ジャズピアニストで元通信業界幹部でもあるラリー・リチャーズ氏は、株式オプションという難解な世界には珍しいタイプの起業家だ。

  株式デリバティブ(金融派生商品)のオンラインコースを受けてから3年後の2013年、リチャーズ氏は個人投資家や小規模ファンド向けにトレーディングソフトウエアを開発するアイオータ・テクノロジーズを2人の仲間と創設。16年末には、同社をウォール街のヘッジファンドであるガモン・キャピタルに売却し、ガモンの最高技術責任者(CTO)となった。

  リチャーズ氏(53)は福島県の自宅から電話インタビューに応じ、「新興企業で成功するのは10社中、1社だと言われる。その10%の中に入れて安心している」と語った。

  同氏はオプション取引をシカゴ・オプション取引所(CBOE)の元マーケットメーカー、ダン・シェリダン氏が設立したスクールのコースで学習した際、小規模取引の投資家向けツールは使いづらいと確信。高校時代から自主学習してきたコーディングの技術を用い、トレーダーが資金をリスクにさらす前にポジションを体系的に検証できるプログラムを作り上げた。その後、コンピューターが自ら理解を深めていくマシンラーニング(機械学習)の一種である予測モデルを追加し、プログラムをより洗練させた。

  このソフトが、ガモンの創設者および最高投資責任者(CIO)でデリバティブ裁定取引を行うマイケル・メッシャー氏の目に止まった。同氏はこの技術を独り占めしようと、アイオータ買収を決め、両社は昨年12月に最終合意書に署名。リチャーズ氏は5人のエンジニアとともにガモン入りした。

  メッシャー氏は手に入れた技術について、「本当に素晴らしい」と電話インタビューで発言。「現在の標準の数年先を行っている」と付け加えた。

  同氏によると、ガモンではリスク調整後のリターンを測るシャープ・レシオが昨年5月にリチャーズ氏のソフトを使って戦略を立てるようになってから、それ以前の3倍近い水準に改善。計2000万ドル(約22億7500万円)を運用するガモンの昨年5月1日から今年1月末までのリターンは年率で40%に達し、15年7月から昨年4月末までの24%を上回ったという。同社は4-6月期に合同運用ファンドを始める予定で、運用資産が増えそうだ。

  リチャーズ氏はノーステキサス大学で音楽を学んだ後、日本の戦前のジャズ史を研究するため来日。福島県で音楽を教えながらジャズ・ピアニストとしても時折活躍していた頃、家庭を築いて日本に定住することになった。幸運なことに当時の日本は携帯電話業界の採用が盛んで、同氏は1994年以降、エリクソンやNECなどの従業員として日本の携帯電話事業者向けに無線インフラ機器を販売・納入したほか、新規ネットワーク立ち上げ業務にも携わった。その後、日本の携帯電話市場が成熟するとリチャーズ氏は2010年、アルカテル・ルーセントを早期退職し、オプション取引の道を進むことにした。

  当時入手できるトレーディング手段に不満を感じたリチャーズ氏はこうして、2人の仲間とアイオータを設立した。プログラムのコードが書ける人材をマニラやブダペストなどから採用し、15年前半には主力ソフトを販売するようになった。米ルイジアナ州出身の同氏はベンチャーキャピタルにアピールするにはオプションはニッチ過ぎて事業拡大の資金調達に苦労したと話す。また、ソフトに関心を持ってくれそうなトレーダーの人数を過剰に見積もってもいた。

  ソフトを販売するのではなく、自ら使ってトレーディングに活用しようかと考えていたころにガモンから買収提案があった。リチャーズ氏は売却条件については明らかにしなかった。同氏は福島県在住のまま、ガモンのCTOを務め、今でも数カ月ごとにジャズを演奏している。

原題:Jazz Pianist Turns Hedge Fund Quant With Sale of Options Startup(抜粋)

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