昨年のグループ世界販売で5年ぶりに首位を逃したトヨタ自動車にとって、今後の最大の不透明要因は米国のドナルド・トランプ大統領になりそうだ。

  トヨタの大竹哲也常務は6日の都内の決算会見で、現時点でトランプ政権の影響を見通すのは難しいとし、その動向をみてグループとも連携する考えを示した。2017年度見通しの前提となる世界経済情勢については、米国の新政権誕生で景気回復期待が生じており、穏やかな成長を続ける見方を示した。一方で、リスクについても米国新政権を挙げ、通商政策が世界貿易に影響する可能性を指摘した。

トランプ大統領
トランプ大統領
Photographer: Andrew Harrer/Bloomberg

  今年の米国市場については、前年比2%程度減少の約1720万台と予想しているが、トヨタ車の販売は小型SUV「C-HR」など新型車の好調で前年並みを維持する見込みと述べた。トランプ氏は米国での雇用や生産能力の増強を各社に求めているが、大竹常務は、米国の生産能力には余力がなく、「増設にはかなりのリードタイムが必要であることはご理解いただきたい」と話した。国内生産300万台を維持する方針には変わりないとも語った。

  トヨタは売り上げの約38%を北米事業から稼ぎ出しており、米国が主力市場だ。その大統領のトランプ氏は就任前から、北米自由貿易協定(NAFTA)を問題視し、一定条件の域内貿易に関税がかからないため、自動車メーカーなどが労務費の安いメキシコの工場で生産して、製品を米国へ輸出していることが国内雇用に悪影響を与えているなどと批判していた。また、日本などの通貨が過小評価されており、為替を円安誘導しているとのではないかと考えを示した。

対米貿易摩擦のほうがリスク

  ジェフリーズの中西孝樹アナリストは、日本の自動車メーカーには国内から米国への輸出問題のほうが深刻だという。北米自由貿易協定(NAFTA)の見直し交渉よりも、米国との貿易摩擦のほうが大きなリスクとみている。

  米国内の雇用が海外の工場に奪われているとのトランプ氏の批判を受けて、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)とフォード・モーターが米国での新規投資や追加雇用を発表し、トランプ氏は1月9日にツイッターで両社を賞賛した。

  一方、トランプ氏は1月5日にツイッターへの投稿で「トヨタは米国向けカローラの生産工場をメキシコのバハに新設すると言っている。とんでもない!米国に工場を建設しろ、さもなければ高い関税を支払え」とコメントしていた。

  トヨタは米ミシシッピ州の工場で小型車「カローラ」を組み立てており、2015年初めに累計50万台余りを生産した。メキシコではカローラの新工場を建設する計画だが、予定地はグアナフアト州アパセオエルグランデ。米国の国境沿いにあるメキシコのバハカリフォルニア州ティファナには工場を持っており、ピックアップトラック「タコマ」を生産している。

  トヨタはこのほか、カナダの工場でカローラやレクサスのSUVモデル、SUV「RAV4」をつくっており、15年に約59万台の生産実績がある。トヨタは16年に米国販売車のうち約49%を現地生産しており、北米販売車のうち現地生産車は約73%を占めていた。

  トランプ氏の批判の後、トヨタは米国時間で1月9日、米国で今後5年間に100億ドルを投資する方針を表明した。豊田章男社長は同日の米デトロイト自動車ショーで、トヨタは過去60年間に米国で220億ドルを投資してきたとし、米国で現在、車の開発・生産・販売に約13万6000人が従事していると話した。同24日には、その第1弾となるインディアナ工場への追加投資を発表した。インディアナでは工場全体の刷新に約6億ドルを投資し、19年秋からSUV「ハイランダー」の年間生産能力を約4万台増強するなどで新規雇用400人程度を予定している。

米国に生産移管なら国内に影響

  SBI証券の遠藤功治アナリストは、トヨタのメキシコ生産は他の日本車メーカーに比べると比率が低いとし、米国販売車のうち5%程度がメキシコ生産と指摘、ホンダは約2割、日産自動車やマツダが約3割という。むしろ、トヨタが米国に生産移管を進めようとすれば、日本で工場を閉鎖したり、雇用を減らしたりする必要が出てくるとし、部品メーカーには経営が危うくなるところも出るかもしれないとみている。

  トランプ氏と側近は1月31日、通貨が過小評価されていると日本とドイツに矛先を向け、対米貿易で不公正な優位を享受しているとの批判を、中国とメキシコ以外にも広げた。トランプ氏は、他国が自国通貨の下落を誘導するのを米国は実験場のように黙って見ているだけだと話した。

  自動車などの日米貿易は不公正で米国側が不利とみているトランプ氏に対して、安倍晋三首相は10日に訪米し、首脳会談にのぞむ。安倍首相は1日の国会答弁で、必要があれば自動車問題について話をすると述べた。1月28日の電話会談では、日本の自動車輸出の状況などについて説明したほか、トヨタの中型セダン「カムリ」の米国生産では部品の現地調達率が75%と米ビッグスリーよりも高いなどと伝えたことを明らかにした。

  安倍首相は同じ答弁で、日本が円安誘導しているとのトランプ発言に反論。2%の物価安定目標を達成するため、日本銀行に適切な金融政策を委ねており、「円安誘導という批判は当たらない」と話した。必要なら米側に日本の姿勢を説明する考えを示した。

  トヨタの早川茂専務は6日の決算会見で、日米首脳会談で両国経済発展に向けて意思疎通を図ってほしいと期待を表明した。

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