土佐弁で向こう見ずで勝ち気な女性を指す「はちきん」。その「はちきん」が率いる異色の金融機関がある。信用金庫でありながら、貸し出しではなく証券投資で高収益を上げ、高い金利で預金者に還元する高知信用金庫だ。

  経営者の山崎久留美理事長(58)は高卒で窓口担当からのたたき上げ。高知県は日本列島でもいち早く人口減による市場縮小が進むが、「投資はどこでもできる。中央にいる必要はない」と逆風をものともしない。

Kurumi Yamazaki. Source: Kochi Shinkin Bank.

Kurumi Yamazaki. Source: Kochi Shinkin Bank.

Source: Kochi Shinkin Bank.

  2016年3月期決算によれば、預金7005億円に対し貸し出しに回したのは601億円。貸出先がないのは全国どこも同じで、預金に占める貸し出しの比率を示す預貸率は全信用金庫平均で50%程度にとどまるが、1割を切る高知信金は際立つ。代わりに注力しているのが有価証券投資で、16年3月末で約5766億円と実に預金の8割以上を占める。

  山崎氏は「高齢化もあって年金資金が毎年大量に集まる一方で、高知には地場産業が少なく、貸し出す先はあまりないので、預貸率は下がらざるを得ない」という。一方で、「プロであるわれわれがリスクを取らないと、お客さまはリスクを取れない」と話す。顧客に喜んでもらうため「預けたら高い、貸したら安い」ビジネスを実践する。現金自動預払機(ATM)も無料が基本という。

  有価証券投資は債券と株式が中心。「デリバティブや外貨建て商品など理解できないものは買わない。投資信託も持っていない」と運用はシンプルだ。有価証券運用は時に赤字になるリスクもあるため、自己資本は16年3月期末で47%と、信用金庫の国内規制基準4%をはるかに上回る水準だ。「再びリーマンショックのようなことが起こった時のために、積める時に積んでおかなければならない」と山崎氏は語る。

日本の将来を映す鏡

  総務省の人口推計(14年10月1日)現在によると、高知県の人口は全国で3番目に少ない。1月現在は71万9554人で、東京の世田谷区(同89万2535人)も下回る。05年からは約1割減少した。65歳以上人口の割合は32.2%と秋田県に次ぐ2番目。地形的にも森林面積が全国で最も多く平地が少ない。四国山地と海に囲まれ大都市圏から遠く、産業が集積しにくい。製造品出荷額等は5259億円(14年)と全国最低、名目県内総生産は02年度から12年度にかけて1割以上縮小した。

  有効求人倍率は約1年前にようやく1倍を超えたが、9日に高知市で講演した中曽宏日銀副総裁は背景の一つとして、「全国に10年以上先駆けて進んでいる人口減少や高齢化による人手不足という側面」も指摘した。人口減は「県内市場の縮小という大きな課題」ももたらしており、高知県は「まさに将来の日本の姿を映す鏡とも言っても過言ではない」と述べた。

  こうした逆境の中でも、高知信金は高収益を挙げ、16年3月期は185億円の純利益を確保。帝国データバンクによると、これは信用金庫業界トップで、地方銀行の四国銀行、第2地銀の高知銀行など県内の上場企業も陵駕(りょうが)する。預金者への還元も積極的で、10万円以上の預け入れで3年物の定期の金利は0.2%(税引き前)。これはメガバンクなどの20倍に相当する。

桂浜

  経営のトップに立つ山崎氏は郷土の英雄、坂本龍馬の像が鎮座する桂浜の近くで生まれ育った。実家は布団店を営んでいた。地元の伝統校、土佐女子高校を卒業。信金業界と付き合いのあった父親の勧めで高知信金に就職し、窓口担当も経験した。支店で営業担当だった20代後半に一度辞めようかと思ったが、四国財務局OBで当時専務だった山本正男・現名誉会長に引き止められ本店に配属。以来その薫陶を受けてきた。

  「何を買うのか、なぜそれを買うのか」。最初は山本氏に聞くしかなく、「叱られてばかりだった」と振り返る。そうした中で山本氏の考えが水を吸うスポンジのように頭に入ってきたといい、11年に全国の信金で初めての女性理事長に就任した。投資判断に当たっては「今も山本会長の意見を聞くが、最終的に私が判断する」と話す。管理職の3、4割は女性で、6、7人で構成する投資判断のチームも山崎氏を含めて3人が女性という。

  同信金の開示資料によると、16年3月末現在の運用先の内訳は社債63%、株式26%、地方債8%、国債3%。投資先の個別銘柄は開示していないが、ブルームバーグデータによると、九州電力や東北電力、東燃ゼネラル石油の株主となっている。

リスクテイク

  金融庁は昨年公表した金融リポートで、地域銀行は人口減少・高齢化で預金より貸出残高の減少が大きくなり利ざやが縮小する傾向があると指摘。貸し出し・手数料ビジネスの利益率は、10年後に6割を超える地域銀行でマイナスになるとの試算を示した。大和総研の菅谷幸一研究員は6日付のリポートで、地銀は貸出業務の規模縮小と収益性の低下という「二重苦に将来直面する可能性が示されている」と指摘した。

