アベノミクスの下で上昇し続けていた日本版不動産投資信託(Jリート)に逆風が吹いている。リートの収益源である不動産は価格上昇で取得が難しくなり、今後の成長への不安要因が出てきたからだ。昨年相次いだ新規上場は公募価格割れが目立ち、相場全体も伸び悩み始めた。

  リートは保有不動産のテナントからの賃料収入などを原資に配当する証券化商品。昨年の新規上場(IPO)銘柄は過去10年間で最多の7銘柄あった。このうちさくら総合リート投資法人投資法人みらい大江戸温泉リート投資法人マリモ地方創生リート投資法人スターアジア不動産投資法人の5銘柄は初値が公募価格割れとなり、2月末時点でもなお公募価格を下回った状態となっている。

  安倍政権下の超金融緩和を背景に堅調が続いていたJリート相場もこのところ、伸び悩んでいる。アイビー総研の調査によると、東証REIT市場の時価総額は1月末時点で12兆700億円と、安倍政権発足当時から3倍弱に膨らんだ。しかし、2月末までの過去1年間に限って見ると東証REIT指数の騰落率はマイナス3%に対して、TOPIXはプラス18%と明暗が分かれている。

  しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹運用部長は、昨年のIPO銘柄の状況について「リート市場が良かったために上場したが、結局は公募割れで投資家に受け入れられなかった」とした上で、「安易に物件を集めて上場しても、市場からの支持は集まらない」と分析する。

  マイナス金利政策で不動産価格の上昇に拍車が掛かる中、クレディ・スイス証券の望月政広アナリストは「リートが物件取得を続けられるか、成長余地があるかどうかを投資家がみている」との見方を示す。米総合不動産サービスのJLLによると16年の日本の商業用不動産投資額は2年連続減少の3兆6700億円。不動産証券化協会がまとめた既存Jリートの取得額は1兆2700億円と前年比で約1割減少した。

  投資法人みらいの運用会社である三井物産・イデラパートナーズ取締役業務部長の平塚弥志氏は、同法人の上場来のパフォーマンスに関して「資産規模が小さいリートのIPOが続き、投資家の需要が弱い中での上場タイミングが影響した可能性がある」とみている。同氏は資産拡大に向け「毎年700億ー800億円程度の新規取得をしていきたい」と語った。

上場審査

  東京証券取引所は昨年12月、リート上場審査の運用を明確化した。証券会社や発行体に対し想定価格や仮条件、公開価格の算定根拠に関する書類を提出するよう文書で明記。配当に相当する収益分配金についても「経済環境などの変化に適切に対応可能な状況かどうかも確認のポイント」との文言を新たに盛り込んだ。

東京証券取引所
東京証券取引所
Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  東証上場推進部の内藤友則課長は、「最近のリートIPOの環境を考慮し、今までの運用を明確化した」と説明する。公募価格の決定過程について、みずほ証券上級研究員の石沢卓志氏は「発行体の力が強い」とし、「ブラックボックスに近い形で決まっていたのを客観的な視点ではっきり決めろと言っており、単なる注意喚起以上のものがある」と受け止めている。

  不振続きのIPOを受けて、今年初となる2月7日の森トラスト・ホテルリート投資法人上場は市場関係者の注目を集めた。公開価格は14.3万円と目論見書の想定価格15.8万円を9.5%下回る水準に設定。初値は公開価格を上回り、2月末まで割り込まずに堅調に推移している。

  しんきんアセットの藤原氏は「想定価格では市場平均より高いため、今のホテル環境やクオリティからはもっとプレミアムがないと厳しいとの見方が強かった。しかし公開価格を14.3万円まで下げてきたので投資家に受け入れられた」と話す。

日銀依存

  日本銀行が量的・質的金融緩和の一環としてJリートの投資口を直接購入したことやマイナス金利政策で不動産価格が上昇したことがリートには追い風になってきたが、市場環境はやや変わりつつある。昨年の米大統領選でトランプ氏が選出されて以降、景気浮揚期待から米長期金利が上昇。日本でも金利上昇圧力が高まり、昨年7月には史上最低のマイナス0.3%まで下げた長期金利は2月3日、一時1年ぶりの0.15%を付けた。

  早稲田大学ビジネススクールの川口有一郞教授は、「これまでおんぶにだっこだった日銀の金融政策は効かなくなるので、海外投資家はJリートから離れている」と話す。東証のデータでは、海外投資家はマイナス金利導入直後の昨年2-4月は計2622億円の買い越しだったが、昨年5月から今年1月は売り越しが目立ち、同期間は計1003億円の売り越し。アイビー総研の藤浪容子氏は「海外投資家の売り姿勢が継続している」と語った。

大手町タワー
大手町タワー
Photographer: Yuya Shino/Bloomberg

  一方、国債の一部が依然マイナス金利の中で、国内投資家は利回りの乗った商品への選好を強めており、みずほ証券の石沢氏はリート相場の下落局面は「割安という点で投資家にはありがたい状況」との見方を示した。アムンディ・ジャパンの浜崎優市場経済調査部長も、「日本の金利上昇の度合いは米国よりかなり低く、妙味は落ちていない」と話す。

  01年に始まったJリート市場では、08年のリーマンショックで相場急落に見舞われたほか、一部のリートがファイナンス不能で破たんし、統合が相次いだ。13年以降はデフレ脱却を目指す安倍政権下で市場は回復傾向が続いているが、「IPOのクオリティを上げておかないと、いずれ環境が悪くなったときにリーマン後のように再び問題になる」と、しんきんアセットの藤原氏は懸念する。

  川口教授は、今後の市場育成には「ブルーチップだけの市場では将来の広がりがなく、銘柄の多様性が必要だ」と話している。

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