日銀が「市場の支配者」、日々のオペ差配する市場局の一挙一動に注目

  • 日銀内からも市場局で毎日金融政策決定会合とやゆする声も-関係者
  • 日々のオペが「先行きの政策スタンスを示すことはない」と黒田総裁

日本銀行が昨年9月に長短金利操作を導入して以来、市場の関心は、金融政策を企画・立案する企画局から、金融市場オペレーションを差配する金融市場局に移っている。日銀に対して、金利の変動や適正と考えられる水準まで管理する「市場の支配者」と指摘する声も出ており、その実働部隊である金融市場局の一挙手一投足に注目が集まっている。

  金融調節方針の現状維持が続く中、ごく少数の担当者が決定するオペの方針が市場を動かすケースが増えている。23日には午後5時に日銀が突如発表した一枚の通知により、国債を貸し借りするレポ市場の金利が急上昇した。月末に金融市場局が公表する長期国債買い入れの運営方針に対する注目は回を重なるたびに高まっており、日銀は2月末にオペ日程の公表に踏み切った。

日本銀行

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  日銀の黒田東彦総裁は当面政策変更は必要ないとの立場を繰り返しており、エコノミストの多くも黒田総裁の任期中は追加緩和は予想していない。正副総裁と6人の審議委員からなる政策委員会メンバーが様子見姿勢を続ける中、金融市場局の奥野聡雄市場調節課長と上司である清水誠一局長が日々のオペ方針を決定している。

  ニッセイ基礎研究所の徳島勝幸年金研究部長は22日付のリポートで、「日銀は単なる最大の投資家であるだけではなく、金利の上下動や適正と考えられる水準までもコントロールしてしまっている市場の支配者である」と指摘する。

毎日開かれる決定会合

  日銀は昨年9月、金融市場調節方針の操作目標をマネーの量から金利に転換して長短金利操作を導入。短期金利を「マイナス0.1%」に、長期金利目標は「0%程度」に設定した。これと整合的な形で適切なイールドカーブが形成されるように国債買い入れを運営しているのが、金融市場局の奥野課長が率いる数人規模の部隊だ。

  複数の関係者によると、日銀内では金融市場局が陣取る4階の一室で毎日金融政策決定会合が開かれているとやゆする声も上がる。奥野課長の部隊は債券ディーラーに毎日電話して情報収集を行うが、ディーラーは自らに有利に働く情報の提供をしがちなため、できるだけ客観的な分析を行うことが重要だ。奥野課長が判断した方針は清水局長、金融市場局を担当する雨宮正佳理事に報告され、最終決定に至る。

  2013年4月の異次元緩和導入以来、金融調節方針の主役だった長期国債買い入れ(保有残高の年間増加額)の規模は「めど」に格下げされており、現在の「約80兆円」が実際にどの程度の規模に変動するかは、この部隊のさじ加減にかかっている。

  黒田総裁は24日に都内で行った講演で、「日々のオペ運営によって、先行きの政策スタンスを示すということはない」と繰り返した。しかし市場関係者の多くは「約80兆円」のめどがいつ減額されるか、長期金利の誘導目標がいつ引き上げられるか、日々のオペから読み取ろうと躍起になっている。

市場は右往左往

  実際、金融市場局のオペにより市場は右往左往している。日銀は2月3日午前、残存5年超10年以下の長期国債買い入れオペ4500億円を提示。前月末に公表した予定額(4100億円程度)を上回る規模だったが、このところの金利上昇を受けてより大幅な増額を期待していた債券市場で失望感から売りが加速。長期金利(10年物国債金利)は一時0.15%と昨年1月以来の水準に上昇(価格は下落)した。

  市場の動きを受けて、日銀は同日午後、0.11%で長期ゾーン初の指し値オペを実施。長期金利は一時0.09%まで低下した。同日のドル・円相場は長期金利が上昇したことを受けて日米金利差が縮小するとの見方から円が買われ 、一時1ドル=112円台半ばまで上昇した後、昼過ぎの指し値オペをきっかけに113円台まで下落するなど、日銀のオペで乱高下する展開となった。

  JPモルガン証券の山脇貴史チーフ債券ストラテジストは「市場局の一挙一動に非常に高い注目が集まっている」と指摘。「日銀の政策決定は柔軟性を保つため意図してあいまいなものになっていることから、市場でさまざまな解釈を生む。債券関係者は日銀のオペの発表に注目をせざるを得なくなる」と語る。

80兆円の「めど」も注目

  日銀は昨年9月の枠組みの変更時に長短金利操作のために新たなオペ手段を2つ導入した。既に昨年11月と今年2月に発動した指し値オペと、最長10年の固定金利の資金供給オペレーションだ。後者はまだ一度も利用されていない。

  現状では、日銀が水準を示していない年限の金利についてどの程度の水準が適正と考えているかは明らかでなく、明示されている年限の許容幅も定かではない。ニッセイ基礎研究所の徳島氏は「日銀によるオペの状況を見て推測するしかないが、当然、為替や経済環境によって適正と考えられる水準も変化する可能性が高い」と指摘。「結局のところ、日銀の動きを観察するしかないだろう」という。

  金融市場局が「約80兆円」をめどとしている長期国債買い入れ(保有残高の年間増加額)をどの程度減額するかにも注目が集まっている。ブルームバーグが行った試算では、2月28日公表の3月購入額をその後の11カ月も継続した場合、1年間での購入規模は66兆円となり、年間80兆円の保有拡大目標を18%下回る。

数ベーシスの世界

  JPモルガン証券の山脇氏は、現状では「日銀が言うおよそ80兆円がどれくらいのレンジを伴うものなのか考えなければいけない」と指摘。80兆円が多少前後しても、「経済全体にとって重要ではないということは分かるが、市場関係者は数ベーシスポイントといった小さな変化のところで生きている」と語る。

  午前10時10分と午後2時のオペで金融市場局がどのような手を繰り出すのか、債券市場関係者は連日、身構えている。31日午後5時には来月の長期国債買い入れ方針も発表される。

  前日銀理事の門間一夫みずほ総合研究所のエグゼグティブエコノミストは24日のインタビューで、市場の関心は長短金利操作に集中しており、説明が不十分なまま金利上昇の思惑が強まれば金利操作は難しくなると指摘。そうした事態を避けるために、「日銀が適切なイールドカーブ(利回り曲線)水準をどう判断しているのか、もう少しイメージを持てるような情報発信が必要だ」と述べた。

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