トランプ米大統領は、オバマ前政権が日本など11カ国と取りまとめた野心的な環太平洋連携協定(TPP)にとどめを刺した。大統領はそれでも、アジア太平洋地域の各国との2国間自由貿易協定を目指す意向を示唆した。その第一弾は日本を相手国とすべきだ。

  誤解のないように言えば、どのような2国間協定であってもTPPにははるかに及ばない。TPPでは貿易障壁の削減だけでなく、労働や環境の基準引き上げ、国内経済改革の推進、世界で最も急速に成長している地域と米国を結ぶ新たなサプライチェーン構築の後押しなどにつながるはずだった。

  しかし、世界最大と同3位の経済大国である日米両国は、TPP全参加国の国内総生産(GDP)の75%余りを占め、日米のモノとサービスの貿易額が年間で計2000億ドル(約22兆7000億円)近くに上ることを踏まえれると、両国の2国間協定は世界が保護主義に傾斜しつつあるとの懸念を少なくとも和らげることができる。

TPP離脱の大統領令に署名するトランプ氏
TPP離脱の大統領令に署名するトランプ氏
Photographer: Ron Sachs/Pool via Bloomberg

  さらに、日本は米国にとって揺るぎない同盟国であり、米国の繁栄を何十年も支えてきた自由秩序の擁護者だ。米国への好意が一定しないフィリピンなども含め、日本はアジア太平洋地域の国々との良好な関係と、こうした国々への影響力を維持している。これら諸国は少なくとも中国からと同じくらい、日本から投資や専門知識、機器類を得たいと望んでいる。トランプ政権の下で米国がアジア関与を後退させれば、今度は日本がインド、オーストラリアと共に、自由でルールに基づいた秩序の擁護で頼りにされる存在になる必要が出てくる。

  TPPは日本経済を強化するはずだった。安倍晋三首相は、農業を含む日本の最も硬直したセクターの一部を開放するのにTPPが役立つとの期待もあって、幾つかの苦痛に満ちた譲歩をした。こうした改革は経済成長を回復させ、アジアにおける安全保障環境を日本が確保するための資源を確実に保持するのに不可欠だ。

  安倍政権との難しい交渉の多くはTPPのために既に行われており、新たな協定の詳細を解決するのは比較的容易だろう。TPPのうち国有企業や労働・環境基準などに関する一定の側面は削除ないし簡素化も可能だ。オリジナルの取り決め内容が2国間協定でもおおむね温存されれば、TPPの利益の多くを双方が享受することになり、将来的にTPPを全面復活させる可能性も残せることになる。他の参加国は現段階でも米国抜きでTPPを進めることも依然可能だ。

  上記に代わる選択肢は日本を見捨てて安倍首相の立場を弱くし、米国のためにリスクを取るのは割に合わないとのメッセージを他の同盟国に送ることだろう。トランプ大統領は大統領令への署名一つで既に米国とアジアとの通商関係に大いなるダメージをもたらした。大統領は今こそ修復可能な部分で行動を起こすべきだ。

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