開業、社長就任など新たな門出を祝い、店舗やオフィスを彩る胡蝶蘭は贈答用生花の定番だ。日本の花卉(かき)市場がこの20年で縮小する中、胡蝶蘭の取扱高は緩やかに拡大。個人にとどまらず、法人間の付き合いにも浸透した日本人の義理堅さが需要を支えている。

田中豊社長
田中豊社長
Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  胡蝶蘭を中心とした生花卸企業のアートグリーンは、こうした習わしに商機を見いだし、一昨年に株式上場を果たした。田中豊社長(51)はブルームバーグのインタビューで、「日本には人間関係を大切にする文化が根付いており、企業間でも贈答の世界が根強くある」と指摘。「欧米、韓国でも胡蝶蘭は流通しているが、3万円という値段で流通しているのは日本だけ。心を商品に乗せて贈るとき、クオリティーを重要視する国」と胡蝶蘭ビジネスの成長性に自信を示す。

  日本花き卸売市場協会によれば、切り花や鉢物など花き全体の2015年の取扱高(加盟会員の主要市場ベース)は2720億円。10年前から14%減り、20年前の3455億円からは2割以上減少した。一方、胡蝶蘭は99億円とリーマン・ショック前でピークだった07年の102億円からは減っているが、20年前から13%増えている。単価(鉢物)も20年前の2858円から4095円に上昇。田中社長は、贈答用として胡蝶蘭が人気を集める理由について、匂いがなく、年間を通して同じ品質の花がそろいやすい点を挙げる。ビジネスの世界で花を贈る風習がなくならない限り、「胡蝶蘭に代わるようなものはない」と言う。

  明治期に洋ラン栽培で知られた三井農園を前身とし、120年近い歴史を持つ第一園芸によると、日本で洋ラン需要が高まるきっかけを作ったのは戦後の進駐軍人で、同社では1955年ごろからアレンジした胡蝶蘭の販売を始めた。胡蝶蘭が市場に流通するようになったのは80年以降で、ベビーブーマーが結婚適齢期を迎え、結婚式の装飾向けに需要を広げていく。高級感から一般贈答用としても利用されるようになり、カトレアなど他のランよりも長持ちすることが人気に拍車を掛けた。

  アトグリンの売上高のおよそ6割を占めるのが、大手企業を対象にした生花取り扱い業務の代行事業。企業側は、グループ全体での生花の受注から配送までを同社にアウトソーシングし、経費や手間を省くことが可能だ。生花業界には小規模店が多く、高品質の胡蝶蘭を安定的に配送することは難しいが、同社では台湾で苗を栽培、花が咲く前に国内の契約農場などに移し、4カ所の作業場から全国配送するシステムを構築した。

贈答用の胡蝶蘭を届けるアートグリーンのスタッフ
贈答用の胡蝶蘭を届けるアートグリーンのスタッフ
Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  現在、生花店など700社ほどに胡蝶蘭を卸し、金融機関のグループ会社など250社ほどと生花取り扱いの代行業務を結ぶ。田中社長は、代行業務の契約は「月間3-4社ほど増えている。どこの花屋に頼むか決めていない法人はたくさんあり、その注文を全部取りにいく」とし、1社当たり年間3000万円規模になるケースがあることを明らかにした。

  田中社長は大学卒業後、ゴルフ場開発会社を経て、1991年に25歳でアートグリーンを起業した。上場企業の役員四季報の趣味欄上位が「園芸」だった点に注目、ゴルフ場会社時代に法人間のおもてなし文化にも触れ、花の中でも単価が高い胡蝶蘭を商材にすることを決めた。創業からおよそ四半世紀が過ぎた15年12月、名古屋証券取引所のセントレックス市場に株式上場を果たす。

  17年10月期業績は、売上高で前期比3.7%増の17億7900万円、営業利益で27%減の4000万円を計画。自社契約農場での生産比率を4割から7割にするための先行投資負担が今期は重しになるが、来期以降は増益回帰を目指している。

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