「オバマ大統領は完全雇用に近い経済をトランプ次期大統領に手渡す」(ニューヨーク・タイムズ)。同紙はオバマ大統領の功績をたたえ、次期大統領の幸先良いスタートに期待している。

  米国で最も注目される経済データの一つである失業率は、確かにトランプ氏が勝利した2016年11月に4.6%まで下がった。歴代大統領の当選時点と比べると、カーター第39代大統領以降ではジョージ・W・ブッシュ第43代大統領の3.9%に次いで2番目に低い。ところが、最も好調な米国経済を引き継いだはずのブッシュ大統領が就任して2カ月後に、米経済は景気後退期に突入した。

  景気循環という点で幸運だったのはオバマ第44代大統領で、2009年1月の就任から5カ月後にグレートリセッションが谷を形成、緩やかながらもなお景気拡大期が続く中で、任期を終了する。同大統領の就任時の失業率は7.8%。その9カ月後に付けた10%をピークに、低下トレンドに転換、16年11月に4.6%まで改善した。

  オバマ大統領と似た軌跡をたどったのは、ビル・クリントン第42代大統領である。就任時の1993年1月に記録した失業率は7.3%と、オバマ大統領と同じ7%台だった。当時の米経済は景気後退の後遺症で「雇用なき景気回復」と呼ばれていた。このように景気後退の影響下にあり、高い失業率の下で就任した大統領の方が幸運に恵まれた。

  これは至極当然だ。景気後退に陥っても谷を形成すれば、山を登ること(景気拡大期)になるのだから。ブッシュ大統領は2001年1月、景気の山に登り詰める寸前のところで就任し、2カ月後に山頂に達し、景気後退に陥っていたのである。

  トランプ次期大統領下での米経済は、ブッシュ大統領の就任当時と同様、景気の山頂に向かっているように見える。あるいは既に山頂にあるのかもしれない。景気一致指標として優れたデータであるフルタイム就業者数は昨年8月に1億2425万6000人を記録し、今回の景気拡大局面でピークを付けている。

  12月のフルタイム就業者数は昨年8月を8000人下回っている。つまり、昨年末にかけてフルタイム就業者数はわずかながらマイナスに沈み、その間の就業者の増加分はすべてパートタイムということになる。これは極めて不健全な状況と言わざるを得ない。いずれの項目とも雇用統計の家計調査に基づいている。

  市場はじめ政策当局者もヘッドラインとなる雇用統計(事業所調査)に基づく非農業部門の雇用者数に注目し、なお強気の姿勢を維持している。しかし実相を見れば、極めて不安定になってきたことは否めない。

  トランプ大統領が引き継ぐ「完全雇用」の中身が、不完全であることは疑いない。だからこそ、「既存概念の否定」を唱えたトランプ氏が選挙戦で現政権党候補のヒラリー・クリントン氏を下したわけだ。

  トランプ大統領が引き継ぐ実体経済の不透明感もさることながら、ビル・クリントン大統領以降、景気循環とバブルの膨張と崩壊がほぼ同時に起こってきたことも見逃せない。

  特にオバマ政権下では、米国史上初のゼロ金利政策と量的緩和が実行されており、実体経済が減速している中で、異様な金融バブルが膨らんでいるように見える。S&P500種株価指数はオバマ大統領の一期目就任直後のボトムから16年の大統領選挙までに約220%上昇。さらにトランプ氏の当選後に約6%値上がりしている。これはブッシュ政権下のボトムからピークまで約100%上昇の倍を上回り、クリントン政権下のITバブル(約250%上昇)に接近中だ。

  一方、オバマ政権下で実体経済は弱くなってきた。実質国内総生産(GDP)の前年同期比の8年平均で比べると、オバマ政権下で実質GDPは前年比1.3%成長にとどまる。これは統計でさかのぼれる歴代12大統領のうち最も低い。「米国経済は停滞している」と批判し、既成システムの打破を旗印に勝利したトランプ氏の主張が正しいことを示している。

  実体経済の裏付けのない株価高騰は危うい。下記チャートの通り、今回の景気拡大局面では、成長力が弱まるなかで株価が著しく上昇している。これは今月のトランプ大統領就任の後いずれ訪れる景気後退とバブル崩壊の衝撃が、歴代大統領より過酷なものになることを示唆しているようだ。

(【米国ウオッチ】の内容は記者個人の見解です)
  
  

  

  

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