1月下旬、東京・神楽坂のホテルがワインの香りと女性たちの熱気に包まれた。全国から集まったソムリエや醸造家ら計420人が5人ずつのチームに分かれ、5日間にわたってワインの色や味わいなどを吟味して採点。高評価のワインからはコストパフォーマンス賞やラベルデザイン賞のほか、すしや天ぷらなどの料理に合うベストワイン賞も選出される。

  今年で4回目を迎える「サクラアワード」は日本のワイン業界で活躍する女性だけで選ぶワイン審査会だ。日本女性の感性にアピールしようと今年エントリーされたワインは4212本と2014年の第1回の2倍余りに上り、29カ国だった国数は今年初参加の中国とセルビアを含め37カ国となった。日本ワイナリー協会理事長でメルシャンの横山清社長(57)は「女性のみによるワイン審査会は世界的にも極めて珍しい」と指摘する。

女性ソムリエや醸造家が審査するワイン審査会「サクラアワード」
女性ソムリエや醸造家が審査するワイン審査会「サクラアワード」
Photographer: Noriko Hayashi/Bloomberg

  サクラアワードは、「食事と共に楽しめるワインを女性の視点で選び、家庭に浸透させたい」という審査責任者の田辺由美氏(64)の思いから始まった。「十勝ワイン」を開発し町おこしに尽力した北海道・池田町の故丸谷金保・元町長の次女である田辺氏は、大学の数学科を卒業後、夫の留学先だった米コーネル大学のホテル学科でワインを学び、1986年からワインコンサルタント業務をスタート。92年にはワインスクールを創設し同校で学んだ生徒数は延べ1万人を超える。

  日本ソムリエ協会によれば、国内のソムリエのうち45%、飲食店勤務者以外でも取得できるワインエキスパートでは60%を女性が占める。しかし、田辺氏は酒類業界で女性が活躍できる場はまだ少ないと感じており、「審査会が発信力を持つことでワイン消費の裾野を広げ、業界における女性の地位向上にもつなげたい」と話す。

価値観の変化

  国税庁の資料によると、酒類全体の消費量が96年度をピークに減少する中、ワイン消費量は2014年度にかけて3年連続で過去最高を更新した。その背景には女性の飲酒習慣の変化がある。厚生労働省の調査によれば、週3日以上飲酒する人の割合を示す飲酒習慣率は14年に男性34.6%、女性8.2%と男性の方が高いものの、03年と比較すると男性は60歳代以上を除く全ての世代で低下しているのに対し、女性は30歳代以上の全世代で伸びている。

  ニッセイ基礎研究所の久我尚子・主任研究員は女性の飲酒習慣率の上昇について、「正社員や総合職に就き可処分所得の多い女性が増えたことや、乳幼児を持つ母親でも子供を夫に預けてカラオケを楽しむなど、女性も男性のように飲酒しても容認されるという価値観の変化がある」と分析する。

  市場調査会社インテージによると、16年のワインの購入比率は女性の方が53%と高かった。英調査会社ユーロモニターのアナリスト、宇都宮あかり氏は、女性の飲酒率向上に伴ってワインが女性消費者の大きな受け皿になったと指摘。産地や品種で異なる味わいや食事との組み合わせなど「ワインの多様性」が女性の支持を集めたとみている。

  国内ワイン市場は近年、欧州の伝統的な生産国以外の「新世界」と呼ばれる南米やオーストラリアなどの新興産地のワインの輸入量増加と、国産ブドウを100%利用した「日本ワイン」の品質向上で多様化が進んでいる。国別輸入量では経済連携協定(EPA)発効で07年から関税が段階的に引き下げられているチリ産ワインが昨年、2年連続でフランス産を上回って首位になるなど、1000円前後の低価格帯輸入ワインの人気が高まっている。

日本ワインの品質向上

  一方、日本ワインについては、日本固有のブドウ品種「甲州」を使用したワインを中心に品質が向上している。サクラアワードに第1回から審査員として参加している元サントリー子会社役員でワイン講師の華井弘子氏(64)は、「今回の審査では甲州の奥ゆかしい香りと味わいが印象的だった。甲州だけを捉えても日本人の技術力が向上していることが分かる」と指摘する。

シャトー・メルシャン「長野メルロー」
シャトー・メルシャン「長野メルロー」
Photographer: Noriko Hayashi/Bloomberg

  国税庁の15年度の調査によると、国内市場におけるワイン流通量の推計構成比は輸入分が約70%、輸入原料も使用して国内製造されたワイン約26%に対し、日本ワインは3.7%にすぎないが、その他のワインと明確に区別するため、同庁は15年10月に日本ワインの表示基準を制定、18年10月から適用する。調査結果によれば、回答した247業者のうち年間生産量が300キロリットル未満の223業者が原料として国産ブドウを98%以上使用しており、中小業者の多くが日本ワインを製造していることが分かる。

国産ブドウの栽培拡大

  メルシャンの横山社長は「日本の風土は雨が多くワイン用ブドウ作りには厳しい環境だが、作り手の努力によって品質は目覚ましく向上している」と指摘。国内大手メーカーも日本ワインの原料となるブドウの栽培拡大に取り組んでいる。メルシャンは契約農家の離農などで不足しているブドウを確保するため、現在山梨県と長野県で計約36ヘクタール運営している自社管理畑を27年までに80ヘクタールに増やす計画だ。

  サントリーは、登美の丘ワイナリー(山梨県)の自社畑25ヘクタールでブドウを栽培しているが、山形県や長野県と連携して耕作放棄地での栽培も進めている。同ワイナリーでは「甲州」の生産量を22年までに約5倍に増やし全体の3分の1に拡大していく方針だ。

  こうした市場の変化を背景にワイン消費は伸びているが、ユーロモニターのデータでは日本のワイン市場規模は世界16位で、アジアでは世界4位の中国に次いで2番目。国税庁の統計によれば、日本人の1人当たりの年間消費量は約3リットルにとどまる。

女性消費者が鍵握る

  メルシャンの森裕史マーケティング部長は、ワインを飲む人が1回に飲む量は頻度にかかわらず250-300ミリリットル程度であるため、ワイン消費が伸びるには食中酒として日常的に飲まれる必要があると説明。年中行事やイベントを重視する女性消費者はその鍵を握るとみる。例えば母の日をボジョレ・ヌーボー解禁やクリスマスに続く「第3のワインの日」と位置付け、毎年プロモーションを展開している。

  サントリー広報部の小澤葉純氏によれば、女性の飲用シーンは記念日のほか女子会、ママ会、晩酌など多岐にわたることから、同社は、女性目線でさまざまな需要を捉え、需要を喚起できる製品を投入していく予定だ。

シャトー・メルシャン トーキョー・ゲスト・バル
シャトー・メルシャン トーキョー・ゲスト・バル
Photographer: Noriko Hayashi/Bloomberg

  各メーカーが女性消費者を重視する中、小売業者のサクラアワードへの注目も高まっている。受賞ワインの販売協力社は第1回の10社から約60社へと拡大。第2回から審査員として参加しているイオンリカー大阪ドームシティ店のリカー担当、國見有実氏(45)は春と秋にサクラアワード受賞ワインの試飲会を開催するほか常設コーナーも設置しサクラアワードを販売促進に活用、1000円台を中心に低価格帯ワインを紹介している。「受賞ワインは特徴が分かりやすく、女性や家族連れなど幅広い層が初めて口にしたワインを好きになり、通ってくれるようになっている」と語る。

  世界から出品されたワインを日本女性の味覚で選ぶサクラアワードの受賞ワインは、14日にウェブサイトで発表予定。最高賞のダイヤモンドトロフィーと、今年から鉄板焼、寄せ鍋が加わって9種類の料理と合うワインが受賞するベストワイン賞を含めた特別賞は幕張メッセで開かれる食品・飲料展示会「FOODEX JAPAN 2017」で3月7日に発表・表彰される。

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