日本銀行は2006年7月から12月に開いた金融政策決定会合の議事録を公表した。5年続いた量的緩和政策を3月に解除した後、7月にゼロ金利政策からも脱却。翌07年2月には2度目の利上げにこぎつけたが、その後は米国発の金融バブル崩壊を受けて利上げ路線を断念。今に至るまで、量的緩和解除やその後の利上げは時期尚早だったとの批判を浴びている。

  議事録(肩書はいずれも当時)によれば、ゼロ金利解除は政策委員の全員一致で決まり、半年ほど後の追加利上げも視野に入れていたが、その後の消費者物価指数(CPI)の基準年改定や経済指標の悪化、市場との対話の混乱などから、年末にかけて逆風が強まっていった様子が引き彫りになっている。

日銀
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Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  2006年3月、日銀は量的緩和政策を終了して金利政策に復帰、「経済・物価情勢の変化に応じて徐々に調整を行う」と利上げに前向きな姿勢を表明していた。

  こうした中、福井俊彦総裁が同6月、代表がインサイダー取引の疑いで逮捕された通称村上ファンドに対し、富士通総研理事長時代に1000万円を拠出していたことを明らかにし、この問題が金融政策運営にも影を落とした。しかし福井総裁は同月の講演で、「早めに、小刻みに、しかしゆっくりと政策対応していくという、非常に難しい局面にわれわれは差し掛かっている」と述べ、ゼロ金利脱却へ地ならしを行った。

市場はゼロ金利解除を織り込み

  そして迎えた7月14日の決定会合。福間年勝審議委員は「市場金利やオペの金利をみると、量的緩和政策解除から4カ月程度をかけて幾分大きな変動を経験しながらも、最近では5月鉱工業生産指数、5月CPIや短観等、ファンダメンタルズに関する材料などを基に、今次会合における0.25%程度の利上げを織り込んで安定してきている」と指摘した。

  水野温氏審議委員も「つい先日まで福井議長の資金拠出問題がネックとなり、日銀の金融政策判断が縛られるのでは、という指摘が金融市場でも大勢を占めようとしていたが、今ではそのイシューと金融政策運営は別問題であるというように、市場参加者は解釈している」と語った。

  こうした意見を受けて、福井総裁は「皆さま方のご意見は0.25%前後で推移するよう促す、0.25%引き上げるということで完全に意見の一致をみていると受け止めさせていただいた」と述べ、全員一致でゼロ金利の解除が決まった。7月のゼロ金利解除を織り込んでいた市場の関心は既に、次の利上げの時期に移っていた。

次の利上げは半年後か

  福間委員は同会合で、次の利上げまでの期間について「私個人としては目安としては、少なくとも半年程度は取れるのではないかと考えている」と指摘。水野委員も「次の利上げの時期は半年くらい先かなと思っている」と述べた。8月11日の決定会合では春英彦審議委員が「市場では年末ないし来年初めのタイミングで、年度内にあと1回の追加利上げを予想する向きが大勢のようである」と述べており、日銀、市場とも半年に一度ペースの利上げという見方を共有しつつあった。

  そこに不透明要素として加わったのが8月に発表された消費者物価指数(CPI)の基準年の改定だ。量的緩和解除の決め手となった1月の生鮮食品を除くコアCPI前年比が0.5%上昇から0.1%低下へ大幅に下方修正されたほか、7月までの平均で0.5ポイント引き下げられた。9月8日の会合では、現副総裁の中曽宏金融市場局長が「CPIの基準改定を契機に、各種指標から見る限り次回の利上げ期待は後退し、金利がかなり大きく低下している」と述べた。

  もう1つの懸念材料は米国の住宅市場の変調だった。野田忠男審議委員は10月31日の会合で、「最大のリスク要因は、米国経済の下振れである。住宅市場の調整が個人消費全般に及び、それが企業部門のアブソーバーとしての能力を超えて進んだ場合、米国経済が一挙に減速するリスクは、可能性は低いものの、依然として残っている」と語った。

超低金利の長期化の弊害

  そうした懸念材料があったにもかかわらず日銀が利上げ路線を進んだのは、超低金利が長く続くリスクを意識したためだ。須田美矢子審議委員は10月13日の会合で、「超低金利が長く続く弊害についても考えておく必要がある」と指摘。福井総裁も「今日出た議論の中で、あらためてだが、須田委員の言葉を借りれば『超低金利が長く続くリスク』ということをやはり念頭に置きながら、今後しっかり物を考えていく必要がある」と呼応した。

  10月31日の会合では福間委員も「景気拡大の期間が長くなれば、いずれ物価に加えて資産価格にも影響が出る可能性もあるため、これらの動向を総合的にウオッチしていく必要がある」と発言。須田委員は11月16日の会合で「次回の政策決定会合以降、展望リポートで示した標準シナリオをトレースしているという判断を今以上の確信を持ってできるのであれば、実質的な緩和度合いがバブル期以上に強まっている状況下、政策変更についてはちゅうちょなく検討すべきだ」と一歩踏み込んだ。

  委員らが追加利上げに前のめりの姿勢で迎えた12月。西村清彦審議委員が6日に松本市内で会見し、「市場が十分に消化し切れていなくてもやらなければならないという時があるかもしれない」と語ったことで、一気に追加利上げ観測に火が付いた。

政治の圧力

  ところがこれに水をかける情報が日銀サイドから発信された。時事通信は9日、家計部門や物価の動向を見極めた上で実施すべきだとする匿名の日銀幹部の発言を引用し、年内の追加利上げは見送られる公算が大きいと報道。14日付の日本経済新聞も、日銀が19日の決定会合で利上げを見送る見通しと報じた。

  8日に発表された7-9月期の実質国内総生産(GDP)改定値が速報値の前期比0.5%増から0.2%増へ下方修正されたことも逆風となったほか、政治の圧力も強まっていた。自民党の中川秀直幹事長は自身のホームページで、「日銀が『平成の関東軍』などといわれることのないことを期待する」と述べ、戦時中に指揮官のメンツで戦線拡大を行い敗戦に導いた関東軍になぞらえて、日銀を強くけん制した。

  19日の会合では、須田委員が「経済・物価情勢とは全く別の次元で、本行関係者の直接的なメッセージにより、市場が右往左往した感は否めない」と指摘。こうした事態は「金融政策のクレディビリティを失うことにもつながりかねない」と苦言を呈した。しかし、その須田委員も0.1%上昇まで鈍化した足元のコアCPI前年比や、さえない個人消費を目の当たりにし、「現時点では前回決定会合時点よりも確信が持てるとは言い切れない」とトーンダウンした。

  春委員も「1月を含め適当なタイミングで異例の超低金利の調整を一歩進めることが適当」と述べ、追加利上げは年明け以降に持ち越された。

10年後の決定会合でも批判的な意見

  結局、07年1月会合で須田、水野、野田の3委員が追加利上げを提案したものの、反対多数で否決。同年2月会合で岩田一政副総裁の反対を振り切り2度目の利上げに踏み切ったが、懸念された通り米国の住宅バブルが崩壊。同年8月にはサブプライムローン問題が表面化したパリバショック、翌08年9月にはリーマンショックに見舞われ、利上げ路線はとん挫。06年3月の量的緩和の解除とその後2度の利上げは時期尚早だったという批判は今なお根強く残っている。

  安倍晋三首相も14年3月の国会答弁で、「量的緩和の解除、ゼロ金利の解除の判断についてもやはり早かったというふうに考えている」と述べ、当時の官房長官の立場でも「政府としては反対をしていた」と明言している。

  10年後に開かれた昨年12月19、20日の金融政策決定会合の「主な意見」では、「大恐慌時のFRBの早過ぎた出口、日本の早過ぎたゼロ金利と量的緩和の解除などの経験を踏まえれば、2%の物価目標を達成するためには、相当の期間、現在の金利水準で長短金利操作付き量的・質的金融緩和を続けるべきである」との意見が紹介された。

次の利上げは

  市場の一部では、コアCPI前年比が1%程度まで上昇すれば、0%程度としている長期金利(10年物国債利回り)の誘導水準を今秋にも引き上げるのではないか、との見方が浮上している。

  しかし、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニアマーケットエコノミストは19日付のリポートで、「2%到達も確実視できない段階で、日銀があえて長期金利の誘導水準引き上げに踏み切る必要性は小さいのではないか」と指摘。19年度まで短期政策金利、長期金利の誘導目標とも19年度まで据え置かれると予想している。

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