保育の受け皿不足が政府の想定を上回るペースで進む中、補助金を利用して従業員の保育対策に自ら取り組む企業が増えている。

  ニチイ学館は女性従業員の確保策の一環として、2018年までに保育所100カ所を新設する。高齢化に伴う生産年齢人口の減少に備え、出産を経験した女性従業員に早期の職場復帰を促す保育対策は企業にとって大きな課題だ。

  ニチイ学館が保育所展開を発表した2月17日、国会では安倍晋三首相が2018年3月末までに保育所待機児童を解消する政府目標の実現が難しくなっていることを明かした。女性の就労者数が政府の見込みを上回るペースで増えているのが要因だ。「保育園落ちた日本死ね!!!」というブログが話題になってからちょうど1年がたっていた。

  ニチイ学館広報部長の飯田祥一氏は、企業にとって人材の確保が大きな課題になる中で、「働く場所のそばに保育所を柔軟に設置していくことが民間がやる意義だと思う」と語る。職場の環境整備も人材確保には重要で、公的部門だけですべては解決できないと指摘。「共に取り組むべき課題。自治体任せにし切れない部分も当然ある」と話す。

  政府のデータによると、15ー64歳の女性の就労率が過去最高の66%に上昇する一方で、昨年も保育所の待機児童数は増加している。政府は18年3月末までに50万人分の保育の受け皿拡大を目指しており、厚生労働省によると15年度末までに31万人分以上を確保した。

  女性の就労を奨励する安倍首相のウーマノミクスの実現には、保育所不足の緩和が鍵を握るが、保育行政は戦後の「児童福祉」が原点で、柔軟に運用しにくい制度になっているのもネックの一つだ。

保育行政の課題についての記事はこちら

  政府は一定の基準を満たした認可保育所に補助金を支給しており、民間企業が補助金なしで市場参入するのは難しい。そうした中で、従業員向けの保育施設を整備する企業に補助する新制度「企業主導型保育事業」が16年に始まった。助成窓口となっている児童育成協会によると、17年2月20日時点で補助金交付件数は500社以上(保育所施設600以上、定員約1万4000人)に上っている。

  ビックカメラはこの制度を利用し保育園を5月に初めて開く。人事部係長の木下浩美氏によると、定員は30人で池袋駅から徒歩約10分の距離にある。木下氏は、女性や子育て世代の社員が増える中で、子育てに専念するために退職する人もいたため、保育園の設立で継続勤務を促したいという。

  ニチイ学館もこの制度を活用する。新設園の利用枠の一部を日本生命保険に提供し、全国展開を実現するという。飯田氏によると、企業主導型保育所は従業員だけでなく、提携企業や近隣地域住民向けにも柔軟に定員を割り当てることが可能で、ニチイ学館が設置する保育所も近隣住民に利用してもらうという。政府の助成金で保育所の設置費用の約75%、運営費の約75%-80%が賄える見込みだと飯田氏は話している。

リスクマネジメント

  企業側の取り組みは、保育所整備が急務の地方自治体の側面支援にもなる。東京・世田谷区の待機児童数は16年4月現在で1198人と全国で最も多い。今年4月からは約2000人分の受け皿を増やすが、申込者も6680人と過去最高を更新している。同区の保育認定・調整課長の上村隆氏は「東京への一極集中や共働き世帯が増えているという傾向は変わらない」といい、待機児童解消は「区の計画としてはもう少し時間がかかるみている」と話す。

  ニッセイ基礎研究所主任研究員の久我尚子氏は、問題は政府が考えているより大きいと指摘し、保育所に申し込まない母親の存在を挙げる。パートや契約社員として働く20歳代や30歳代の女性の多くは、子どもができると仕事を辞めてしまう傾向があり、結果的に保育所に預ける機会を失ってしまうという。

  その上で久我氏は、企業主導型保育事業は企業にとって「人材確保という面でリスクマネジメントにもなる」と話す。さらに待機児童が多い現状では利用者は保育園を選ぶことができず、「入れるところに入れるしかない」が、民間参入を促せば保育サービス全体に「質の向上や価格の競争が起きてくる」とみている。

最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE