繊維事業がルーツの片倉工業の新入社員は、旧自社施設で世界遺産でもある富岡製糸場(群馬県)の見学から会社員人生が始まる。創業144年の歴史と日本の産業発展に寄与した誇りに触れるためだ。経営効率を重視する海外の物言う株主にとっては、こうした伝統を重んじる老舗の姿が歯がゆく映る。

  片倉は30日に定時株主総会を開く。香港のヘッジファンドであるオアシス・マネジメントは2月、株主資本利益率(ROE)を意識した経営を求める株主提案を行った。ROEの具体的な数値目標の設定や事業セグメントごとのROEが5%を下回った事業からの撤退のほか、高ROEが見込めない事業への参入制限を定款に盛り込むよう求めている。オアシスによると、2015年から片倉と対話を重ねてきたが、これまでの提案は全て拒否された。オアシスは、片倉株を3%保有する8位株主

富岡製糸場
富岡製糸場
Source: Tomioka City

  「これまで中長期的な投資家として話をしてきたが、非常に短期投資家としての提案がきたので驚いている」ーー。ブルームバーグのインタビューでこう語ったのは片倉の水澤健一企画部長だ。オアシスの主張は、「最終的に不動産以外の事業はやめた方がいいというニュアンスに見えるが、これは非常に短期的」と反論したうえで「短期的な資本効率の過度な追求は中長期的な成長の妨げになる恐れがある。ROEではなく営業利益率を重視すべきと考えている」と話す。

  片倉の前期(16年12月期)の連結営業損益は14億8600万円の黒字。前の期の1億9000万円の赤字からは改善したが、5カ年中期経営計画で掲げた目標42億円には届かなかった。内訳をみると、不動産事業は4割超の増益だった半面、医薬品や繊維はいずれも予想から下振れ。植物工場や介護分野など新規事業は赤字が拡大した。オアシスのセス・フィッシャー最高経営責任者(CEO)は、「片倉の多くの事業がほとんど利益になっていない。巨額の投資にもかかわらず、不採算を続けており、資本効率が高く利益を上げられる事業に注力すべきだ」と主張。「我々の提案はどれもとてもささやかなものだ」とした。

1970年以降に多角化路線、「富岡」休止で蚕糸業には幕

  片倉は1873年に長野県、現在の岡谷市で製糸会社として創業。1939年には旧官営の富岡製糸場と合併した。戦後の高度成長期に入ると、人件費の高騰など生産コストの上昇や化学繊維の台頭で繊維事業が伸び悩む半面、70年代から工場の一部をショッピングセンターなどに再開発する不動産事業に参入。蚕糸の開発技術を生かした医薬品事業、機械関連事業などにも進出し、多角化路線を歩んだ。87年には富岡製糸場、94年に熊谷工場(埼玉県)を相次ぎ休止し、蚕糸業は121年の歴史に幕を下ろす。

  水澤氏は「長い歴史の中で事業収益の柱が移ることを経験してきた。今は不動産がうまくいっているが、永遠に勝ち続けられるかどうかは懐疑的だ」と話す。祖業の繊維事業については「良くないのは確かだが、全部捨ててしまうという発想ではなく、中身を変えていくべき」と主張。さらに「われわれはもともとものづくりの会社。歴史は140数年、このあと200年くらいまでは愛されていたい」と述べた。

  片倉が2月に発表した新しい中期経営計画は、多角化経営を追求し、成長事業への転換と新規事業の創出方針を示した。最終の21年12月期の営業利益目標は、前期実績比3.5倍となる52億円。不採算事業は来期をめどに縮小、撤退も視野に入れ構造改革を完了させるとしている。

ISSとグラスルイス、オアシス提案に賛否二分

  議決権行使助言会社の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、オアシスの株主提案に「賛成」。対照的に米グラスルイスはオアシスの提案は株主の最大の関心事ではないとし「反対」の意向を示す。一方、会社側の会長・社長の選任議案に対してISSは、経営陣トップに低ROEの責任があるとし「反対」。グラスルイスも取締役会の独立性を欠いているとみて、その責任から会社側の会長選任議案には「反対」とする。

オアシスのフィッシャーCEO
オアシスのフィッシャーCEO
Photographer: Justin Chin/Bloomberg

  オアシスはこれまでも任天堂や東芝に株主提案を行い、パナソニックに対してはパナホームの完全子会社化に異議を唱え、株式交換比率の見直しを求めている。スタンダード・ライフ・インベストメンツのコーポレートガバナンス・スチュワードシップディレクターを務めるアリソン・ケネディ氏は、日本のガバナンス改革はゆっくりと進んでいると評価しながらも、投資家はさらなる進展を確保するため、プレッシャーを与え続けるべきと話す。

  片倉の筆頭株主は10%の三井物産で、みずほフィナンシャル・グループの7.7%、SOMPOホールディングス6%などが続く。三井物はオアシスの株主提案について、コメントを控えた。

  片倉株は3月17日終値で1550円と13年5月以来の高値を付けた。きょうは前日比0.8%高の1484円で始まり、マイナス転換している。

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