  高知信金はこうした地域経済のパイの縮小とは無縁だ。全体でも預金の1割以下にとどまる貸し出しの中でも、個人向けが8割を占めており、企業向けはごく一部にすぎない。

高知信金第一センター
高知信金第一センター
Photographer: Masahiro Hidaka/Bloomberg

  日銀高知支店の大谷聡支店長は「貸出先が限られる中、いかに出資者、預金者に利益を還元していくかという観点から選んでいるのが有価証券運用であり、ある意味1つの究極的なビジネスモデルだ思う」と評価する。積極的なリスクテイクについても、自己資本比率の高さに触れ、「リスクテイクを促すのは日銀の金融政策運営の1つの帰結なので、その方向性はまったく正しい」という。

それぞれの道

  独自路線を行く高知信金を横目に、それぞれの道を模索しているのが2つの地銀だ。高知県のトップバンクである四国銀行が活路を見いだそうとしているのは、百十四銀行(香川)、伊予銀行(愛媛)、阿波銀行(徳島)の四国各県のトップバンク同士の包括提携である四国アライアンス。

  山元文明頭取は「四国はどの県も人口減少、高齢化が全国よりも進んでいるので、課題に対する認識は共通している」と指摘。「創業以来ずっとライバルという長い歴史を乗り越え、四国創生という大義に手を携えていく」と語る。人口や事業所の減少で、地方金融機関を取り巻く環境は厳しいが、「地域のトップバンクとして何としても生き残っていかなければならない」と意気込みを語る。

  一方、第2地銀である高知銀行の森下勝彦頭取は「中小零細の事業者向けの貸し出しを突き詰めていくことに尽きる」と話す。有価証券の投資については「当然大事な部門であり、人材育成もリスク管理体制も構築しているが、だからといってどんどん資源を投入していくかというと、それは最優先事項になり得ない。やはり貸し出しだ」と語る。

  さらに、「地方消滅ということも言われているが、コミュニティーがなくなるわけではない。極端に言えばゼロ人になるまでコミュニティーはある。株式会社なので自らの収益も当然考えてやっていかないといけないが、地域を支え、一緒になって進んでいくことにこそ存在意義がある。なかなか選択肢が少ない中で、はいつくばってやるしかない」と使命感がにじむ。

  日銀の大谷支店長は「証券投資は人、組織があってできるので、必ずしも全ての金融機関ができるとは思わない」と語る。「四国銀行のように四国アライアンスを通じて地元の上位企業を相手に輸出や販路拡大に力を入れる金融機関もあり、高知銀行のように他地域であれば信金が相手をするような零細企業を開拓して収益力を高めようとする金融機関も、ある意味で1つの究極的な姿だ」と話した。

地産外商

  人口縮小は地域産業全体にも変革を迫る。尾崎正直知事は「経済規模が縮んでいくのであれば、足元に閉じこもってしまってもジリ貧だ。ないものねだりはできないので、持てるものを生かし外に打って出て外貨を稼いでくる、いわば地産外商を徹底してやらないといけない」と語る。その活路の一つが地元特産品を軸とした6次産業だ。

  6次産業とは、農業や水産など第1次産業が加工(第2次産業)と流通販売(第3次産業)も手掛ける経営形態。日銀の大谷支店長は「昔は採れた物を高知市や大都市にそのまま出荷していたが、それだと全く付加価値がつかないので、何とか一手間かける。地元で加工すると地元で雇用が増えるし、外で高い価格で売ることができる」と語る。

宗田節

  尾崎知事と大谷支店長はともに高知出身で中学、高校の同級生。地元を盛り上げようとタッグを組む。その2人が最近相次いで激励に訪れたのが県最西端にある土佐清水市の第3セクター「土佐食」だ。羽田空港から高知龍馬空港を経由して約5時間。市のウェブサイトで国内で東京から最も遠い市と紹介されるこの地は、江戸時代から続くかつお節の一種「宗田節」の産地だ。

  江戸前そば特有の濃厚なつゆに欠かせない宗田節は、カツオより小ぶりで地元で「メジカ」と呼ばれるソウダガツオを材料とする。鮮度が落ちやすいため鮮魚としては流通せず、大半が宗田節にされてきた。土佐食はこれをスティック状に焼いて味付けした「姫かつお」として販売。また00年には猫向けのペットフードとしてOEM(相手先ブランド製造)生産した製品がヒットし、全国チェーンのスーパーやホームセンターでも販売されるようになった。

  平林大昌社長は、宗田節で土佐清水をもう一度盛り上げようという機運がある、という。尾崎知事も「田舎であればあるほど、外に打って出ていかなければならない」と話した。

  中曽日銀副総裁は9日の講演の最後に、自由民権運動発祥の地である高知を象徴する「自由は土佐の山間より出づ」という言葉を引用。「日本経済の活性化は、土佐の山間から」と述べ、高知経済の発展は「今後の日本経済の進むべき方向を示す道しるべの役割を果たす」とエールを送った。

最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE