米国株式市場は21日に大幅下落したが下げは驚くほど短命に終わり、ここ数年投資家に都合よく作用してきた2つの仮説をあらためて裏付けた。金融市場は極めて弾力性に富んでいるというものであり、もう一つは目立った相場下落は買いの好機と捉えるのが良い、という仮説だ。

  だが、S&P500種株価指数が約100日ぶりに1%超下げる展開になったことの説明としてアナリストらが指摘した容疑者は数多く、これらに含まれる情報は軽くあしらうべきではない。

  21日の相場急落の最大要因は、ライアン米下院議長がまとめトランプ大統領が支持する医療保険制度改革法(オバマケア)代替法案の支持で、共和党が速やかに結束できなかったことだ、という指摘がまずある。これは、減税をはじめとするトランプ大統領の成長重視政策の法案可決が今後困難になることの兆候だと捉える見方だ。

  また、独特の複雑さがあり過去に論争を呼んだ医療保険改革をまず議会に持ち込むというホワイトハウスの判断が相場急落の要因だとみる向きもある。むしろ、比較的通過させやすい税制改革を先に扱っていれば、今後の法案成立に向けて勢いをつけることができたはずなのに、という視点だ。そして今、医療保険を巡る分裂が露呈してしまい、仮に土壇場で解決に至ったとしても、議会が次に審議する法案の先行きを暗くした可能性があるという。

  政治関連の材料をさらに広い視野で捉え、欧州諸国の選挙を取り巻く不透明性が相場急落の一因になったと考えるアナリストもいる。特に反体制派の影響力に着目している。英国がリスボン条約50条の発動日を決め、欧州連合(EU)離脱交渉が開始目前となったことも、こうした見方を支えている。

  4つ目に、米連邦公開市場委員会(FOMC)の利上げに対する遅延反応だったと捉える向きもある。あと年内2回の利上げ見通しが強いことも手伝って、金融当局が以前ほど資産価格のてこ入れを続けることに意欲的でなく、そうする能力も低下していることの表れだと解釈している。

  さらに5つ目の視点として、何らかの株式相場調整がいつ起きてもおかしくない状態にあったとの声も出ている。結局のところ、インプライドボラティリティー(IV、予想変動率)と実際のボラティリティーを示す数値はこれまで非常に低く、21日までは昨年10月以降という珍しく長い期間にわたって顕著な相場下落が起きていなかった。

  最後に、日本が年度末に近いことから一部がポートフォリオのリスクを減らし、これが相場急落に作用したとみるアナリストもいる。

  実際には、これら全てが下落の材料になっていたかもしれない。だが、相場急落がひとまず落ち着いたのでもう意味がないとしてこれらの材料を片付けてしまうのではなく、経済成長率、企業利益、レパトリ(海外利益の本国への還流)資金がそれぞれ大きく伸びるとの大胆な見方が続く中で、株式が何度も逆風をうまく乗り越えてきたことの重要な再確認としてこれらの材料は受け止めるべきだ。

  アガサ・クリスティー作の推理小説「オリエント急行の殺人」に登場する探偵エルキュール・ポアロが置かれた状況のように、今回は容疑者全員が何らかの役目を果たしたと考えるのに十分な理由がある。だが今回の場合、犠牲者に損害はなく、言うまでもなく大損害を受ける事態にもならなかった。少なくとも現時点では。

(このコラムの内容は必ずしもブルームバーグ・エル・ピー編集部の意見を反映するものではありません)

原題:The Many Culprits in Tuesday’s Selloff: Mohamed A. El-Erian(抜粋)

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