国際通貨基金(IMF)チーフエコノミストを務めた経歴を持ち、現在は米ハーバード大学教授のケネス・ロゴフ氏は、ドナルド・トランプ氏が米大統領選に当選するのではないかと心配し始めた瞬間を正確に覚えている。それは、昨年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で当選はあり得ないと出席者らが話したときだ。

  ロゴフ氏は「ダボスを離れてから1000人には話した冗談だが、ダボスでの常識は常に間違っている。どんなにあり得なさそうなことでも、実際に起きる可能性が非常に高い事態はダボスでのコンセンサスの逆だ」と語る。

ダボス会議場
ダボス会議場
Photographer: Michele Limina/Bloomberg

  英国民投票での欧州連合(EU)離脱選択を含め、実業界や政界のエリートらは昨年の展開を正しく予想できず、今月ダボスに戻ってくる彼らはこの事実を面白おかしく捉えることができない。まさかの政治展開で金融市場が荒れ、ダボス会議常連のキャリアが絶たれた2016年を経て、今年の会議参加者を危惧させるのはダボスでの予想がしばしば外れるという認識ではなく、むしろ、その世界観が間違っているのではないかという懸念だ。

  約40年の歴史を持つダボス会議は、グローバリゼーションと開かれた市場を良しとする幅広いコンセンサスを育んできた。その中心には、財やモノ、ヒトは国境を越えて自由に移動すべきだとの考え方がある。この原則は高学歴で資金を持つ者には多大な恩恵をもたらす可能性があるが、持たざる者には脅威に映るようだ。17日から20日まで3000人が集まる今年の会議は、これについて深く考える場になるかもしれない。彼らが自問するであろうことは、ダボスでは知識人が世界で最も金をかけて思考回路を増幅するのがせいぜいで、最悪の場合、問題の一部になっているかもしれないということだ。

  調査会社IHSマークイットのチーフエコノミスト、ナリマン・ベーラベシュ氏は「リセッション(景気後退)以降の景気拡大は高所得層に恩恵を与えたが、中間層あるいはそれより下の人たちはほとんど何も得られなかった。それが反感につながった。ダボスの世界観は広範囲に及ぶ経済回復をもたらしてこなかった」と述べた。

  世界が長年かけて築いた絆をずたずたにしかねないポピュリズム(大衆迎合主義)の時代にわれわれが入りつつあるのは、疑いようがない。バンク・オブ・アメリカ(BofA)メリルリンチが先月実施した調査によると、債券投資家の3分の1近くがポピュリズムを最大の懸念材料に挙げた。この割合は10月の調査では9%だった。

  世界各地で見られるポピュリズムの波は、「文明の衝突」の著者である故サミュエル・ハンティントン氏がかつて「ダボスマン」と呼んだ世界のエリート層に最大の脅威を突き付けているかもしれない。08年に死去した同氏は米国人が増え続ける移民、特にメキシコからの移民や多国籍企業の影響力拡大にいずれ反発する可能性を指摘していた。

  ダボスの常連の一部は、ポピュリズムによって米国をはじめとする各国の先行きが暗くなるのではないかと懸念する。英オックスフォード大学のブラバトニック公共政策大学院のナイリー・ウッズ学長は「グローバリゼーション、スタグネーションおよび貧困、インターナショナルに関する3つの懸念が前回そろって出現したのは1929年の大恐慌の後だ。われわれは本当に、1930年代から教訓を学ぶ必要がある」と話す。

  今年のダボス会議の議題は、懸念の度合いをはっきり示している。例えば、心理学の専門家が「ナショナリスト的ポピュリズムの時代に適切な感情を育む」ことを考えるための材料を提供するセッションがあったり、「追い詰められて怒れる中間層の危機にどう対処するか」と題するセッションには国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事やヘッジファンド運用者のレイ・ダリオ氏が出席の予定。また今回の会議は、中国の習近平国家主席が初めて参加することでも注目されている。

  ダボスの参加者らは過去数十年支持してきた政策が依然として繁栄をもたらす最善の方法だと信じ、これを唱えるのをやめることはないとしている。それでも、そろそろ反省すべき時期かもしれない。ウッズ学長は「幾分か謙虚になる必要はあるだろう。エリート層は30年間、『誰にとっても機能するようにグローバリゼーションを進めていく』と話してきたが、その言葉をそのまま繰り返すわけにはいかないだろう」と述べた。

原題:Davos Wonders If It’s Part of the Problem(抜粋)

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