日本銀行の黒田東彦総裁が悲観相場の最中で倍増させた国内株式の買い入れ。世界最大の資産運用会社、米ブラックロックは、ドナルド・トランプ次期米大統領の景気刺激策に対する「市場の陶酔」を生かし、日銀が減額できる機会が年央にも訪れるとみている。 

  ブラックロック・ジャパンの福島毅チーフ・インベストメント・オフィサーは、日銀は保有する指数連動型上場投資信託(ETF)を「7月か、少し手前ごろに減額していく選択肢も使うべきではないか」と指摘。購入額は1回750億円程度に上り、長く続けると「市場をゆがめ、株価がファンダメンタルズを反映できなくなってしまう」ため、「どこかでテーパリングせざるを得ないのではないか」とみている。

ブラックロック・ジャパンの番場悠債券戦略部長(左)と福島毅チーフ・インベストメント・オフィサー(右)
ブラックロック・ジャパンの番場悠債券戦略部長(左)と福島毅チーフ・インベストメント・オフィサー(右)
Photographer: Kevin Buckland/Bloomberg

  黒田総裁は2013年4月に導入した異次元金融緩和策の一環として、約1.5兆円だったETF保有額を2年間で2倍に増やすと決定。4年近くにわたる買い入れと規模拡大で、日銀のETF保有残高は今月10日に約11.3兆円に達した。日経平均は当時の2倍弱に上昇し、ボラティリティ(相場変動率)は昨年7月末の30超から足元で20未満に低下した。日銀が実質的に支配している国債市場を後追いしかねない情勢だ。

  福島氏は12日のインタビューで、仮に株価が大幅に下落すると、日銀の「バランスシートが傷んでしまう。中央銀行としての機能を考えれば、どこかで減らしていかないといけない」と指摘。ETFの購入を年6兆円から「5兆円や4兆円に減らしても大規模な買い入れには変わりがない」とし、本来は株高局面で「保有株を売った方が良いが、市場に『もう良いところまで来た』というメッセージを送ってしまいかねない難しさがある」と述べた。

  ブラックロックの番場悠債券戦略部長は今回のインタビューで、「米国は経済が非常に強い上、財政政策がかなりの確度で出てくる。金利とインフレ率は上がる世界観だ。リスクオンの地合いがこれから当面続くとみており、株式はオーバーウエート、債券はアンダーウエートになる」と説明。日本とアジア太平洋、新興国の株式はオーバーウエートとしている。

  福島氏は米欧で政治的な波乱を招いている「ポピュリズムのリスクは日本にはない。政治の安定は市場にとってもプラスだ」と言う。海外の株式運用責任者は昨年夏までは安倍晋三首相の「構造改革は進んでいないと日本株にネガティブだったが、英国やイタリア、米国の問題を経て、日本の安定性を評価するようになった」と説明。海外勢は「構造改革はJA全農の組織改革など、非常に緩やかにだが前進していると少し希望を持っている」と述べた。

株に強気な理由

  昨年は英国の欧州連合(EU)離脱選択をきっかけにリスク回避の動きが加速し、日経平均株価は6月に1万5000円の節目を割り込んで約1年8カ月ぶりの安値を付けたものの、秋以降は戻し基調を強めた。今年に入ってからは、20日に就任するトランプ氏の景気刺激策に対する期待を背景に2万円の大台に迫る場面があった。

  ブラックロックが今後も株式に強気である理由について、番場氏は、世界的な「政策レジームの転換と実体経済の改善がともに昨年夏ころに見て取れた」からだと説明。「トランプ相場はトランプ氏の当選前から始まっていた。何かと注目を集めがちだが、すでに吹いていた追い風をさらに強くしたものの、根本的なドライバー(相場の原動力)ではない」とみる。

  「リーマンショック以降の『デフレと金融政策』というレジームが『インフレと財政政策』に切り替わった。それなりの持続性を持つ大きな転換だ」。番場氏は相場を取り巻く環境の変化をこう指摘し、英EU離脱など「世界的な政治不安やポピュリズムの台頭が積極的な金融緩和による貧富の格差の拡大と絡んでいる。政治状況まで不安定になり、財政で動かざるを得ないという認識に変わり始めた」と言う。

  福島氏は実体経済の改善について、「トランプ氏の当選前から、世界経済のモメンタムは上方修正される局面に入っていたし、中国の生産者物価や米国の賃金などでみた物価はリフレの入り口に立っていた」と指摘。大規模な減税やインフラ投資を唱えるトランプ氏の当選が「ボーナスのような形で加わった」ため、株価上昇と共に日米金利差の拡大で円安・ドル高が進んだと述べた。円は昨年6月に13年11月以来の1ドル=99円台まで上昇したが、先月はトランプラリーの流れで一時118円台後半まで下落した。

  ブラックロックは日本国債については「それほど大きなポジションを取っていない」と説明。番場氏は日本も世界的な金利上昇の例外ではないが、異次元緩和の買い圧力が相当強い中で「デュレーションをアンダーウエートにする債券市場として日本を選ぶ必要はない。他の国・地域をアンダーウエートにしている」と話した。

  株式に強気で債券には慎重な見通しに対するリスク要因は何か。福島氏は中国景気の鈍化、欧州政治のポピュリズムとユーロ問題、トランプ次期米大統領の執行能力を挙げた。ただ、すでに市場で意識されているので「ブラックスワンではないし、グレースワンですらない」と指摘。番場氏は「世界経済への影響度合いでは英国やイタリアの政治リスクは中国経済に全く及ばない。中国が少しでもおかしくなると市場は非常に大きく反応する」とみる。

  福島氏は「人民元はトランプ氏から見れば安すぎるが、他通貨に対しては必ずしも安くない」と指摘。輸出入が大きい国にとって為替相場のボラティリティ上昇は望ましくないので、中国当局は市場の人民元売り圧力には「資本規制で対応し、米国に批判されるリスクはあっても変動相場制にはしない」と予想し、仮に実施すれば「ブラックスワンになるだろう」と語った。

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