トランプ米政権の下、金融政策と財政政策は衝突に向かい、米金融当局は需要面のショックに直面すると当初、想定されていた。だが、一部の国々への新政権の敵対的な姿勢を見ると、金融政策が衝突するのは国際的な貿易・金融政策で、金融当局が見舞われるのは供給面のショックかもしれない。

  トランプ氏当選を受けてまず台頭した基本的なシナリオは、米経済が完全雇用に近い現状で、赤字財政によって需要が膨らめばインフレを加速させ、米金融当局は支出拡大の効果を相殺するために一段と積極的なペースでの引き締めを強いられるというものだった。

  こうした金融政策運営はトランプ大統領の経済政策の目標と対立し、金融当局とホワイトハウスが衝突するという筋書きだ。

米連邦準備制度理事会のイエレン議長
米連邦準備制度理事会のイエレン議長
Photographer: Pete Marovich/Bloomberg

  しかし、この論理展開では常に、対外セクターが難問の部分的な突破口となってきた。成長加速はドル高を招いて輸入品価格を押し下げ、増大する内需を海外の生産者に振り向ける。輸入品の値下がりはインフレ圧力を和らげ、金融当局の負担も多少軽減される。言い換えれば、米国の貿易赤字拡大により、政権との衝突につながるような金利の大幅引き上げなしで内需の増大を可能にする。

  これがホワイトハウスと金融当局との対立を回避する部分的な解決策にすぎない理由には、ドル高が米製造業の重しになる点が挙げられる。貿易赤字拡大を容認すれば増大する内需をカバーできるが、製造業部門の雇用は打撃を受ける。そして、トランプ氏が公約に掲げてきたのは同部門の雇用を保護して増やすことだ。

  トランプ氏は本気でこの約束を守ろうとしているようだ。だが、そうなれば米国は国際貿易という安全弁を失うことになる。国家通商会議(NTC)のナバロ委員長は、国際的なサプライチェーンを米国本土に取り戻したい考えだが、それには時間がかかり、その間にインフレ高進が予想される。

逆回転と悪循環

  北米自由貿易協定(NAFTA)発効後の世界では、こうしたサプライチェーンが広がり、耐久財価格は大幅に下落した。この世界的な流れを逆行させるなら、正反対の事態が予想される。さらにトランプ氏の政策では、インフレ高進の下で米金融当局が利上げで内需の伸びを抑制しようとしても、海外に内需を振り向ける余地は小さくなる。この結果、急増する内需に金融当局は一層積極的にブレーキをかけなければならない。

  高めの金利は一段のドル高につながると想定され、ドル安を志向していると受け止められるトランプ氏らの通商政策にここでも金融政策が衝突することになる。ナバロ氏はユーロが「甚だしく過小評価」されていると指摘。トランプ氏は、中国と日本がそれぞれの通貨を操作して押し下げるのを、米国は「間抜けな集団」のように傍観してきたと主張した。

  それでも、ドル安はインフレ圧力をあおり、米金融当局にさらなる引き締めを促す。それがドル高圧力を高めてトランプ政権に目標達成をあらためて阻害する。

  結局のところ、新政権が推し進めようとしている通商やドル、移民をめぐる政策は供給サイドのショックと捉えるのがベストだ。その帰結は成長鈍化とインフレ圧力の高まりであり、金融当局は苦境に陥ることになる。ショックは恐らく、最近の商品相場高に絡んだものよりずっと深刻となりそうだ。金融当局は商品値上がりを一時的なものとして受け流し、ほとんど対応を必要としなかったためだ。これに対し、政権の対外政策の転換の場合、衝撃はもっと長期的で、金融当局の対処の仕方もそれに相応したものでなければならない。

(この寄稿を書いたティム・ドイ氏は米オレゴン大学の教授で、「 ティム・ドイのフェッドウオッチ」の執筆者です。この寄稿文の内容は 同氏自身の見解です。このコラムの内容は必ずしもブルームバーグ・エル・ピー編集部の意見を反映するものではありません)

原題:Trump’s Hard Line on Trade Puts the Fed in a Quandary: Prophets(抜粋)

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