2020年に船舶用燃料に対する環境規制が世界的に強化されることで、品質の高い原油の価格が他の原油に比べて割高になることや、ガソリンや軽油、灯油など消費者に身近な石油製品の価格が上昇する可能性が高まっている。

  国際海事機関(IMO)は昨年10月、大気汚染防止策として船舶が排出する硫黄酸化物(SOx)を減らすため、船舶用燃料の高硫黄C重油に含まれる硫黄分の規制を20年から厳格化する方針を決定した。これまで北海やバルト海など特別な海域に限定して燃料に含まれる硫黄分濃度の上限を設定していたが、特別海域以外の一般海域に対しても現在の3.5%から20年に0.5%まで引き下げることを求めた。

  船舶を保有する海運会社が取れる対応策は三つ。従来の燃料より割高だが硫黄分の含有量が低い低硫黄C重油や軽油に切り替えるか、液化天然ガス(LNG)という全く新しい代替燃料へのシフト、あるいは排ガスから硫黄分を除去する「スクラバー」と呼ばれる洗浄装置の設置という選択肢がある。LNGの利用やスクラバーの設置には保有する船舶を改造するための設備投資が必要になる。

  海運各社が加盟する日本船主協会の池田潤一郎副会長(商船三井社長)はウェブサイトで、すべての船をLNGに対応させることや、スクラバーを設置することは「現実的ではない」と指摘。硫黄分規制に適合する軽油や低硫黄C重油といった燃料が石油会社により「確実に供給されることが不可欠」とコメントしている。

  日本郵船の資料によると、世界全体で消費される船舶用燃料は年間約2億5000万トンと、世界3位の日本の原油輸入量を5割程度上回る。コンサルティング会社FACTSグローバル・エナジーのフェレイドン・フェシャラキ会長は1月末に都内で行われた講演で、今回の規制強化のインパクトは「まるで石油業界に原爆が落とされたようなもの」と話した。

低硫黄製品に莫大なプレミアム

  同氏は、現在船舶燃料として使用されている高硫黄C重油を「すべて別なもので代替させるのは不可能に近い」とし、「LNGでの代替やスクラバーでの対応が可能かといったことを予想するのも非常に困難」と指摘。硫黄分0.5%以下の低硫黄C重油には「20年以降に莫大(ばくだい)なプレミアムが付くことになる一方で、高硫黄重油の市況は崩壊する」との見方を示した。

  富士電機は14年4月にスクラバーの販売を開始すると発表。発表文書によると、スクラバーで安価な高硫黄C重油の使用を継続できることから、船舶会社の運航費用削減に寄与すると説明している。最大積載量9万5000トンクラスのばら積み貨物船にスクラバーを設置した場合、14年3月時点のC重油価格を基に試算すると3年以内に投資回収が可能との見解を示していた。同社の広報担当は、国内では他市場の動向を静観する流れがあり、現在までにスクラバーの受注実績はないと電子メールでコメントした。

  高硫黄C重油は、原油からガソリンや灯油、軽油などを取り出したあとの残りかすに近い副産物。規制への対応で船舶燃料需要が軽油や低硫黄C重油などに移行すると、高硫黄C重油の多くが行き場を失うことになる。

  これに対応するため、石油会社はC重油の精製比率が低くガソリンや軽油などを多く精製できる「軽質原油」を多めに調達してC重油の生産量を抑制する必要が生じる。あるいは、分解装置と呼ばれる装置を製油所に追加することでC重油をガソリンや軽油に作り替えることができるが、これには数百億円の投資が必要になる。

軽質原油に需要が集中

  JXエネルギーの杉森務社長は、IMOの規制強化で需要は世界的に軽質原油に集中すると予想されることから、軽質原油と、重油が多く精製される重質原油の価格差である重軽格差が「相当大きくなる」との見方を示した。

  ここ数年、原油の重軽格差は比較的安定して推移している。サウジアラビア産軽質原油と重質原油の調整金の差で示されるこの格差は足元では1バレル当たり3.9ドル。原油価格の高騰に連れて08年には14ドルまで広がったが、リーマン・ショック後の世界同時不況で一時2ドルを割り込み、14年後半以降はおおむね4-6ドルのレンジ内で推移している。

  杉森氏は、重軽格差の拡大はガソリンや軽油などの石油製品の価格上昇につながるとみている。高硫黄C重油の代替品となる軽油の価格が上昇すれば、海運各社は設備投資を決断し船舶へのスクラバー設置を進め、需要は高硫黄C重油に戻ることになる。将来的な需要回復の可能性があることから、同氏は、一定期間のためだけに分解装置を追加するという対応は「難しい」と話した。

  国土交通省は17日、船舶燃料用C重油の問題を議論するため、石油と海運の両業界を交えた会議をスタートし、需給見通しの共有化や対応方針を模索する。経済産業省石油精製備蓄課の西山英将課長は2月27日に開催された有識者会合で、同じ高硫黄C重油を燃料として使う電力各社の火力発電所をどう維持していくかについても、別な場所で議論する考えを示していた。

  国交省は、石油元売り各社などが現在輸出している軽油の一部を国内に振り向ければ、船舶燃料の供給不足は起こらないとの見解を示している。経済産業省の石油統計によると、16年の軽油輸出は913万キロリットル。これに対し、石油連盟の統計によると、外航船舶向けのC重油販売量は398万キロリットルと軽油輸出量の半分以下にとどまった。

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