当時20代の若者がバブル崩壊後に起業したバス運行会社が、今では社員800人を擁するまでになった。利用者減少が続くバス業界にあって、早くから訪日外国人客を取り込んだり、ITを活かしたりして、急成長。来年12月をめどに上場を目指す。

  この会社は、埼玉県富士見市に本社を置く「平成エンタープライズ」。台湾人観光客の輸送からスタートして、個人がインターネットで予約する高速バス事業を10年ほど前から始め事業を拡大。田倉貴弥社長(51)は、上場の狙いについて「早い段階で引き継ぎして個人社長主導の会社から脱却し、長く会社を存続させたい」と話す。時価総額で100億円程度を目指すが、特定の目的で資金調達を目指しているわけではなく、退職金など福利厚生の充実を考えているという。

田倉貴弥社長
田倉貴弥社長
Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  田倉氏は自称「車の運転が好きなバスオタク」。創業のきっかけも「好きな車の運転で仕事をしたい」と考えたからだ。高校を中退して勤務した運送会社では早朝から深夜までの働きづめで体調を崩し、退職。外車を手放し、800万円で購入した中古バス1台を元手に商売を始めた。

  現在は高速バスやスクールバス、福祉リフトバスなどにも事業を広げ、保有台数は400台まで拡大。今期(2017年3月期)の連結業績は売上高は約70億円、純利益は約2億円の見込み。売上高で創業当時の約230倍に成長する。

  自家用車の伸びや人口減少を背景にバス業界は経営が厳しく、乗り合いバス事業者の7割は赤字で、上場企業は神奈川中央交通など4社しかない。同氏は「本来は新規上場が難しい業界」と話す。そうした中で自社が上場を目指せるのは、バス事業全体の収入の60%が高速バスの予約サイトなどインターネット経由で占められるなど、「IT系バス会社だからだ」と強調する。

台湾コネクション

  今でこそ訪日外国人観光客は約2403万人(16年)に急増しているが、バブル期の80年代はバス業界にとって国内観光が中心で、外国人客相手のビジネスは競争相手が少なかった。田倉氏が事業を手掛けたのは、父の知り合いの台湾人の旅行業者から、客の送迎と観光ツアーを頼まれたため。やがて台湾や香港から次々と仕事が入るようになり、90年ごろは伊丹空港や瀬戸大橋など「ぐるぐる回り、家には全く帰って来れなかった」。

  事業が軌道に乗ると、「バスを2-3台追加購入しては」と台湾の経営者から2000万円の融資を受けて3台に増やした。さらに華僑の経営者たちから1億円の融資を受けて、92年に会社を設立。創業に伴う1億3000万円近い借金は4-5年で返済した。

平成エンタープライズ経営のゲストハウスわさび
平成エンタープライズ経営のゲストハウスわさび
Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  同氏は「生活水準が上がると個人旅行は増える」と訪日客の一段の増加を見込んでおり、待ちの姿勢で受け入れるのではなく、中国語とタイ語の観光サイトでも呼び込みを図る。現在は宿泊施設も経営し、空港からの一貫サービスを提供。直営ゲストハウスを現在の5件から7件に増やすとともに、民泊参入を決め、住宅借り上げや購入を進めて3年で宿泊施設50カ所を目指している。

人手不足

  バス業界は長時間労働や低収入など就業環境が影響し、人材が集まりにくい。日本バス協会の資料によると運転者数は過去10年間、約13万人とほぼ横ばい。平均年齢は48.3歳と全産業平均の42歳を上回る。業界平均年収が440万円の運転手に対して、同社は年収550万ー600万円と2年間で15%引き上げたが、若い人からの応募は少ないという。田倉氏は「人が集まらなければバス会社に将来はない」と語る。

  それでも田倉氏は小さな元手を活かして、フルに働き、アイデア勝負で会社を育ててきた。中小企業庁の資料では、日本の新規開業率は4-5%と欧米の半分程度にとどまっており、起業は先進諸国のうち最も低調だ。同氏は現在は資金調達面で有利な環境にあるとして、エールを送る。「やるなら若いうちに起業することを勧める。好きなことで起業するなら苦労は感じないし、失敗してもまたチャレンジできる」。

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