日本銀行は金融政策決定会合で31日、昨年9月に導入した長短金利操作付き量的・質的金融緩和の枠組みによる金融調節方針の維持を決定した。黒田東彦総裁は会合後の記者会見で、米国の経済政策は世界経済や国際金融市場に大きな影響があるとして、トランプ新大統領の政策や影響を注視する姿勢を示した。

  金融調節方針は、誘導目標である長期金利(10年物国債金利)を「0%程度」、短期金利(日銀当座預金の一部に適用する政策金利)を「マイナス0.1%」といずれも据え置いたほか、長期国債買い入れ(保有残高の年間増加額)のめどである「約80兆円」も維持。指数連動型上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(J-REIT)の買い入れ方針も据え置いた。

記者会見場での黒田総裁
記者会見場での黒田総裁
Photographer: kiyoshi Ota/Bloomberg

  四半期に1度の経済・物価見通しは、海外経済の改善や円安などを背景に実質成長率を上方修正する一方、物価はほぼ据え置いた。前会合に続き、木内登英、佐藤健裕両審議委員が長短金利操作等の金融調節方針に反対した。ブルームバーグがエコノミスト42人を対象に実施した事前調査では、全員が現状維持を予想していた。会合では3月に期限が来る「貸出増加を支援するための資金供給」と「成長基盤強化を支援するための資金供給」などの1年間延長も決定した。

  黒田総裁は記者会見でトランプ米政権が今後のリスク要因になるかとの質問に対し、一般的に減税やインフラ投資などでは経済成長を押し上げる方向に働くが、保護主義的な政策は「世界貿易を縮小させたり世界経済を減速させたりする懸念がある」と指摘。一方で、自由貿易の重要性は国際的に広く認識されているとして、世界的に保護主義が広がる可能性は小さいとの見解を示した。 

展望リポート

  経済・物価情勢の展望(展望リポート)では、世界経済の改善や昨年12月の政府の国内総生産(GDP)統計見直しを受けて、17年度の実質GDP成長率の見通し(政策委員の中央値)を1.5%増と昨年11月の前回見通し(1.3%増)から上方修正した。

  従来「0%台前半」としていた潜在成長率もGDP統計の改定に伴い「0%台半ば程度」に上方修正した。足元の景気は「緩やかな回復基調を続けている」、先行きは「緩やかな拡大に転じていく」との見通しを維持した。

  消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)前年比の見通しは17年度が1.5%上昇、18年度が1.7%上昇といずれも前回見通しを据え置いた。物価が2%程度に達する時期も「見通し期間の終盤(18年度ごろ)になる可能性が高い」との見通しを据え置いた。

  見通しのリスクとしては「経済・物価ともに下振れリスクの方が大きい」と指摘。物価面では「2%の物価目標に向けたモメンタムは維持されているが、なお力強さに欠け、引き続き注意深く点検していく必要がある」としている。

  政策委員見通しの中央値(単位%、カッコ内は昨年11月の見通し)

 16年度 17年度 18年度
CPI(除く生鮮) -0.2(-0.1) 1.5(1.5) 1.7(1.7)
GDP(実質) 1.4(1.0) 1.5(1.3) 1.1(0.9)

 
   昨年11月の米大統領選でのトランプ氏勝利以降、大規模な財政出動への期待から米長期金利が上昇、為替相場のドル高・円安が進行していたが、足元では新大統領などの発言により為替相場が振れる展開が続いている。黒田総裁は記者会見で為替相場について、金利差だけで決まるものではないと指摘し、経済実体を反映して安定的に推移するのが望ましいと述べた。日銀会合前に1ドル=113円半ば近辺で取引されていたドル・円相場は会合後もほぼ変わらずで推移している。

緩和観測は沈静化、利上げ観測が浮上

  世界経済の改善や円高修正を受けて追加緩和期待がしぼむ一方、コアCPI前年比が今年末から来年初にかけて1%に達するとの見方から、引き締め方向の見方が徐々に増えている。ブルームバーグ調査では、黒田総裁の任期中に長期国債買い入れ増加ペースのめどを減額、ないしめどの公表自体を取りやめると予想したのが24人、長短金利操作の下でターゲットである長期金利を引き上げるとの予想は15人に達した。

  しかし、事情に詳しい複数の関係者によると、日銀は物価上昇率がたとえ1%に達しても、長期金利の誘導目標引き上げには慎重なスタンスで臨む構えだ。2000年のゼロ金利政策の解除や、06年の量的緩和政策の解除とそれに続く2度の利上げが時期尚早だったと批判を浴びた経験から、日銀内では金融引き締めを急ぎ過ぎるリスクが強く意識されているためだ。

  黒田総裁は記者会見で、金融緩和の出口を議論するのは「時期尚早」と述べ、「市場に余計な混乱をさせるのは適切ではない」と述べた。また日銀の日々の金融市場調節は「需給動向、市場環境を踏まえて実務的に決められる」として、先行きの政策運営姿勢を示すものではないと説明。金融政策運営方針は毎回の金融政策決定会合で示されると語った。 

  日銀は展望リポートで、政策運営について「今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、物価目標に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う」とのスタンスを維持した。

  決定会合の「主な意見」は2月8日、「議事要旨」は3月22日に公表する。決定会合や金融経済月報などの予定は日銀がウェブサイトで公表している。

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