為替の円安や原油価格の反転により、日本銀行が四半期に1度公表している物価見通しは久しぶりにほぼ据え置かれた。しかし、誕生したばかりのトランプ米新大統領の通商政策や為替政策をめぐる不透明感もあり、リスクは依然下向きだ。実際、決定会合後に落ち着いていた円相場はトランプ大統領らの通貨をめぐる発言で急上昇している。

  日銀は1月31日示した経済・物価情勢の展望(展望リポート)で、消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の見通し(政策委員の中央値)を、16年度分こそ前年比0.1%低下から0.2%低下へ小幅下方修正したが、17年度は1.5%上昇、18年度は1.7%上昇といずれも据え置いた。

記者会見する黒田総裁
記者会見する黒田総裁
Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  大和証券の野口麻衣子シニアエコノミストは同日付のリポートで、17、18年度とも「委員見通しの『中央値』は不変だが、『平均値』を計算してみると、やや上昇している」と指摘。物価見通しに対する日銀の自信は「少しずつ増しつつあるとみて良さそうだ」という。

  ブルームバーグがエコノミスト42人を対象に実施した事前調査では、黒田総裁の任期の18年4月まで追加緩和はないとの見方が37人(88%)と圧倒的多数を占めた一方、任期中に長期国債買い入れ増加ペースの年「80兆円」のめどを減額ないしめどの公表自体を取りやめるとの予想が24人、長短金利操作の下で現在0%の長期金利を引き上げるとの予想が15人と、引き締め方向の見方が徐々に増えている。

  野村証券の美和卓チーフエコノミストは31日付のリポートで、「米長期金利上振れ予想、米ドル高・円安持続予想が根強いことから、市場では引き締め方向への政策変更の観測が残存しやすい」と指摘する。

引き続き物価見通しには懐疑的

  しかし、これまで下方修正の連続だった日銀の物価見通しだけに、エコノミストの受け止めは慎重だ。SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは同日付リポートで、成長率見通しが上方修正されたのに物価見通しが変わらなかったのは、日銀が「成長や需給ギャップ変動が物価へ及ぼす影響が想定より弱い、もしくは他の要因、つまり期待インフレ率や春闘の動向などが期待外れと認めているに等しい」という。

  丸山氏はその上で、「2018年度ごろ」としている物価目標の達成時期は「押し迫るまで変更されないが、達成への道のりは相当に厳しいと言える」と指摘する。

  各委員のリスク評価を見ると、17、18年度とも9人中5人が自らの見通しに対して「下振れリスクが大きい」と考えており、これは3カ月前と変わっていない。昨年11月の前回展望リポートで、最も高い見通しは17年度が1.8%上昇、18年度が2.0%上昇だったが、今回はそれぞれ1.7%上昇、1.9%上昇に下がっている。

  東海東京調査センターの武藤弘明チーフエコノミストは同日付のリポートで、「これは彼らのメインシナリオに対する確信度自体が“怪しい”といえる分布である」と指摘。このリスク分布をみる限り「近い将来に日銀は再び物価見通しの引き下げを余儀なくされると思われる」という。

家賃下落は超金融緩和が助長

  BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは同日付のリポートで、「0%強にアンカリングされているインフレ予想を2%程度にリアンカリングすべく、日銀が無理を承知で2%程度に達する時期を2年程度先の18年度と掲げているため、常に予測が下振れリスクにさらされているのはやむを得ない」という。

  日銀は展望リポートで、物価の下振れリスク要因として「マクロ的な需給バランスに対する価格の感応度が低い品目がある」ことを挙げた上で、特に「公共料金や一部のサービス価格などは、労働需給が引き締まる中でも依然鈍い動きを続けているほか、家賃は最近下落幅が拡大しており、想定以上に物価上昇率を抑制する可能性がある」と指摘した。

  河野氏は家賃の下落について、「統計的問題だけでなく、日銀の超低金利政策の効果で貸家の過剰なストックが積み上げられている影響もある」と指摘。もちろん、「近年は、税制変更が貸家の過剰ストック蓄積の主要因」としながらも、「日銀の超金融緩和が助長しているのは否めない」という。

先行きはトランプ大統領と為替次第

  こうした国内の事情に加わったのがトランプ要因だ。みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは同日のリポートで、「電子部品などの輸出が足元好調に推移している上に、昨年11月からの『トランプラリー』で円安・株高が進んだことが追い風になっており、日銀の景気見通しは強気に傾いている」と指摘。2%達成見通しが今後後ずれしても、「物価上昇の『モメンタム』が維持されているという理屈を日銀がつけられる限り、それは追加緩和には直結しないだろう」とみる。

  しかし、「米トランプ政権の保護主義的な施策が世界経済に混乱を巻き起こすことが警戒されるようになっており、自動車をめぐる日米貿易摩擦の再燃リスクも意識されている」と指摘。「日銀は昨年9月に金融緩和の枠組みを『長期戦・持久戦』対応へ切り替えており、容易なことでは追加緩和観測は浮上しない」とし、金融政策が近い将来に変更されるかどうかやそうした観測が浮上するかは「ひとえに為替次第」とみている。

  黒田総裁自身も記者会見で、米国の経済政策は世界経済や国際金融市場に大きな影響があると指摘し、その方向性や影響は「注視してみていきたい」と語った。

   トランプ大統領は1月31日、他国が自国通貨の下落を誘導するのを米国は実験ダミーのように黙って見ているだけだと苦言。またトランプ政権が新設した国家通商会議(NTC)のナバロ委員長はこれより先、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)とのインタビューで、ユーロは「甚だしく過小評価されている」と批判した。日銀会合後1ドル=113円台半ば辺りで推移していたドル円相場は急落し、日本時間1日朝は112円70銭前後となっている。

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