「黒田緩和の副作用だ」、トランプ政策との狭間で右往左往する邦銀

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  • 米大統領選挙を挟んで海外中長期債を買い越しから売り越しに
  • 米国債運用、最大で約5.7%の損失となる試算も

日本銀行の黒田東彦総裁が4年前の異次元緩和導入時に期待した通り、国内金融機関は日本国債の運用を減らす一方で外債を増やしてきたが、トランプ政策期待をきっかけとした世界的な金利の上振れで雲行きが怪しくなっている。

  財務省の統計によると、国内勢は世界的に金利が低かった米大統領選挙前の約4カ月間に海外の中長期債を7兆2930億円買い越し、トランプ氏の当選後は今月上旬までの同期間に6兆5117億円を売り越した。米バンク・オブ・アメリカ(BOA)メリルリンチの米国債指数はデータでさかのぼれる1997年以降での最高を記録した昨年7月から12月半ばにかけて約9.4%低下するなど、米国債の投資環境が悪化している。

トランプ米大統領と握手をするムニューシン米財務長官

Photographer: Kevin Dietsch/Pool via Bloomberg

  売り越しの主体は預金取扱機関だ。海外中長期債の売越額は11月から2月までに4兆5679億円と国内勢全体の売り越しを上回り、前年同期の1兆8213億円の買い越しから様変わりしている。外債の運用技術や体制が十分ではない地域金融機関などが利用する投資信託も4カ月間で3975億円売り越した。

  メリルリンチ日本証券の大崎秀一チーフ金利ストラテジストは「銀行勢は巨額の国債購入が必要な異次元緩和に約4年前の導入当初からオペでの売却という形で協力し、外債にシフトしてきた」と指摘。海外金利の急上昇に見舞われて売り越しを余儀なくされているのは「まさに黒田緩和の副作用だ。ポートフォリオ・リバランス効果と言うが、マイナス金利という過度の金融緩和が安全資産をなくし、むしろ金融システムリスクを高めてしまった」とみる。

  

黒田日銀総裁

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

「日本銀行が長期国債を大量に買い入れる結果として、これまで長期国債の運用を行っていた投資家や金融機関が、株式や外債等のリスク資産へ運用をシフトさせたり、貸し出しを増やしていくことが期待される」。黒田総裁は異次元緩和の導入直後から、「ポートフォリオ・リバランス」効果を波及経路の一つに挙げてきた。しかし、トランプ米大統領が掲げる大規模な景気刺激策を先取りした米金利の急騰で、外債の運用環境は一変している。

  銀行勢は国内金利が20年債までマイナス圏に突入する中、海外の中長期債を昨年7月に今年度最大となる2兆6857億円買い越した。米10年物国債利回りは同月に1.3180%と過去最低を記録した後、12月に2.6394%に急騰。BOAメリルの指数によれば、この間に米国債を高値づかみして底値で売らされた投資家は約5.7%の損失を被った計算になる。

  米国の経済・物価情勢の改善を背景に連邦準備制度理事会(FRB)は先週、今局面で3回目の利上げを実施。年内の追加利上げも示唆している。米10年債利回りは14日に2.6277%まで上昇。ヘッジファンドなど大口投機家が先物取引で米10年債売越額を大幅に減らす中、今週は2.4%前後に下げているが、ブルームバーグの調査によると、市場関係者は来年3月末までに3%(中央値)に達すると見込んでいる。

  今月9日付の日本経済新聞朝刊は、金融庁が地銀の運用部門に焦点を当てた特別検査を実施すると報じた。遠藤俊英金融庁監督局長は同日の参院財政金融委員会で、特定の金融機関には立ち入り調査すると説明。地銀は低金利の国債に代わって外債などへの投資を膨らませているため、トランプ氏当選後の米金利上昇を受けた保有外債の価格下落が経営に与える影響などを調査するとしている。

