日本銀行と外国投資家という大物役者が支えてきた市中発行残高100兆円を超える短期国債市場。日銀がその市場から手を引いたらどうなるのだろうか。市場関係者は、黒田東彦総裁が進める金融緩和策の軸足が「量」から「金利」に移ったことを再認識することになるかもしれない。

  黒田総裁が昨年9月に長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)付き量的・質的金融緩和の導入でマネタリーベース目標を撤廃して以降、日銀による短期国債の買い入れ残高の減少傾向が鮮明になっている。発表資料を基にブルームバーグが算出したところによると、おおむね毎月2兆円前後のペースで減少しており、3月の減少幅は4兆円弱に達した。この結果、3月末の残高は32兆円台と、政策を導入してからの半年で12兆円程度縮小した計算になる。

  東短リサーチの寺田寿明研究員は、日銀の短期国債買い入れ残高について、今のペースで減り続け、1年半ぐらいでゼロになると予想している。「残高がすべて落ちるとなれば海外投資家だけでは拾いきれず、国内投資家の買いも必要になる。いずれにしても利回り上昇は間違いない」と言う。

  日銀が手を引いた場合の受け皿は誰になるのか。日銀の資金循環統計によると、短期国債の保有者は現在のところ、外国人投資家の存在が際立っている。2016年12月の外国人による短期国債の保有比率は51%と初めて全体の半分以上を占めた。一方、国内銀行は2%と小さい。いずれにせよ、日銀が保有する4割程度の短期国債の行き先は海外勢と国内勢のどちらかになる。

海外投資家

  海外勢がこれまで日本の債券を積極的に購入できた背景にあるドル・円ベーシススワップ。3カ月物のスプレッドは昨年11月にマイナス90ベーシスポイント(bp,1bp=0.01%)台まで拡大した。元手のドル資金を円資金に換えることで、実際の債券利回りよりも多い上乗せ金利をもらえる絶好の機会と映ったはずだが、足元の同スプレッドは20~30bp程度にまで縮小している。  

  バークレイズ証券の押久保直也債券ストラテジストは、「ベーシススワップのスプレッドはもう少し戻すだろうが、昨年11月ほどは拡大しないだろう。外国人にとっての妙味がそのスプレッドにある以上、短期国債の買い意欲もピークアウトしている」と指摘する。財務省が発表した対外・対内証券投資によると、外国人による日本の短期債投資は2月下旬から3月上旬にかけて大きく売り越している。

  一方、海外勢の日本債券に対する興味は根強く残っているとの見方もある。みずほ証券の山内聡史マーケットアナリストは、ドル建てベースで日米独の3カ月物短期債利回りを比べると、ドルヘッジ付きの日本の短期国債利回りが最も高く、「日銀の穴埋めをするのは海外投資家」と言う。

  海外投資家は16年12月時点で53.1兆円相当の長期国債を保有していた。こうした長期国債を処分して、対象期間が比較的に短いベーシススワップ取引を絡めて「短期国債と組み合わせた方が本来はシンプルだ」と、東短リサーチの寺田氏は指摘する。 

3月の国内投資家

  3月の短期国債市場では、日銀が買い入れ残高を大きく落とす中で3カ月物利回りは低下した。9日の3カ月物入札では落札利回りがマイナス0.45%と過去最低を更新するなど、短期国債に対する需要が健在であることが示唆された。

  「日銀がこれだけ買い入れを減らしているにもかかわらず、利回りが低下したのはやはり需給。誰が買ったかと言えば、外国人と言うよりむしろ邦銀だった可能性がある」と、SMBC日興証券の竹山聡一金利ストラテジストは指摘する。その理由は「決算期末に向けて、長くなり過ぎた保有債券のデュレーションの短期化に使われたのではないか」とみているためだ。

  利付国債が四半期ごとに大量償還を迎えることも重なり、債券を貸し借りするレポ市場では先週からしばらく国債需給が逼迫(ひっぱく)した。深刻な国債不足に伴い、3月期末をまたぐレポレートは過去最低を更新した。日銀は年度末に向けて短期国債の買い入れを取りやめ、国債を一定期間売却する異例の対応に追われた。

  東短リサーチの寺田氏は、こうした「モノ不足」が国内勢の短期国債に対する需要を回復させるとみている。「利回りがマイナス0.2%を上回ってくれば、買いが出てくるのではないか。日銀当座預金の付利マイナス0.1%を上回ればいくらでも買い手は出てくるが、そこまで上昇する過程で日銀保有分の減少を補う需要の壁がどのくらい厚いかで水準が決まる」と言う。

「一段の減額余地」

  日銀はこの日の午後5時に当面の長期国債買い入れ運営方針を発表する。その中からは4月末の短期国い入れ残高のめども明らかになる。3月末の見込みは34兆~36兆円だったが、実際は32兆円台と下振れた。前月末の水準が翌月末に予想されるレンジの上限に設定される傾向があり、今回も日銀は減額姿勢を示しそうだ。

  日銀が公表した3月金融政策決定会合での主な意見では、「短国利回りは4月以降もさほど上昇しない可能性があり、一段の買い入れ減額の余地がある」との見解が示された。SMBC日興証券の竹山氏は、「短期市場関係者から見れば、こんな金利水準なら日銀が買い入れをいつやめてもらっても構わないと思っているだろう」と話す。

  バークレイズ証券の押久保氏は、「需給逼迫(ひっぱく)による過度の金利低下を日銀は気にしており、短中期ゾーンはかなり限界に近い。買い入れはどんどん減らしていく方向で間違いない。金利水準を調整していけば国内勢も戻ってきて需給が釣り合う。日銀と外国人だらけのマーケットが多少は正常化に向かう」と話す。

最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE