ウォール街で働くあなたは若くて出世意欲がある。出社時間は誰よりも早く、オフィスを出るのは一番後。週末も働いて、トレーディングの良いアイデアがひらめけば何時だろうと同僚にメールする。こうした行動が意味するのは何だかお分かりだろうか。「ならず者トレーダー」になる可能性が高い人物として、あなたは既にマークされている。

  トレーダー監視の素晴らしき新世界へようこそ。ここでは元ゴールドマン・サックス・グループのリサーチアナリスト、アーキン・アディロフ氏がUBSグループのトム・ヘイズ元トレーダーやソシエテ・ジェネラルで巨額損失を出したジェローム・ケルビエル氏ら、これまでの数々のならず者の行動を基に銀行業界での悪事に関するデータシステムを構築している。従業員の音声記録に示されるストレスの度合いや社内休憩室を訪れる回数に至るまで、あらゆるデータを分析し、新興企業ビハボックスのアディロフ氏率いるチームは金融機関の社員の中からならず者予備軍を割り出す。

  まるで空想科学小説の世界のようだが、ヘッジファンド運営会社マーシャル・ウェイスやディーラー間ブローカーのTP・ICAPは既にこのソフトウエアを活用して従業員を監視している。大手投資銀行や商品ディーラーの一部も試験活用を始めた。マネーロンダリング(資金洗浄)や市場操作などの不正を問われた複数の銀行が過去8年間に支払った総額は2000億ドル(約22兆9000億円)を超え、再発防止に向けビハボックスのような新興企業を頼りにしている。

  キルギス出身のアディロフ氏(33)は「従業員の行動を把握しなければ、危ない」とトレーダー特有の歯切れの良い早口で語る。「一部の銀行はどれだけ危険にさらされているかを知りたくないようだが、次に制裁金を支払うことになるのは、そのような銀行だ」と付け加えた。

Erkin Adylov
Erkin Adylov
Photographer: Jason Alden/Bloomberg

  当局の監視がこれまでにないほど強まり、金融機関は収入の約2割を規制順守のために費やし、従業員のコミュニケーションを監視する人材を大量に雇っている。こうした動向を促しているのは制裁金を科される脅威だけではない。昨年3月施行の新規則の下、英国ではシニアマネジャーが部下の責任を問われて禁錮判決を受ける可能性すら出てきた事情もある。

  ビハボックスはコンピューターが自ら理解を深めていくマシンラーニング(機械学習)という人工知能(AI)技術を使って、金融機関従業員の仕事時間のあらゆる側面を精査。膨大なデータの中から、通常とは異なる何かを認識し調査をさらに進める。その何かとは、大声で電話したり、夜中に仕事でコンピューターにアクセスしたり、同僚よりもトイレを使う回数が多いなど、何でもないように見えることかもしれないが、こうした行動をビハボックスのシステムは過去に道を踏み外したトレーダーのケーススタディーに照らし、一致点がないかどうかチェックする。

  トレーディングフロアの監視に似たような技術を使う企業がほかにもある中で、ビハボックスが一歩進んでいるのは、行動パターンの情報を集中的に保管するデータベースをまとめ、これに全ての顧客がアクセスできるようにする点だ。だが、それには顧客各社に内部で起きたちょっと聞かれては困るような情報の共有を納得してもらわなければならない。その同意がこれまでの3社から増えて十分に大きなネットワークができあがれば、銀行が自らを監視する方法が変わる可能性があるという。

原題:Bad Behavior Database Aims to Stop Rogue Traders Before They Act(抜粋)

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