外債を保有するリスク

  国内銀が保有する外国証券は1月末に48兆7073億円と、黒田緩和の開始前から約10%増えた。うち都銀は23兆5532億円と17%減り、地銀は84%増の12兆7423億円、第二地銀は43%増の2兆245億円に膨らんだ。昨年10月末からでは全体で8.5%減、都銀が17%減らす一方、地銀が3%増、第二地銀が1.9%増となっている。

  日銀は昨年の金融システムリポートで、国内銀の外債積み上げに伴う金利リスク量を同年8月末に2.2兆円と半年前より0.4兆円増えたと推計。特に地銀はドル建てを中心とした残高増とともにデュレーション長期化もあり、リスク量の増加が相対的に大きいと指摘した。財務省がこの日、国債の機関投資家と開いた懇談会では、負債サイドが円建てなため外債を積極的に購入して行くのは難しく、為替見通しが立ちづらい環境との意見が出ていた。

  黒田総裁は先月の講演で、先進国の中央銀行による極めて緩和的な金融政策と低金利の長期化を背景とした金融機関の収益力低下は金融システムの安定に対するリスク要因として世界的な課題になっていると指摘。衆院財務金融委員会では、「地域金融機関の収益状況は今後とも十分にモニターする」と述べていた。

国内債は運用環境改善

  外債リスクを回避するために銀行勢は投資先を国内に戻すのか。日本証券業協会の統計によると、金融庁や日銀が注視する地銀や第二地銀、信金は国債投資でも高値づかみした可能性がある。地銀による超長期債の買越額は同ゾーンの利回りが軒並み最低を付けた昨年7月に2377億円と約11年ぶりの大きさ。国内金利が上昇し始める直前の10月に過去2番目の2678億円を買い越した。第二地銀も7月に1340億円と今年度で最も大きく、信金は2382億円と約6年ぶりの大きさだった。

  昨年暮れから今年に入ってからの国債市場では、こうした地銀や信金に逆風が吹いている。トランプ相場での米欧金利上昇に日銀の国債買い入れオペをめぐる市場の混乱が加わり、国内の超長期債利回りは1月下旬から約1カ月にわたって上昇が加速。地銀による超長期債の売越額は2月に1996億円、信金も2387億円と、ともに過去最大となった。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の稲留克俊シニア債券ストラテジストは、外債の損失確定売りと併せた売却だったとみている。

  稲留氏は「日銀は金利コントロール策で国債利回りを最低限の水準までは戻した」上、自ら招いた市場の混乱をオペ運営の告知強化で鎮めたことで「国内債の運用環境は改善してきている」と言う。銀行勢が「めげずに外債に再チャレンジするか円債に回帰するかは、内外金利や為替相場などに加え、金融庁の出方次第という面がある。リスク管理体制の整備が鍵になる」と読む。

  銀行勢が超長期債に振り向ける資金を増やしている兆しはある。もともと中期ゾーンが主戦場の国内銀が長引く低金利下で買いを増やしてきた20年国債の利回りは0.6%台で安定し、生保や年金が保有の主体である30年債や40年債との格差が約1年ぶりの水準に拡大。市場ではむしろ若干の金利上昇を期待する声が出ている。

  三菱モルガン証は20年債が0.8%程度まで上昇すると日銀が無制限に購入できる指し値オペを発動すると予想し、0.7%台での買いを推奨。みずほ証券の丹治倫敦シニア債券ストラテジストは20年債には投資妙味があるが、買いの目線は0.7%前後に保ちたいと言う。ドイツ証券の山下周チーフ金利ストラテジストは、今後の円債売買は外債の金利次第だが、運用上のリスクは海外の長期金利が上がらないケースとみており、20年債の運用を推している。

  銀行勢が米債保有の調整を続けた場合、日本株にも影響が及ぶ恐れがある。東京証券取引所の統計によれば、都銀や地銀が米大統領選後の17週間で国内株を買い越したのは1週間だけ。JPモルガン証券の西原里江シニアアナリストは、国内銀は17年度は米債保有の縮小で減益が見込まれるため、それを補う意味でも政策保有株の売却を加速させるとみている。

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