米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げが特定の月に偏ることはない-。イエレン議長らFRB当局者が繰り返すこの言葉を、日本銀行の黒田東彦総裁はどう受け止めているのだろうか。

  今年8回開かれる米連邦公開市場委員会(FOMC)のうち、市場関係者が特に注目するのは3、6、9、12月の会合。イエレン議長の会見とセットになっているため、利上げがあり得るとみるからだが、くしくも日銀が同じ月に開く金融政策決定会合はいずれもFOMCの後だ。決定会合を従来の14回から米欧の主要中銀と同数に減らした昨年は、FOMC後は2回だけだった。

  みずほ証券の末広徹シニアマーケットエコノミストは、今年の決定会合の日程について「日銀はさすがに巧妙だ。市場の期待先行を映して海外金利が高めなので、国内金利も少しは上がっても良いのではないかという見方が広がっているが、日銀は金利の誘導目標をできれば動かしたくないだろう。市場の先走りを抑えるには、他国の動きに後出しジャンケン的に対応する必要がある」と言う。

イエレンFRB議長
イエレンFRB議長
Photographer: Aaron P. Bernstein/Bloomberg

  日本時間3月16日早朝に判明する米国の金融政策をめぐっては、イエレン議長らFRB首脳が追加利上げに前向きな姿勢を相次ぎ表明したことから、市場ではほぼ完全に織り込み済み。トランプ政権による大規模な景気刺激策を先取りした米金利の上昇とドル高、日中独などの通貨安に対する批判。海外情勢の変化を踏まえた金融政策の舵取りと市場との対話は、日銀の黒田総裁にとって重要な課題のままだ。

  日銀にはFRBの「後出しジャンケン」に負けた苦い経験がある。2010年8月10日、日銀が現状維持を決めた直後、量的緩和を進めていたFRBは米住宅ローン担保証券(MBS)などの償還金を米国債に再投資する追加緩和を決定。金融市場は円高・株安に振れ、日銀は3週間足らずで臨時会合での追加緩和に追い込まれた。

黒田総裁
黒田総裁
Photographer: kiyoshi Ota/Bloomberg

  黒田総裁は、決定会合後に毎回必ず記者会見を開く。決定の理由や意図、日銀の見通しなどを説明し、市場との対話を図っている。

  一方、イエレン議長の記者会見は経済・物価見通しも示す3の倍数月の4回だけ。議長らは全てのFOMCが政策変更の可能性がある「ライブ」だと説明するが、市場では米利上げは議長会見がある会合で決まるのが基本的だという見方が根強い。

 
  米ゴールドマン・サックス・グループのジャン・ハッチウス氏らは3月に続く今年の米利上げ時期の予想を6、9月と、従来の9、12月から前倒ししたが、いずれも3の倍数月になっている。米銀バンク・オブ・アメリカ(BOA)も米国の利上げの可能性は3月のほかに、9月と12月の3回を見込んでいる。

  メリルリンチ日本証券の大崎秀一チーフ金利ストラテジストは「FRBにとって3の倍数月は市場との対話を図りやすい。日銀は後手なので対応しやすい日程だ。日銀の金利コントロールでは市場との対話が一番重要だ」と語る。

過去の教訓

  みずほ証の末広氏は「全ての会合がライブと言うFRBの本音は議長会見や経済・物価見通しの公表で市場との対話を図りやすい3、6、9、12月で政策変更したいが、他の月には絶対にないと市場に見透かされるのが嫌なのだろう」と話す。

  過去に日銀がFRBの「後出しジャンケン」で対応を迫られた際には、政府も追加経済対策と約6年半ぶりとなる為替市場介入に踏み切った。日銀は10年10月にリスク資産の買い入れや固定金利オペからなる「包括的な金融緩和策」を導入したが、その後の記録的な円高進行に歯止めはかからなかった。

  一方、足元の市場では、日銀の金利抑制姿勢が世界経済の改善と米利上げの進展、米欧金利の上昇に伴って緩んでいくのではないかという観測がくすぶっている。日銀は2%の物価目標への道筋が見えてくれば誘導目標の引き上げもあり得るが、海外金利の上昇がそのまま国内金利の上昇容認につながるわけではなく、日々の金融調節が政策変更に先行することはないと説明している。だが、市場は常に先を読む。

  国債市場は日銀が中期債の買い入れオペを予想外に見送った今年1月下旬から約1カ月にわたって揺れた。長期金利の指標となる10年債利回りは2月初めに約1年ぶり高水準の0.15%に上昇し、同下旬には0.05%まで下げた。日銀が指定利回りで無制限に買い入れる指し値オペで対応したためだ。

  BNPパリバ証券の井川雄亮金利ストラテジストは、日銀が買い入れオペを通じた国債保有額の年80兆円増というめどを4月に撤廃し、10年債利回りが経済・物価情勢の改善を背景に緩やかに上昇するなら6月ごろに再び0.15%に達しても容認するとみている。10月には10年債の誘導目標を「ゼロ%程度」から0.3%程度に引き上げると予想している。

  複数の関係者によれば、日銀は時期尚早の長期金利の誘導目標引き上げ観測が高まるのを避けるため、インフレ率が高まり始めた段階で、長期金利を引き上げるための条件を示したガイダンス(指針)を明らかにするかどうか検討している。

  BNPパリバ証の井川氏は「日銀の目標はあくまでも国内の景気・物価情勢の改善だが、外部環境に日本経済が左右される面は多々ある」と指摘。「日銀は米国をはじめとする海外情勢を見極めながら、市場の観測をさばいていく必要がある。市場との対話は今後も重要だ」と語った。

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