【米国ウオッチ】トランプ氏にインチキ扱いされた雇用統計が語る真実

  • 選挙中は「インチキ」、勝てば「本物」-都合良く解釈する二枚舌
  • 「労働者の苦境の打開」唱えるなら、雇用統計の精査は不可欠

トランプ大統領は2月の雇用統計について、「雇用統計はこれまでインチキだったかもしれないが、今では本物だ」(ホワイトハウスのスパイサー報道官)と話したという。労働省が10日に発表した2月の雇用統計は、ヘッドラインの非農業部門雇用者数が23万5000人の純増と、市場エコノミストの予想を上回った。

  1月20日に大統領に就任してからの経済状況を示す最初の大型統計であるだけに、トランプ大統領が2月雇用統計を自らの力の反映と過信しても不思議ではない。しかしオバマ前政権時代の雇用統計が「インチキ」で、いまや「本物」になったとのコメントはいかにもトランプ大統領らしい。

トランプ大統領

Photographer: Michael Reynolds/Pool via Bloomberg

  2月の非農業部門雇用者数は季節調整前の原数でみると101万人の純増である。労働省はこの数値を季節調整で77万5000人も圧縮して23万5000人の純増とした。選挙戦の最中にあった昨年2月の原数は83万1000人の純増と、今年より約18万人も少なかった。それが季節調整値では23万7000人の純増と、今年をわずかながら上回っている。トランプ大統領かあるいは経済顧問が統計を細部まで分析すれば、今年2月の雇用の伸びは「本当はもっともっと大きい。統計はやっぱりインチキだ!」とツイッターに投稿するのではないだろうか。

  もっとも労働省が大統領の交代にともなって、計算方式を変更することなどあり得ない。「今や本物」とするトランプ大統領の発言は、証拠もなく直感に基づいていることが分かる。統計自体、詳細に検討すれば経済を分析する上で確かな証拠となるため、いたずらな発言は墓穴を掘ることになりかねない。

  ただし、統計の集計方式が時代と共に形骸化しているリスクはある。しかしこれはインチキ呼ばわりとは違う次元の問題だ。2月の原数をさかのぼると、今年2月の101万人の純増は史上2番目に高い。過去最高は2013年2月に記録した103万9000人の純増だった。このときの季節調整値は28万6000人増。このように、原数をみると経済成長が低迷している現下の景気拡大期に史上1、2位の雇用の純増が記録されているのである。これは実体経済の加齢にともなう成長減退を、現行方式では正しく把握できなくなってきたことを示唆しているようだ。

  前回の景気拡大期は07年12月が山となるが、2月の雇用原数値は06年同月の92万5000人増でピークを形成していた。この時の季節調整値は31万5000人増だった。この数値からは雇用の大幅拡大が景気の山の接近を告げていたことがわかる。

  そもそも「既存概念の打破」を唱えてトランプ氏が大統領選挙で勝利できたのは、大半の国民は十分な職に就けず、金融に過度に依存した景気拡大で貧富の差が拡大し、不満が高まっているからである。雇用の改善を主唱するトランプ大統領が注目するべき数値は、全体の平均値にすぎない毎月の非農業部門雇用者数ではなく、失業者数であろう。

  そしてその失業者数(季節調整値)は今年2月に752万8000人で、前月比で10万人減少したとはいえ、なお昨年11月の740万9000人を上回っている。この11月の水準が現下の景気拡大局面でボトムになる可能性がある。前回の景気拡大局面を振り返ると06年10月に672万7000人でボトムに達した後、1年2カ月後に米国経済は景気後退に陥っている。トランプ大統領は直感で統計自体を批判したり絶賛したりするのではなく、労働市場の本当の姿に迫る努力をすれば、失業者数が景気の先行指標になることが分かるだろう。そうすれば「労働者の苦境の打開」という有権者への約束を果たす方向に、少しでも進むことができるかもしれない。

(【米国ウオッチ】の内容は記者個人の見解です)
  
  

  

  

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