為替相場の雲行きが怪しい。日米金利差の拡大はドル高・円安の推進力になるはずだが、これまで半信半疑で見ていた3月の米利上げを市場が100%近く織り込んでも、ドル・円相場は直近1カ月の高値を越えられないでいる。背景に浮かび上がるのは1980年代に激化した日米自動車貿易摩擦だ。

  先週は米連邦準備制度理事会(FRB)高官からの相次ぐタカ派発言を受けて米利上げ期待が急速に高まった。フェデラルファンド金利先物動向を基にブルームバーグが推計した3月の利上げ予想確率は7日時点で96%と、1週間前の52%から一気に上昇。日米2年債利回り格差は8年半ぶりの水準まで拡大した。一方、ドル・円は1ドル=114円75銭と2週間ぶりの水準まで買われたが、2月から続くレンジの上限を突破するには至らなかった。

3月の米利上げ予想に関する記事はこちらをクリックください

イエレン米FRB議長の利上げに関する発言記事はこちらをクリックしてください

ロス米商務長官
ロス米商務長官
Photographer: Zach Gibson/Bloomberg

 貿易不均衡の是正や国内製造業の復活を目指すトランプ政権。日本の自動車市場や自動車メーカーは通商問題の標的になりかねない。米国が2016年に記録した4年ぶりの大幅貿易赤字の内訳では、対日が対中に次いで2番目に大きく、その76%を自動車関連が占めた。1月の米貿易赤字が12年3月以降で最大となったことを受け、ロス米商務長官は7日、「数カ月内に好ましくない貿易合意を再交渉し、貿易の実行に新たなエネルギーを注ぎ込む」との声明を発表した。

  トランプ大統領は就任前から日米の自動車貿易を不公平と指摘しており、就任後も中国や日本を通貨切り下げで優位に立っていると批判するなど為替への「口先介入」を繰り返している。2月28日の議会演説でも保護主義的姿勢は健在で、米国の企業と労働者のために公平な競争機会を作らなければならないと訴えた。

  みずほ証券金融市場調査部の山本雅文チーフ為替ストラテジストは、トランプ大統領の言動には「景気刺激をしたとしても金利上昇とドル高を容認するのではなく、製造業の雇用創出という非常に難しいことをなしえるにはドル高を抑制しなければならないという姿勢が透ける」と指摘する。「その意味で、今年に入ってからドル・円は金利差と乖離(かいり)しやすい状況になっており、今後もそうした状況が続きそうだ」と言う。

  トランプ大統領のリフレ政策への期待などを背景にドル・円は昨年12月に118円台66銭まで上昇した。年明けには再び118円台後半を付けたが、その後は111~115円台のボックス圏での推移が継続。米国の追加利上げが近づく中で、投資収益を高めるために借り入れ金を利用するレバレッジドファンドは大統領選以来積み上げてきた円の売り持ちを減らしている。

  米国家通商会議(NTC)のナバロ委員長は6日、ワシントンで行われたエコノミスト会議で「日本には極めて高い非関税貿易障壁がある」と指摘した。4月にはペンス米副大統領と麻生太郎財務相をトップとする経済対話の初会合が開かれ、昨年日本を「監視リスト」に指定した米財務省の為替報告書も公表される。共同通信報道によると、世耕弘成経済産業相は16日にもロス米商務長官と会談する方向。ロス氏は7日、CNBCとのインタビューで、ドル高が米貿易赤字削減の障害になっているかとの問いに対し、「ドルが強すぎるのではない。一部の他通貨が恐らく弱い」と述べた。

  トロント・ドミニオン銀行の北米為替戦略責任者、マーク・マコーミック氏は、「歴史的に米国が保護主義を主導するときにドルはユーロや円、ポンドのような準備通貨に対して強くなっていない。クリントン時代の日米自動車摩擦の時もドル安を招いたし、ブッシュ時代の欧州との鉄鋼問題のときも同じことが起こった」と語る。

  日米自動車摩擦が激化した1980年代に日本は自動車輸出の自主規制に追い込まれた。85年には米国の呼び掛けにより先進5カ国がドル高是正で合意し、円のドルに対する価値はその後3年間で約2倍となった。90年代に入ると米国は制裁措置をちらつかせ、現地生産や部品調達の比率引き上げなどの数値目標を要求。95年に米国が数値目標要求を取り下げる一方、日本が海外生産・部品購入の拡大計画を公表することで合意した。

  JPモルガン・チェース銀行の棚瀬順哉為替調査部長は、自動車をめぐる日米貿易摩擦の長い歴史の中で、「日本が米国の要求を飲む形でいろいろなことが解決されてきているので、日本ができることは少ない」と指摘。「ファクトベースで米国側を説得できればいいが、それでも米国の自動車メーカーの不満が収まらない場合には、為替はある意味手っ取り早い手段であるので、そちらが蒸し返される可能性はある」と言う。  

  トランプ政権の通商政策への懸念がくすぶる中、日本の主要自動車メーカー5社の株価のパフォーマンスは年明け以降、TOPIXを下回っている。トヨタ自動車では対ドルで1円の円高が400億円の営業減益要因になる。  

  米自動車動車大手3社を代表する米自動車貿易政策評議会(AAPC)は2月10日に開いた日米首脳会談の前日、日本の市場開放や「為替操作を禁じる強制力あるルール」を訴える声明を発表した。今月17、18日にドイツで開かれる20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の共同声明では保護主義に明確に反対する言い回しが削除され、「公平で開かれた貿易制度を維持する」と表明する見通しだ。

  JPモルガンはドル・円が年末までに100円を割り込むと予想。棚瀬氏は、前提として足元の水準が過大評価との認識があるとし、新たな日米貿易摩擦が「ドル・円の平均回帰的な動きを一時的に加速させるぐらいのことはあってもおかしくない」と指摘している。

最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE