金や企業の協力も含めた分配のあり方が焦点になると言い、「世の中、国民の期待を映す」来春の次期総裁人事も緩和の行方に影を落とすとみる。

  インフレ率は原油価格の持ち直しによる押し上げ効果が剥落した後も、日銀が重視する基調的な部分は上昇基調が続くと島本氏は予想している。金利コントロールは国債利回りに直に働きかける政策なので「市場との対話がなおさら重要だ。黒田総裁はどこかで緩和姿勢に関する発言のニュアンスを変えないといけなくなる」と言う。

  例えば、金利を低く抑える方針を強調し続ける一方で、名目金利からインフレ率を差し引いた「実質金利」という言葉に軸足を移していけば、物価が上がっていく局面では名目金利の緩やかな上昇も容認すると示唆できると、島本氏は説明。国債相場のボラティリティが高まる中で、日銀は市場と「あうんの呼吸」が通じるように対話の工夫を図る必要があると言う。

  国債買い入れオペの運営に関しては、巨額の保有国債の一部であっても「売りオペを実施するのは難しいので、市場へのコミットメントとテーパリングを穏やかな形でミックスするしかない」と指摘。「金利の誘導目標を徐々に上げていった後は、どこかの時点でコミットメントをぼかしていく」のも有用だと言う。

  日銀の金利コントロール策は第2次世界大戦中と戦後の米国に類例がある。FRBは1942年から51年まで、長めの米国債の利回りが2.5%以下になるよう買い支える事実上の金利ペッグ制を実施。米政府の借り入れコストを抑え、戦費調達と戦後の債務安定化を支えた。大恐慌の研究家であるバーナンキ前FRB議長が、日銀の導入直後に「米国の先例がある」と指摘したゆえんだ。

金利キャップ制

  FRBが推進した事実上の金利キャップ制は、政府支出の増大と予想インフレ率の上昇を受けたインフレ加速で最終的には機能不全に陥り、米金融当局は51年に米財務省との間で金利の上限維持策の終了を宣言するアコード(共同声明文)の発表に追い込まれた。島本氏は、「日銀はかつてのFRBと同様の過程をたどり、利下げと量的緩和を経て、国債利回りという市場価格のコントロールに至っている」とみる。

  当時のFRBが置かれた状況との「根本的な違いは自由に取引できる巨大な為替市場の存在だ。政府は全く管理できない」ー。島本氏は「トランプ政権の国境税は為替相場に直に効くので、政治的な合意が加速すれば一気にドルが上がりやすくなる」と言い、この場合には「円安・ドル高が日本の物価上昇を通じて日銀の金利コントロール策にも影響を及ぼしていく」と読む。

  黒田総裁は先月の講演で、現時点で金融緩和の度合いを緩める理由はないとあらためて表明した。ただ、その後の質疑応答では、為替レートは変わらないのが物価見通しの前提であり、円安は他の条件が一定なら物価の押し上げ要因になるとし、物価の状況が変わってくれば長短金利操作が議論になるとの見解を示した。

  島本氏は「日銀にとって想定外の円安は振り上げた拳を降ろす良い口実になる」と指摘。「金利機能の正常化はいずれ避けて通れない。本来操作すべきは翌日物の金利だ。市場機能をうまく使っていかないと金融・財政政策とも所期の効果を生まない。デフレ脱却を最優先する政策判断があったわけだが、必要がなくなれば、国債利回りをコントロールする非常手段は採らない方が良いのは自明だ」と言う。

(第9段落以降を追加して更新します.)
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