ドイツ銀行がウォール街で働く幹部レスリー・スローバー氏をフロリダ州ジャクソンビルに拡大中の拠点の責任者にした時、同氏はライフスタイルの違いに戸惑った。高層ビルと地下鉄の代わりに、池と広大な駐車場を備えた敷地内に職場がある。会社の隣には新しいタウンハウスが並び、そこに住んでいる従業員もいる。同氏は久しぶりに車の運転もしなければならなくなった。

  「難しい。マンハッタンとは違う」と米北東部でのキャリアが長かった同氏は言う。フロリダ州北部のこの街へニューヨークから異動してきた人たちは最初、異世界からやって来たように感じる。しかしこうした人の数は増えている。ドイツ銀行やオーストラリアのマッコーリー銀行など国際的な金融機関が幹部らをここに異動させつつある。

  ニューヨークなどコストの高い金融センターから、海外(オフショア)に人を移すのではなく近場(ニアショア)に移すこうした傾向がウォール街で広がっている。ジャクソンビルにはバンク・オブ・アメリカ(BofA)とシティグループ、JPモルガン・チェース、ウェルズ・ファーゴの従業員も1万9000人余りいる。ゴールドマン・サックス・グループはソルトレークシティ(ユタ州)、スイスのUBSはナッシュビル(テネシー州)に同様の拠点を持つ。海外に雇用を移転せずに収益率を上げる手段だ。幸いなことにトランプ新大統領の要請とも合致する。

  こうした地方都市の拠点にまず配属されたのは主に会計士やテクノロジースタッフ、弁護士などの後方支援部隊だった。だがドイツ銀の場合、今ではジャクソンビルの人員が約2000人と2013年の1400人から増え、米国内で2番目に大きい拠点へと成長。人員は今年も増える見込みだ。

  この拠点は銀行の米国業務の縮図となりつつある。人口池の横のビルの中では若手トレーダーがニューヨークの同僚と一緒に売買をしている。セールス要員はウォール街から生中継される映像を見ながら顧客の注文をニューヨークに取り次ぐ。ジャクソンビルとニューヨークの職場が同じフロアでつながっているようだと話すスローバー氏は、フロリダの生活を楽しむようになった。

  不動産仲介のジョーンズ・ラング・ラサールによると、ジャクソンビルの高級オフィスの賃貸料は1平方フィート当たり22ドル前後。これはニューヨークのほぼ4分の1だという。また、地元商工会議所の一部門であるジャックスUSA・パートナーシップのシニア・バイスプレジデント、キャシー・チェンバース氏は、ジャクソンビルの金融機関従業員の報酬はニューヨークよりも平均30%程度低いと話す。

  マッコーリーが昨年開いたジャクソンビル拠点で責任者を務めるアンソニー・グレン氏にとっては、報酬は相対的に少ないとしても、午後に近くのビーチでサーフィンができることや車で15分の通勤という利点がある。「ライフスタイルの選択だ。報酬減と生活の質の大幅な向上との比較の問題になる」と同氏は語った。結論として、ウォール街からの移民たちはジャクソンビルに適応しつつある。

原題:Wall Street Banks Are Hiring Across U.S., Not So Much in New York(抜粋)

最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE