「アート」、「エンターテインメント」、「省エネ」、「コンサート」。世界に名だたるカジノ運営企業の経営者が登壇した都内での講演では、カジノ施設に関する具体的な言及の代わりに一見カジノとは無関係のキーワードが飛び交った。

  香港の証券会社CLSAは22日まで2日間にわたり都内で投資家向けのカジノ関連セミナーを開催。世界最大手の米ラスベガス・サンズ(LVS)のシェルドン・アデルソン会長は講演や記者向けのブリーフィングで、松阪牛のおいしさや大型会議スペースの必要性を語ることに時間を費やした。

  同様にマカオのメルコ・クラウン・エンターテインメント(MCE)のローレンス・ホー会長は日本の着物やミシュランガイドに掲載されたレストランの質の高さに言及。米MGMリゾーツ・インターナショナル(MGM)のジェームス・ムーレン会長は日本語で「節電」や「省エネ」といった言葉を並べ、日本のお家芸ともいえるこういった取り組みに同社の価値観が合致していると話した。

  しかし、念頭にあるのは市場規模250億ドル(約2兆8000億円、CLSA予想)の日本のカジノ市場。マカオに次ぐ世界屈指のカジノ市場に成長する可能性を秘める一方で、カジノを含む統合型リゾート(IR)の推進法案が昨年12月に可決された後もギャンブル依存症対策など課題は残る。IR実施法案の成立に向けた論議が進む中で、各社は前向きな印象を与えることに必死だ。

  LVSのアデルソン会長は「マカオの一番大きなカジノでも賭博スペースは5%未満」とした上で、人々がIRに求めるものは「エンターテインメントだ」と指摘した。「MICE(マイス)」と呼ばれる国際会議や展示会向けのイベント施設を併設してビジネスマンを集める同社が得意な運営方法を売り込み、ラスベガスやマカオでの実績を紹介し「観光業全般の発展につながる拠点」になると話した。

ギャンブルから娯楽へ

  東洋大学の佐々木一彰准教授(国際観光学)は、従来は「カジノを駆動部分とした統合型リゾートは、収益性の高いカジノが収益のそれほど高くない他のリゾート部分の収益を補塡(ほてん)するビジネスモデル」だったと指摘。しかし、リーマンショック後はカジノ運営各社による新たな顧客開拓のための努力が奏功。ラスベガスでは2014年、宿泊やレストラン、ナイトクラブといった分野が大半の収益源となり、カジノの収益は全体の4割未満にとどまったという。

  MCEのホー会長は、IRにおけるカジノの位置付けは、趣向を凝らした建築物やショーなど文化的なものを提供するための「金融エンジン」とし、「地域と連携することが成功の鍵」と述べた。LVSのアデルソン会長は、日本を訪れる質の高い富裕層が全て「麺ばかりすすりたいわけではない」とし、IR施設ができると自社の宿泊施設だけではなく地域のホテルやレストランの集客にも貢献すると述べた。

  アデルソン会長は一方で、日本のギャンブル市場の有望性も認める。パチンコが盛んな日本では「1万台のスロットマシーンを1カ所のIR施設に設置することが容易にできる」と語った。日本はパチンコの設置台数が25人に1台の割合である一方、米国でのスロットマシンの設置台数は375人に1台の割合と試算しているためだ。日本に対し60億ドルから最大で100億ドルを投資する用意があると述べた。

地方活性化のゲートウェイ

  IR推進法案が昨年末に可決された際には、観光産業の「国際競争力の強化」、「就業機会の増大」、「その他の地域における経済の活性化」などが掲げられた。IR施設の誘致には東京都や横浜市、大阪市のほか、福岡市、沖縄県なども関心を示している。しかし、カジノ大手各社は大都市への立地を前提としている。

  LVSのアデルソン会長は「片田舎にIR施設を造れば他にも多くの事業を呼び込めると考えている国もあるが、それは間違い」と指摘。また、MCEのホー会長は政府当局の意向を尊重するとしながらも、同社にとっては「大阪との相性が一番良い」とコメントした。MGMはIR施設を日本に造ることで地方活性化の「ゲートウェイ」になりたいと述べ、立地地域だけでなく、日本の高度に発展した交通網を通じて他地域にも好影響をもたらすとの考えを示した。

  IRをめぐっては未知な部分も多い。最終的にどの候補地が選ばれるか、税率がどう定まるか、国民に対する入場制限を設けるのかなど議論を必要とする点が多く残る。法案可決時には、政府がIR推進法の実施日から3カ月以内に安倍晋三首相を本部長とするIR推進本部を設置し、1年以内にIR実施法を国会に提出することが決められた。セミナーに参加したウィン・マカオのイアン・コフラン社長は、9月以降には政府の具体策も見えてくるだろうとの見解を示した。

  CLSAのアナリスト、ジョン・オー氏によると、IR実施法でカジノの収益に対する税率がどう決まるかが最も重要な要素で、カジノ運営企業の投資判断を大きく左右すると述べた。同社は23年に大阪と東京にIR施設が造られた場合、日本のカジノ市場は250億ドル規模に達し、マカオに次ぐ大きな市場になると予測する。

  同氏はこの市場規模は「簡単に実現できる水準」と述べ、さらに発展する場合には「400億ドルに達する可能性もある」と語った。CLSAによると16年のカジノ事業の収益(税引き後)は首位の米国が700億ドル、2位のマカオが270億ドルだった。

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