年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が保有する内外株式の構成比が、運用改革後で初めて目標値に接近しているもようだ。超えれば売却に動いてもおかしくないが、トランプ相場の下ではどのタイミングで売ってくるのだろうか。

高橋GPIF理事長
高橋GPIF理事長
Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

 「日本株や外国株がアップサイドのギリギリの方に来ることも当然十分に考えられる」-。高橋則広理事長は6日の記者会見で目標値を上回った場合の対応について、構成比が運用方針に定められた乖離(かいり)許容幅を超えて上昇すれば売却に動くとし、柔軟性を持たせる方針を示唆。「乖離許容幅の中で調整しながらやっていくことに尽きる」と述べた。

  
 世界最大の年金基金、GPIFの運用資産は132.1兆円に上る。年金特別会計の約8.4兆円も含めた積立金全体に占める内外株式の目標値は25%ずつ。昨年9月末時点の保有比率は、国内株が22%、外株が21%だった。アムンディ・ジャパンはドナルド・トランプ次期米大統領の景気刺激策を先取りした世界的な株高と円安を背景に、この保有実勢が先週時点で合計50%の目標値に「もう近づいている」とみている。

  S&P500種株価指数は6日に過去最高値を更新。TOPIXは米大統領選挙の直後から先週末までの2カ月間で約2割、MSCIコクサイ指数は円換算で16%程度上昇した。ドル・円相場では10%を超える円安となった。一方、米バンク・オブ・アメリカ(BOA)メリルリンチの指標によれば、日本国債の収益率は同期間にマイナス1.57%と低迷した。安倍晋三首相の肝いりで実現した2014年10月の資産構成見直し後、GPIFの国内債券が目標値の35%を下回ったり、内外株式が25%を超えたことはない。

  アムンディの浜崎優市場経済調査部長は「円安・株高の好環境が当面続く。株価は日本企業の業績が上方修正される可能性をまだ十分に織り込んでいない。GPIFの運用資産は3月末には1年前を抜き、その後は昨年6月末の過去最高を更新していく」と予想。内外株式は「運用委員会の判断にもよるが、オーバーウエートになっても5%ポイント程度なら当面は持ち続ける可能性もある」と読む。

  GPIFは資産構成の見直しとともに、目標値からの乖離許容幅も変更。国内株は上下9%ずつ、外株は8%ずつ、国内債は10%ずつに広げた。投機的でなく確度の高い見通しが立つ限り、許容幅の中で機動的な運用も可能となっている。昨年5月に公表した基本ポートフォリオの検証報告では、当時は巨額の運用損が膨らんでいたものの、変更の必要はないと結論づけた。

  トランプ氏は大統領選で勝利してから初の記者会見を米国時間11日に行う。 市場関係者は同氏が唱える大規模な減税やインフラ投資、米企業が海外に置いている内部留保の国内還流策などに関する発言に注目。世界最大の資産運用会社、米ブラックロックは米国主導で名目成長率や賃金・物価の上昇が強まると予想し、債券より株式を選好している。

財政重視は悪くない流れ

  「トランプ氏がどうこうより、財政政策を少し生かした方が良い局面に来ている」。高橋理事長は、08年秋に発生したリーマンショックからの世界経済と金融資本市場の回復は中国の4兆元に上る景気対策と各国中銀による前例のない金融緩和のおかげとしながらも、金融政策への過度な依存への反省から、トランプ氏の当選前から世界的に財政出動が必要だという雰囲気だったと指摘した。

  「米企業が海外に留保している資金を米国に還流させて公共事業に生かす方が、FRB(米連邦準備制度理事会)が金融緩和をもう一度するより明らかに良い」ので、米経済政策の行方を「注目しているし、流れとしては悪くない」と分析。株価や為替相場の見通しにはコメントを控えたが「長期的に良い方向に来ている」とみており、分散投資で長期的な収益力を高める努力を続ける考えをあらためて示した。 

  クレディ・アグリコル証券の尾形和彦チーフエコノミストは、GPIFが保有する日本株の構成比について、もはや「ウエートだけの問題ではない。世界と日本の経済情勢や市場の分析、投資家動向など様々な要因を勘案し、最適なリスク・リターンを実現すべく努力するだろう。単に株価が上がったから日本株を売るという図式ではない」と述べた。

  GPIFの運用方針は公務員や大学関係者らが加入する三つの共済年金にも影響する。15年10月から積立金のうち約27.3兆円の運用目標やリスク管理をGPIFと一元化している上、独自の判断で運用する資金の大半に当たる約21.6兆円にも同じ資産構成の目標値を採用したためだ。3共済による資産構成の変更が進めば、合計約48.9兆円がGPIFと似た運用成績になる見通しだ。

  尾形氏は、世界的な株価・金利の上昇とドル高基調というトランプ相場は短期的な調整を挟みつつも、事前の期待や就任後100日間のメディアとの「ハネムーン期間」だけで終わる相場ではないと分析。「米大統領としての政策実現に向けた強い意志と努力があれば、日本経済やGPIFにとって追い風な状況が続く可能性がある」とみている。

  一方、SMBC日興証券の末沢豪謙金融財政アナリストは、今年は「酉(とり)騒ぐ」との格言通り、昨年以上に乱高下しがちな「ジェットコースター相場」になりかねないと指摘。その理由は、次期米政権に対して膨らみ過ぎた期待が春先以降にいったん剥落する上、日本でも秋以降はいつ衆院解散・総選挙があってもおかしくないという見方からだ。ただ、GPIFについては「乖離許容幅の中にいる間は急いで何かしなくてはならない状況ではない」とも言う。

  高橋理事長は、内外株式の構成比が高過ぎるのではないかとの一部批判に対しては「世界の年金、特に成熟した国の年金運用では本当はもっと株式を増やしても良いくらいの感じで分散している」と反論。「分散して長期で運用を続ける方が国内債だけに投資するより、ずっとリターンが高くなる。その収益を国民に還元する方が受託者責任を果たせるというのが私の信念だ」と語った。

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